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第19話

19話 美空とりょうちゃんと夏のコミックターゲット。


 夏のコミックターゲット会場は、熱気に包まれていた。

 色とりどりのコスプレイヤー達がポーズを決めて、カメラを持った人達が、コスプレイヤー達を囲んで楽しそうに写真を撮り合っている。

 今回の美空の衣装も心配なデザインでドキドキだし、りょうちゃんの衣装も下着が見えてしまわないかと、ハラハラとしてしまい不安だった。

 だが今回は、りょうちゃんから1つ教えてもらえたことがあるんだ。

 この世界には、水着と言う? 見せてもいい下着のような物があるらしい。


(よし! 心配事が1つへったぞ。だがしかしだ! 美空のポロリンだけはダメなんだ!)


 しかし、突如とつじょとしてひびき渡った叫び声が、会場の雰囲気を一変させる。

 美空とりょうちゃんは、目の前で起こった混乱におどろいて顔を見合わせた。


「どうしたの!? 何が起こったの!?」


「分からない? でも、何かあったみたい……」


 美空とりょうちゃんが不安そうな顔を、俺に向けた。

 心臓が高鳴るのを感じながら、俺も周りの様子を見回した。

 その時、アナウンスが流れ、会場に緊急事態が発生したことが伝えられた。


「爆発物を仕掛けたと脅迫きょうはくをされています。直ちに会場から退避して下さい!」


「え、脅迫きょうはく!? うそでしょ!?」


 美空は俺の腕に抱きつき、震えている。

 周りの観客たちは恐怖にられ、混乱の中でアチコチに逃げ出した。

 美空とりょうちゃんは、押し寄せる人々に押し流されて、あっ! という間にはなばなれになってしまった。


★★★★


「みそらー! りょうちゃーん!」


 必死に叫びながら2人の姿を探している。

 呪文、集音しゅうおんを使って声を探ったが、悲鳴や雑音が多くて聞き分けられない。

 周りの人々が押し寄せる中、なかなか2人を見付けることが出来なかった。


(クソ、落ち着け、俺。お前は元アサシンだろ! まずは2人を探すんだ!)


 心の中で自分を叱咤しったし、冷静さを保つように努めた。


「美空、りょうちゃん、ドコに居るんだー!」


 心配が募る中、一瞬、りょうちゃんの声を耳にした。


「バートくん、助けて!」


 その声を聞いた瞬間、俺は全力でその方向へと走り出す。

 人混みを掻き分けながら、周囲の状況を観察する。

 混乱の中で、爆弾が本当に爆発してしまったら……。


(美空、りょうちゃん、無事で居てくれ!)


 心の中で祈りながら、ようやく2人の姿を見付けた。


「バート!」


 美空が俺を見付けて、安堵あんどの表情で抱きついてきた。


「ココに居た! 怖かったよぉー」


「本当に良かった。まだ危ないから、早くココから出るぞ!」


 2人の手をつかみ、俺は急いで会場の出口へと向かった。


★★★★


「でも、どうしてこんなことが?」


 不安そうな表情を俺に向けて、りょうちゃんから尋ねられた。


「分からないけど、脅迫きょうはくみたいだ。だから急ごうぜ!」


 あせる気持ちを押し殺して、冷静に道を選んで進んでいた。

 すると、美空が俺にとんでもないことを言った。


「バートって、まるで疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ2のバート服部みたい……」


 俺の心臓が口から飛び出るぐらいの衝撃しょうげき発言だった。


(確かに今の俺の行動は、ゲームの主人公のようだろう。でもそれを今、言うのか)


 美空の疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ好きには頭が下がる思いだった。


「バート、私達を守ってくれる?」


 美空が少し不安そうに尋ねるので、俺はしっかりと頷いた。


「当たり前だろ! 2人は絶対に守るから、俺から離れるなよ!」


 俺の言葉に、緊張していた顔が少しやわらいで、美空は少し安心したようだった。


「でも、私達どうやって出るの?」


 周りを見渡しながら りょうちゃんが言った。


「出口は向こうだ! 急ごうぜ!」


 背の低い美空とりょうちゃんには出口が見えないようだ。

 俺は2人が分かるように指を差してから、再び前を向いて2人の手を軽く引いた。

 混乱の中、俺は2人をまもりながら出口へ向かう。

 心には、2人を守る強い決意が宿っていた。


(2人を救出するためならバレてもいい。最悪の場合は呪文を使ってでも……)


「バート、ありがとう。私達は絶対に無事に帰ろうね」


「OKだ! 美空。みんなで怪我けがをすることなく帰ろうぜ!」


 俺達は混乱の中を力強く進んでいく。

 周囲はパニック状態で、悲鳴や叫び声がひびいているので、誘導している人の声も、あまり聞き取れない。

 人々が押し寄せる中で、俺は冷静さを失わないように努めていた。


「バート、早くー!」


 美空が不安そうな声で、俺に叫ぶ。

 美空の手をしっかり握りながら、俺達は前へ進んだ。


「大丈夫、もう少しだから!」


 自分に言い聞かせるように、気合を入れ直して応じた。

 止まっては進み、止まっては進みを、しばらく繰り返していると、やっと出口が見えてきた。


「美空、りょうちゃん、出口だ!」


 美空とりょうちゃんはすぐに動き出して、俺の後ろを通り過ぎて出口へ向かった。

 その後を追って、俺も混乱の中を進んだ。


★★★★


 俺達はようやく会場の外に辿り着いたようだ。


「やったぞ! 全員無事だ! 良かったぁ」


「バート、『バートくん!』 ありがとう!」


 美空とりょうちゃんが俺に駆け寄り、抱きついてきた。

 その瞬間、安心したためか? 俺の心と体に温かい感情と17才の男子の熱い感情も同時に広がってしまった。

 4つの柔らかい感触に鼻血が出ちゃいそうになったが、なんとか何時もの俺を演じて、声が裏返らないように2人に声を掛けた。


「大丈夫。みんな無事だし、怪我けがもないし、良かったぜ」


 2人を無事に救出が出来たことと、17才の熱い○○○○がバレなかったことに安堵あんどして、俺は大きく息を吐いた。


「さあ、帰ろう。今日は大変だったけど、また楽しい思い出を作ろうぜぇ」 


「……」


 俺は2人に言ったが……俺達はコスプレの衣装のままだった。

 会場内では、あんなにキメキメだった2人は、外に出て何となく恥ずかしそうにしている。

 3時間後、警察の案内で着替えを済ませてイベントから解放された。

 脅迫きょうはくうそ脅迫きょうはくだったようで、爆発物は発見されなかった。


「次回は、楽しいイベントになるといいね!」


 美空とりょうちゃんが、俺に今日イチの笑顔を向けてくれた。

 こうして俺達は無事に会場を後にして、次のイベントで会う約束をして、駅で別れて帰宅した。



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