7-1:それは、海とともにやってきた
林間学校――。
響きだけは、なんとも爽やかで涼しげで、青春の汗と友情とカレーの香りが詰まっていそうなイベント名である。
だが、それを地獄の再来としか受け取れない者たちがいた。
――服部倉子(24)と、真田真子(24)。
制服を身にまとって女子高に潜入しているが、実は民間警備会社「セキュリティ・アテナ」に所属する現役SP。
彼女たちの任務はただひとつ――護衛対象であるお嬢様、氷室澪をあらゆる危険から守ること。
そのはずだった。
少なくとも、任務内容に「スクール水着を着ること」や「女子高生として浜辺で汗をかくこと」は書かれていなかった。
にもかかわらず。
「おはようございます、みなさん~! 本日より、2泊3日の林間学校、元気よく出発しましょう!」
朝の校庭でマイクを握る水無瀬先生(21歳・新卒担任)の声に、二人の頭が痛くなる。
「なんでこう……毎回元気なのかしら、この先生」
「脳内お花畑ってやつじゃないっスか?……てか先輩、今回も水着いるらしいッスよ」
「知ってるわよ。昨夜のプリントに**“現地では海でのレクリエーションを行います。水着必須”**って書いてあったもの」
「……またスク水……」
「……また地獄……」
彼女たちは顔を見合わせて、静かに震えた。
* * *
バスに揺られること約3時間。
到着したのは、南ヶ浜にある海浜研修施設。
目前に広がるのは、キラキラと輝く青い海と、白く広がる砂浜。
「――天気、良すぎない?」
日差しを浴びながら、倉子がぼそりと呟く。
「この天気、神様が悪ノリしてるとしか思えないッスよ……」
荷物を持って部屋に案内されたのち、すぐに生徒たちは海辺に集められた。
「それではこれより、班ごとに潮干狩りを行いま~す!」
水無瀬先生がハイテンションで叫ぶ。
生徒たちはワイワイと盛り上がり、バケツや熊手を手に楽しそうに砂浜へ走っていく。
……だが、その流れにまったく乗れていない2人の24歳。
「……潮干狩りって、何をどうすればいいのか正直わかってないんスけど」
真子が眉をひそめる。
「熊手で砂掘って、アサリを探すんじゃないの?」
「え、それ、なんか不審者感あるんスけど」
「制服着たまま校庭掘ってるほうが不審者よ。経験あるけど」
任務中に落とし物を探して掘り返した過去を思い出して、ふたりは一瞬無言になった。
* * *
実際の潮干狩りはというと――
澪は他の女子と楽しげに笑いながら、かわいらしくアサリを拾っていた。
その姿を陰から見守るふたり。もちろん、スクール水着姿。
「……真子、周囲の目線、ビシビシきてるわね」
「先輩、潮干狩りでこの露出は**情報量が多すぎるッス……**てか、ジャージって持ってきてませんでした?」
「忘れたわよ。昨日の夜、“絶対暑いから水着でいいでしょ”って思って荷物から外した」
「なんでそういうとこだけ前向きなんスか!」
――そしてその数分後。
蚊に刺される。
膝を泥まみれにする。
シャベルで指を軽くすりむく。
3連続ダメージで、ふたりのテンションは地を這っていた。
そんななか――。
「おふたりとも、潮干狩りお疲れさまです!」
笑顔で駆け寄ってきたのは澪。
手にはバケツ一杯のアサリ。
「見てください、いっぱい取れましたよ!」
にこにこと笑うその表情は、間違いなく**“護衛対象として最高の状態”**。
だが――
護衛する側は限界だった。
「……澪さん、それ、私たちが守ってきた“平穏の象徴”だと思ってありがたく見ますけど……」
「……あたしの精神、アサリの砂抜きより枯れてるッス……」
* * *
その日の午後。
次なるイベントは――カレー作り。
だが、ふたりはまだ知らなかった。
このあと、自分たちが“スクール水着姿のままエプロンを着る”という
ビジュアル的にアウトな歴史的瞬間に突入することを――。
承知しました!
以下に、生徒たちの“ひそひそ声”と**「スク水+エプロン=ほぼ裸エプロン」発言**を取り入れたうえで、
羞恥度最大の羞恥地獄回「7-2:スク水+エプロン=調理地獄」を改稿・再構成2000文字以上でお届けします。
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第7章:林間学校は、また水着でした
7-2:スク水+エプロン=調理地獄(改訂版)
午後の南ヶ浜。
心地よい潮風と蝉の声が交差するなか、炊事エリアでは班ごとに分かれてのカレー作りがスタートしていた。
火を起こす班。野菜を刻む班。水汲みに走る班。
賑やかな声とスパイスの香りが立ち込める中、**“最も視線を集める班”**がそこにあった。
班の中心には――
スクール水着+エプロン姿の女子高生(24)×2名。
すでに数々の羞恥イベントを経験してきた倉子と真子。
しかしこの日、彼女たちはついに新たな“地獄の壁”を突破してしまっていた。
「……先輩、なんでこんなことになったんスか……」
「知らないわよ……水着の上にエプロン着ればOKって、昨日の深夜の私が言ってた……」
その姿は、“ちょっと肌見せが多い女子高生”などというレベルではない。
スク水+エプロン=ほぼ裸エプロン。正面からの情報量が完全にバグっている。
そして、その“事故”を、当然ながら他の生徒たちも目撃していた。
「ちょ、見た?見た!?あのふたり……」
「スク水の上にエプロン……って、いや、正面から見たら完璧、裸エプロンだったからね!?」
「えぐい……あれ、バラエティ番組でもカットされるやつ……」
――そのひそひそ声が、風に乗って二人の耳に届いた瞬間。
「…………ッ!!」
倉子、動きが完全に止まる。
「……し、死んだ……今ので私の羞恥心、完全に死んだッス……」
真子も鍋に顔を突っ込まん勢いでうずくまる。
精神的即死。
まるでナイフのような囁きが、心臓に突き刺さるようだった。
* * *
そして、そこに追い打ちをかけるのが――
元凶・水無瀬先生(21)。
タブレットを片手に、何食わぬ顔で近づいてきた彼女は、さらりとこう言い放った。
「おふたりとも、なんでジャージに着替えなかったんですか?」
「は?」
「火を使うときは危ないですし、林のなかは蚊も多いですよ?
スク水のままだと、露出が高すぎてやけどとか虫刺されとか、危険ですよ~」
「――――」
ガタンッ!!
真子の手から、まな板が滑り落ちる。
「……先輩、聞きましたよね、今」
「ええ、聞いたわ。というか、聞き捨てならないわ。」
そして次の瞬間――
「早く言いなさああああああい!!!」
倉子と真子、絶叫。
「なんで今言うの!? この格好で調理始めて、どれだけ視線のナイフ浴びたと思ってるのよ!!」
「私、今朝まで“名誉の職務”だと思ってたSPの誇り、スク水の縫い目ごと破れたッスよ!?」
水無瀬先生は肩をすくめ、悪びれもせず言った。
「だって、言う必要もない常識でしょう?」
「常識!? 私たち、常識から最も遠い制服生活送ってますけど!?」
「24歳でスク水着て、エプロンつけてカレー作ってる人間に、常識って言葉通じると思ってます!?」
* * *
結局、ふたりは物陰に隠れてジャージに着替えることに。
それでも、最初の“裸エプロン状態”を見た生徒たちの記憶から、あの衝撃映像は消えなかった。
「なんかこう……トラウマと伝説が一度にきた感じだよね」
「後世に語り継がれる……『スク水エプロン事件』として……」
耳を塞ぎたくなる声が、またも風に乗って聞こえてきた。
「……先輩、帰ったら転職考えるッス」
「それより、SPの業務内容に“羞恥心への耐性訓練”って項目追加してもらうよう進言するわ……」
* * *
ようやくジャージに着替えてからのカレー作りは、非常にスムーズだった。
火加減、食材カット、煮込み、すべてが効率的。
澪も感動するほどのプロの手際。
「……おふたり、本当にすごいですね……!」
「任務だから」
倉子は淡々と答える。
「ジャージを着ている間は、羞恥心ゼロで任務に集中できるッス」
結果として、澪班のカレーは味も見た目も最高だった。
だが食後、誰かがポツリと呟いた。
「でもあの格好はヤバかったよね……裸エプロン、正面から見たら“アウト”ってやつ……」
その言葉に、倉子と真子は、そっと顔を覆った。
「……恥ずか死ぬ……その⑥……」
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