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第16話

16話 冷やし焼きイモと新作メニュー。


 ジリジリと肌を刺すような日差しの中、焼き石にイモのミツがたれて、甘い香ばしい匂いがただよっている。


「ふぅ、あっついなぁー」


 したたる汗を拭きながら、必死に暑さと戦っていた。

 おいおい冗談だろ? 今年の夏と言う季節は特に暑いそうだ。

 焼きイモ屋ゲンちゃんは、今年も冷やし焼きイモを販売することになっている。

 毎年恒例みたいなのだが、俺にとっては初めての挑戦なんだ。

 美空に教えてもらった新しい作り方を取り入れて、もっと魅力的みりょくてきな商品を目指していた。


「今年の冷やし焼きイモは、もっと美味しくしてやるぜー!」


 自分に言い聞かせて、焼き上がったイモをアルミホイルに包み、扇風機の前に並べて粗熱あらねつを取る作業を進めた。

 冷やした焼きイモがどれだけ喜ばれるのか、期待でワクワクしていた。


★★★★


 夏の間は駐車場が駐車場けん、焼きイモの焼き場になっている。

 リビングのドアが開く音と〈チリン、チリリン〉とすずやかな鈴の音が聞こえた。


「おはよう。バート!」


 元気な声が聞こえたので顔を上げると、笑顔の美空が駐車場に顔を出した。


「おはよう、美空! 今日はすごい物があるんだぜぇ。焼きイモソフトクリーム食べてみる?」


 ニヤニヤしながら俺は美空に声を掛けた。


「えっ、焼きイモソフトクリーム? 何それー、すごく楽しみ!」


 美空の期待に満ちた声が返って来たので、期待に応える出来になっているといいなーと思いながら、ソフトクリームメーカーの棒に手を掛けた。

 ソフトクリームメーカーの棒を下げると〈ウィーン〉という音がして、ふわふわの焼きイモソフトクリームが出てくる。

 美空のようにソフトクリームをコーンに綺麗きれいに巻けないのが残念だったが、自信じしん満々まんまんに胸を張って美空に見せた。


「美空、これが焼きイモソフトクリームだよ!」


「うわぁ、すごく美味しそう! 朝食前だけど、食べてみたーい!」


 声を弾ませて手を伸ばし、ソフトクリームを美空が受け取った。

 一口食べると、目を丸くして〈パチパチ〉とまばたきをして〈うん、うん〉と頷くと、俺にグッドのポーズをする。


「美味しいよー! バート。焼きイモの甘さとバニラソフトクリームが絶妙ぜつみょうに合っているよ!」


「よっしゃー、よかった!」


 言葉とともに、心の中では、大きく飛び跳ねて、大きくガッツポーズをした。

 美空のリアクションと感想は、俺の頑張がんばりを報いてくれて嬉しかった。


「新しい冷やし焼きイモも今日から出すから、楽しみにしていて!」


 冷蔵庫の扉を開けると冷たい空気が流れ込み、嬉しさで熱くなっているのか、暑さで熱くなっているのか分からない感覚を戻してくれる。

 俺は焼きイモを冷やすための準備を始めた。

 夏でも焼きイモ屋ゲンちゃんの焼きイモは、冷やし焼きイモを含め、全てまきを使い人力で焼いている。

 冷蔵庫で冷やした後、最高の食感と味わいを保つために冷蔵ケースに入れて、焼きイモを冷やした状態で提供をする。


「今日のは美空のアドバイスを活かして作っているから、美味しくなると思うぜぇ」


 美空に伝えると焼きイモソフトクリームを食べ終えて、俺にピースサインをして朝食の準備に台所に行った。

 目を閉じて、俺は想像をしていた……お客様がやってくる音、賑やかな声が〈ワイワイ〉と聞こえる。


〈バートさん、冷やし焼きイモ、おねがーい!〉


 お客様からの注文の声が聞こえる。

 その笑顔を思い浮かべながら手を動かし、一生懸命いっしょうけんめいに焼きイモの準備を進めた。


★★★★


 朝食を食べ終えて、玄人げんとがバンダナを頭に巻き、美空と俺とトラ先輩に告げた。


「さーて、開店の時間だぞ」


 美空と俺とトラ先輩は声を合わせた。


「今日も1日、頑張りましょう。『にゃー』」


「夏の暑さにピッタリな冷やし焼きイモは、いかがですか? 今日から発売の新作! 焼きイモソフトクリームもございますよー」


 美空が店の前を通る人達に、大きな声で呼び掛けている。

 トラ先輩は冷蔵ケースの上で、行き交う人達を見つめていた。

 玄人げんとと俺はイモを焼き、冷やす作業を続けていた。


「思っていたより美味しいよ~。口の中に入れると溶けていっちゃうよ~、冷やした焼きイモ!」


「だよねぇ~、歯は要らないよね~これなら。これ食べたらさぁ~焼きイモソフトのほうも……いっちゃっとく?」


「うん。いっちゃう、いっちゃうぅ~」



「あらあらぁ。今日もトラちゃんはカワイイわねぇ」


「にゃにゃぁー」


 お客様の笑い声や会話が聞こえてきて、頑張がんばって良かったと小さくガッツポーズをした。

 忙しくて大変な作業だったが、お客様の笑顔を見られると嬉しい気持ちでいっぱいになっていた。

 その後も俺はイモを焼き、ソフトクリームの準備を続ける。

 玄人げんとに声を掛けられるまで、一心不乱いっしんふらんに仕事を続けていた。


「今日も頑張がんばったなバート。夏場は売れ残りはないが、冷やしイモでも、焼きイモでも、食べてもいいからな!」


 閉店を知らせるメロディーがスピーカーから流れ始めて、本日の営業は終了した。

 玄人げんとは俺に微笑みかけてから、美空とトラ先輩にも『ご苦労様』と声をかけた。

 玄人げんとが店のシャッターを閉めて、本日の営業は終了した。

 新メニューがお客様に受け入れられたことに、俺は1日の疲労を忘れ、喜びを感じながら冷やし焼きイモを食べている。

 明日も、お客様の笑顔が見られるといいな~と思いつつ、片付けと明日の準備を始めた。


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