20話 疾風 激烈 アサシンズ マスターズ2(タクマルート)ルノーン界 始まる決戦。
タクマは、7年間の潜入調査を経て、フェリス姫がバートの双子の姉であることを知った。
しかし、バートはその事実を知らない。
タクマはバートが成長し、服部流の技術を覚え、鍛錬を積みながら真面目に生きる姿を見守っていた。
心の中で複雑な感情を抱いていた。
(バートは、フェリス姫が自分の姉だと知ったら、今回の勅令を受けることが出来たのだろうか?)
心の中でタクマは呟いた。
(いや、バートに任務の遂行はさせずに、フェリス姫の育ての親であるバン王とエミリア王妃を守ることが必要だ!)
(姫の育ての親を暗殺させる訳にはいかない……)
バン王とエミリア王妃の暗殺を阻止するため、密かに計画を練っていた。
そのために、タクマは自分が調合した新薬〈転移薬〉を使いウエルス国からの強制離脱を試みることにした。
(これでバートを守り、洗脳薬漬けになっているバン王とエミリア王妃を守れる)
拳を強く握りしめてタクマは思った。
★★★★
何も知らないバートは予定通りにウエルス国に潜入してきた。
計画通りにタクマは、任務を行っていた。
転移薬を飲まされたバートの周りには魔方陣が輝き、バートはその魔方陣とともに消えた。
しかし、バートが任務から1日が過ぎても、イグニス国に帰国することもなく、連絡もなかった。
そこで、帰国しないバートの代わりに、師匠であるロギーに暗殺の勅令が命じられた。
師匠は、ウエルス国に潜入することを決意した。
★★★★
タクマは、師匠がウエルス国に潜入していることを暗号で知り、師匠と接触するために向かっている。
師匠へ、バートの代わりに暗殺の勅令が出されたことを察していたからだ。
(まさか、バートはイグニスに帰国してないのか?)
様々ことを考えながら、タクマは暗号の場所に向かった。
「師匠、お待たせしてしまい申し訳ありません」
タクマは、7年ぶりに師匠と顔を合わせたが、師匠の顔は厳しい表情だった。
「タクマ、バートが帰国しないのだ! イグニスやトラビス国、タガーイ国にも居ないのだ」
「ドコに居るのだ? 任務は失敗したのか? 死末されてしまったのか?」
タクマは言葉を詰まらせていた。
(バートがイグニス国や他の国には居ない?)
「バートがルノーン界から消えてしまったのですか?」
師匠は驚き、眉をひそめた。
「どう言うことだ、タクマ。バートが消えたなんて」
タクマの作戦は大失敗だった。
タクマは師匠に今回の作戦と、ウエルス国のことを全て話すことにした。
「最近調合された妖術薬師の新薬の毒針の効果と、私が調合した転移薬が副作用を引き起こしたのだと思います」
「そのため、バートはルノーン界からも消えてしまったのだと思います」
師匠は深く考え込み、タクマの言葉を噛みし締めた。
「それは大誤算だ! バートが居ないとなると、我々の計画も狂ってしまう」
「申し訳ありません。師匠」
大きく頭を下げたあと、報告を続けるために、タクマは師匠と視線を合わせる。
「この度の侵略戦争は、妖術薬師ジュビルの仕業です」
「バン王とエミリア王妃を筆頭に、ウエルスの民が洗脳薬漬けになっているのも、ジュビルの仕業です」
「ジュビル……」
師匠は、視線を空に向け、ジュビルのことを話し始めた。
「ヤツの父ジュラルは、かつて洗脳薬を使いパーム国の影の王となった。タクマ、ルノーン界はかつて5つの国であったことはお前も知っているだろう?」
「ジュラルは、もう1つあったパーム国が滅ぼされることになった原因の張本人であり、洗脳薬を開発した魔法師教団の教祖だ!」
「ジュラルは妖術を込めた洗脳薬を開発し、パーム国王の一族を洗脳したあと、パームの民もその薬で洗脳をされていった」
「洗脳されたパームの民は、イグニスを占領しようと戦争を仕掛けてきたのだ」
「ジュラルの行動が引き金となり、我らは各国のアサシン連合部隊の協力を得て、不本意ながら魔法師教団を含めパーム国の民を全滅させたつもりだった。しかし、生き残りが居たようだな」
「その生き残りがジュビルだ!! ヤツは父の遺志を継ぎ、洗脳薬を使って新たな妖術薬を開発し、ルノーン界、全ての国に復習をしようと企んでいるのであろう……父と同じことを……愚かなヤツめが!」
(タクマ、お前もパームの民の生き残りなのだがな……)
師匠は空に向けていた視線を、タクマに向けた。
「解毒薬はあるのか? タクマ」
師匠が尋ねると、タクマは自信を持って頷いた。
「はい。やっと解毒薬が完成しました。なので今回は暗殺ではなく、解毒薬を服用させて、バン王とエミリア王妃を救うことを師匠にお願いしたいのです」
師匠はタクマの決意を尊重し、静かに目を閉じて頷いた。
「私はバートの代わりに、妖術薬師と戦うつもりです。侵略戦争を止めるために、妖術薬師と刺し違えてでも立ち向かいます」
師匠はタクマの強い意志に感心し、深く息を吐いた。
「タクマの覚悟は受け取った。しかし、無理をするな! 兄弟子を慕うバートのためにも、タクマ自身を大切にしなければならない」
師匠の目が鋭い目に変わった。
「1対1ならジュビルを止めることは可能かも知れんが、ジュビルのことだ、ウエルスの民を使うだろう……。それでも殺れるのか?」
「はい」
「なら我は解毒薬を王と王妃に服用させて、洗脳から解放する任務を受けよう」
「タクマ、服部流奥義の使用を許す! 死ぬなよタクマ。弟弟子のバートのためにも」
タクマは、師匠の言葉を胸に刻み、ルノーン界での激闘に備えるのだった。