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第17話

17話 夜空に咲く綺麗きれいな爆弾?


 夏の夜、荒川の河川敷かせんじきは花火を楽しむ人々で賑わっていた。

 俺にとっては初めての花火大会に期待と不安が入り交じった気持ちで、会場に向かっている。


「わぁ、すごい。今年も花火を観に行く人達でいっぱいだねぇ」


 美空が周囲を見回しながら言った。

 美空は赤い浴衣を着て、その上に藍色あいいろの帯を結んでいる。

 普段見ない美空の浴衣姿に、俺はドキドキしていた。


「その浴衣、本当に似合っているよ。美空」


 ドキドキしているためか? 俺の素直な気持ちが出てしまった。


「ありがとう。バートも似合っているよ!」


 美空も照れくさそうに俺を見て、ニコリと微笑んだ。

 俺も玄人げんとが新調してくれた藍色あいいろの浴衣を着て、緊張しながら歩いていた。

 周囲では、人々の楽しそうな笑い声や話し声が聞こえる。

 俺達は、何とか土手と言うところに上がり、荒川のほうが見えるところをキープ出来た。

 しばらくすると、川のほうから何かの破裂音はれつおんが聞こえた。


〈ドン!〉という音と共に、夜空が一瞬にして明るく染まった。


 手元を見ていた俺は、その音を耳にした瞬間、戦闘体制になりそうになったが、その綺麗きれいな光景に目をうばわれた。

 色とりどりの花火が、まるでイグニス国の城の天井に描かれた壁画のように見えた。


「すごーい、見て! あれ綺麗きれい!」


 美空が指を差したので俺も顔を向けると、大きな花火が咲いて夜空をいろどった。

 その美しさに、俺はまた心をうばわれていた。


〈パーン!〉という音と共に大きな花火が咲く。


 俺はルノーン界で使っていた、火薬のことを思い出した。

 あの時は戦争のために使われて、恐れられていた。

 しかし今、目の前で起こっているのは、全く違う光景だった。

 見ている人々が歓声かんせいを上げて、笑顔を浮かべている。

 その様子を見て、俺は心の中で何かが変わるのを感じた。


「美空、花火って本当に素敵すてきだな。こんなふうに人を喜ばせることが出来るなんて知らなかったよ」


「うん。私も初めて見た時は綺麗きれい素敵すてきだなーと思ったよ」


 次々と打ち上げられる花火の音がひびき、心地よい風が荒川の河川敷かせんじきに吹いていた。


〈ドーン! パーン!〉


 夜空に大輪の花が次々と咲いていく様子を見て、その美しさに俺は、心が熱くなっているのを感じていた。

 花火が、ただの火薬のかたまりではなく、人々の心を繋げる感動の爆弾なんだな~と思った。


「バート見てぇ、あの大きな花火!」


 美空が指を差して俺に知らせてくれる。

 その方向に目を向けると、巨大な花火が夜空で開き、まるで星が降って来たかのように見えた。


(これが、花火の力なんだな)


 心からの笑顔を浮かべ、俺は美空に視線を向けた。

 美空もまた、感動に包まれた表情をしていた。

 周りの人達の拍手や歓声かんせいが聞こえる。


「今日は花火大会に連れてきてくれて、本当にありがとな。美空」


 素直な気持ちを美空に伝えると、美空も俺を見て優しく微笑んでいる。


「私もだよ、バート。これからも、いろんなことを一緒に楽しもうね!」


 その後、無意識むいしきに美空の手を取り、俺達は屋台の方へと向かった。


★★★★


 たこ焼き、お好み焼き、焼きそばのソースの焼ける、うまそうな匂い。

 そして、わた飴やりんご飴、カキ氷の甘い香りがただよってくる。


「バート、私カキ氷食べたいなぁー」


 美空が目を輝かせて言った。


「じゃあ、行こうか!」


 美空と手を繋ぎ、カキ氷の屋台へと向かった。


 屋台のほうからは、にぎやかな声や氷を削る〈シャリッ、シャリッ〉という音が聞こえる。


「イチゴとメロン、どっちがいい?」


 笑顔で美空が選ぶ様子を見ていると、温かい気持ちになり、俺も思わず笑顔になってしまう。


「俺はメロンがいいな!」


 指を差して笑顔で答える。


「じゃー、私はイチゴにする! 二つの味が楽しめるね!」


 嬉しそうに笑顔を向けて美空は言った。

〈シャリッ、シャリッ〉氷を削る音とともに、カキ氷がうつわに盛られる。

 俺達はカキ氷を受け取り、冷たさとシロップの甘い匂いに、ニコリと頬を緩めた。


「いただきまーす!」


 同時に言って食べ始めたが、美空がメロンのカキ氷を見つめている。


「なんだよ~美空ぁ、こっちも食べてみる?」


 俺が笑顔で聞くと、美空は頷き、スプーンに乗ったメロンのカキ氷を口に入れた。


「こっちも美味しいね!」


 美空が笑顔を見せたので、俺も自然と笑顔になっていた。

 美空が誰かとぶつかり、カキ氷をちょっと俺の浴衣にこぼした。


「わっ、バート、こぼれちゃった!」


 美空が慌てて、手で掃おうとしている。


「大丈夫だよ。美空」


 素早く立ち上がり、俺は浴衣にこぼれたカキ氷を掃った。

 その瞬間、夜空でまた花火が打ち上がり、2人の視線は再び空に向かった。


「わぁ、見て!」


 美空が音の方向に指を差した。

〈ドカン!〉という音と共に巨大な花火が咲く。


「美空、花火って最高だなぁ」


 心からの笑顔を浮かべ、美空を見たら美空も俺のことを見ていた。


(俺は、この世界にいつまで居られるのだろう?)


 分からない未来だが、しばしの間、静かにその瞬間を二人で楽しんだ。


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