目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第33話ー呪術師の罠ー

侯爵様がお部屋を出て行き、私は部屋に一人になる。何が起こっているというのだろう? ソファーに座り、考える。王宮に来るという事は、私の両親の事故を引き起こしたであろう人物と会う可能性があるという事。そしてそれは入場の際に見たラザール・ノディエである可能性が高い。彼は王室お抱えの魔法師だと言っていた。


でも何故、私の両親が殺されなければならなかったのか。


それが分からない。リシャール家の滅亡を狙っている? 侯爵様は私が天使の加護の力を持って生まれて来ているとそう言っていたけれど。それなら王室が私を望むのは分かるけれど、両親を殺す必要があっただろうか。私を手っ取り早く手に入れる為には…そうだ。私を王太子殿下の婚約者にすれば良い。


あの日、王宮に呼ばれていたのは私だった。でも私の代わりに両親が王宮に行ったのだ。そしてきっとそこで王太子殿下の婚約者に、という話が出たのだろう。両親がそれを拒んだから殺された…?


私が王宮に行っていたとして。王太子殿下の婚約者になれと言われて拒否出来ただろうか。家門の事も、この力の事も、何も知らない私が行っていたら、拒否出来ずに受け入れたかもしれない。王命ならばそれも仕方ない。でもそうはならなかった。


そこまで考えて、ふと気配を感じる。気付けば部屋に人が立っている。私がそれを察知して保護魔法を発動させようとしたけれど、魔法が使えない。立っていた男性は少し笑って言う。

「魔法が発動しませんか?」

そう言いながらその人が近付く。声を上げようとした瞬間、その人に口を塞がれる。

「おっと、いけませんねぇ。」

そう言いながら私の腕に何かを付ける。見ればそれは黒い石のブレスレットだった。

「これは魔封じのブレスレットでね。どんなに高位の魔法師でも、このブレスレットを付ければ、魔法を封じる事が出来るのですよ。」

塞がれた口にはハンカチがある。

「さぁ、眠ってください、手荒な真似はしたくないので。」

呼吸をしてはダメ…そう思った時には意識を失っていた。


◇◇◇


国王陛下に報告を上げる。国王陛下は眉をひそめて俺に聞く。

「呪術師が…?」

俺は国王陛下に頷く。

「はい、うちの騎士が痕跡を発見致しました。」

そして付け加えるように言う。

「最初に気配を感じたのはジャスミン嬢です。」

国王陛下は手を上げて、侍従を呼び、言う。

「王宮に間者かんじゃが入り込んだようだ、秘密裏に捜索を。」

侍従が頷き、下がる。

「そうか、リシャール家の令嬢が気取けどったか。」

国王陛下を見定める。呪術師は国王陛下の手の者かとも思ったが、様子を見る限りそうでは無いらしい。

「夜会は…」

国王陛下がそう言い掛けた時、バーンスタインの私設騎士団の騎士が駆け寄って来る。

「閣下!」

その剣幕に何かを察する。俺が騎士に近付くと騎士が言う。

「ジャスミン様がかどわかされました!」

それを聞いた国王陛下が言う。

「夜会は直ちに中止、王宮に居る者は誰一人、この王宮を出る事は許さん!」


◇◇◇


気付くと私はどこかに寝かされていた。ここは…? 一体、どこなのだろう? そう思って体を起こそうとしたけれど、体が動かない。

「無理に動かない方が良いですよ。」

その声の方を向くと、そこにはあの男性が立っている。徐々に事態が飲み込めて来る。体が動かないのは拘束されているからだ。魔封じのブレスレットと同じ素材だろうか、黒い石がはりつけのように私を固定している。

「いやぁ、ここまで上手く事が運ぶとは、思いませんでしたよ。」

その男性が言う。

「一体、何を…」

そこまで言うと、その男性が笑う。

「私はね、魔力を持つ者たちが大嫌いでね。」

そう言いながら私に近付く。

「生まれ付き魔力を持っているっていうだけで、特別扱い。魔法師だなんて言って持てはやされ、果ては王室お抱え? 生まれがどうであろうと魔力さえ持っていれば、将来は安泰だなんて言われる。」

その男性が私の顔を撫でる。

「そしてそのさいたるものがリシャール家ですよ。天使の加護だか何だかっていう力を持って生まれて来る人間が居るらしいと聞きましてね。」

その男性が顔を近付ける。

「しかもそんな強大な力を持って生まれて来ているのに、この美しさ、だ。」

目の前でその男性が言う。

「天は二物を与えず、なんて言いますがね、そんなのは嘘だ。」

その男性の手が私の体を撫でる。

「天は二物も三物も与えるのですよ。あなたのように。」

その男性に体を撫でられて悪寒が走る。急にその男性が顔を抑えて私から離れる。

「くっ…」

苦しみ出したその男性は顔を抑えて、両膝を地面に付く。

「あぁぁぁ…!!!」

大声を上げたその男性が息を切らしながら立ち上がる。その顔を見て息を飲む。その男性の顔が先程とは全然違う。

「見てくださいよ、この顔。呪術ではあの美しい顔を維持する事も出来ないのです。」

そう言ったその男性の顔は火で焼かれたようにただれている。

「魔法でも姿を変える事は一時的です。」

そう言うとその男性が笑う。

「確かにその通りです、でも魔法なら、痛みは伴わないでしょう?」

その男性は私に近付くと言う。

「私の顔をこんなふうにしたのは魔法師なのですよ。」

だから魔法師、魔法全体を憎んでいるというのだろうか。

「まぁその魔法師は呪術で殺してやりましたがね。」

そう言われて思い出す。ここ最近、魔法師の数が減っているというのは、もしかして…そう思う。

「魔法師を滅亡させて、呪術の世界を作るんですよ。」

そう言いながらその男性が私の体を撫でる。

「だが、あなたの力は惜しい。何せ天使の加護の力ですからね。」

急にその空間に人の気配が増える。

「だからあなたの天使の加護の力を奪ってやる事にしたんです。」

見れば深くフードを被った何人もの呪術師たちが私とその男性を囲んでいる。そして、その呪術師たちの中に見覚えのある人が居た。けれど様子がおかしい。

「マデリン…」

私がそう言うとその男性が言う。

「あぁ、彼女ですか?」

男性はそう言うと、両脇を抱えられていたマデリンを連れて来る。近付いて来て初めて分かった。マデリンの胸には大きな穴が空いている。

「彼女には入れ物になって貰います。あなたの天使の加護の力を入れておく入れ物ですよ。」

私はその男性に聞く。

「マデリンは生きているのですか?」

そう聞くとその男性が笑う。

「何故、そのような事をお聞きになるんでしょうか。」

胸に穴の開いたマデリンの髪を掴んで、その男性が言う。

「この女は、あなたを苦しめた女でしょう?」

そう言って笑う。

「まぁこれからもっとあなたを苦しめるでしょうが。」

マデリンの髪から手を離し、私に言う。

「大丈夫、生きてますよ。まだ、ね。」

呪術師たちが円陣を組んで、何やら呪文を唱え始める。

「あなたが天使の加護の力を素直に渡せば良いんです。それで彼女は元通り、健康な体になるでしょう。あなたの天使の加護の力を持ってね。」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?