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第23話

23話 玄人げんとの帰宅と完全攻略本の発売。


「発売されたよー。バート! 疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ2の完全攻略本」


 嬉しそうに美空がリビングにんできた。


「本当に? 早速買ってきたのか?」


 高鳴る気持ちを抑えながら俺は美空に視線を向けた。

 ルノーン界でのことを思い出しながら、ゲームがどのように進んでいるのかを考えていた。


「当然でしょ~! これを読めばゲームの全てが分かるんだからね」


 早く見たいのか? 美空は早速、完全攻略本を袋から取り出した。

 2人はリビングの椅子に座り、テーブルの上に攻略本を広げた。

 美空がページをめくるたびに、知らなかったことが知れて嬉しいのだろうな。

〈うん、うん〉と頷いたり、楽しそうな声や笑い声がリビングに心地よくひびいている。

 その様子を見ながら、俺の心の中では別の思いが渦巻うずまいていた。


「ねえ、バート。ここに、タクマがなんであの薬を使ったかの理由が載っているよ!」


 興奮した様子で美空に言われてので、その言葉に反応するかのように、俺の心臓はドキリとした。


「本当かぁ! どんなことが書いてあるんだ?」


 読むところを指差しながら、美空が説明をしてくれた。


「ここに、タクマがフェリス姫とバートのことを思って、あの薬を使ったって書いてある」


「そして、フェリス姫が実はバートのお姉さんだったんだってー! バートは双子だったみたいだよー」


 その言葉におどろき、俺の心が震えた。


(フェリス姫が……俺の姉?)


「そ、それはすごい展開だなー。美空」


 美空は、頷きながらビックリしている、俺の反応を見ていた。


「そうみたい! だからタクマは姫の育ての親を守るために、あの決断をしたみたいだよ」


「ウエルス国が侵略しんりゃく戦争せんそうを起こそうとしていたのは、妖術ようじゅつ薬師やくしにバン王が洗脳されていたからなんだってー」


 自分の心の中がメチャクチャになっていた。

 とんでもない情報ばかりで、頭が全然追いつけていない。

 だが、美空はドンドン新しい情報を俺に伝えてくれていた。


「美空、ちょっと待ってくれ……」


 親切に教えてくれていた美空に声を荒げてしまった。

 その言葉におどろいて、美空が俺の手を優しく握りしめてくれた。


「バート、どうしたの? 手、震えているよ?」


「美空ごめん、少し整理をさせてくれ」


 優しく微笑みながら頷くと、美空は攻略本を読み続けていた。

 俺は双子で、姉がフェリス姫。

 俺の任務にんむはバン王とエミリア王妃と妖術ようじゅつ薬師やくしの暗殺。

 姉の育ての親はバン王とエミリア王妃。

 2人の暗殺をさせないためにタクマにいが飲ませた薬。

 その2人を操り、侵略しんりゃく戦争せんそうを起こそうとしていた妖術妖術ようじゅつ薬師やくし


「つまり、このゲームの本当の敵は妖術妖術ようじゅつ薬師やくしかぁー!」


 俺が急に大きな声を上げたので、美空の体がビクリと跳ね上がった。


「も~ビックリしたじゃん。なにバート、情報の整理はできたの?」


「ごめん、ごめんな美空。情報が多すぎて、つながったから大きな声が出ちゃったんだ」


 頭をかきながら照れくささをよそおい、なんとか俺は、その場を誤魔化ごまかした。

 その後、タクマにいが俺の代わりに、かつての仲間と戦い、妖術妖術ようじゅつ薬師やくしと戦ったこと。

 師匠ししょうが俺の代わりに暗殺の勅令ちょくれいを受けて、ウエルス国に潜入して、タクマにい共闘きょうとうして、師匠ししょうがバン王とエミリア王妃に解毒薬げどくやくを飲ませて、正気に戻したこと。

 バン王とエミリア王妃が回復したことで、侵略しんりゃく戦争せんそうが回避されたことを、美空はまるで、語り部のように、身振みぶ手振てぶりを加えて楽しそうに話してくれたのだが……。

 俺は、自分がルノーン界から消える前のタクマにいの言葉が頭に浮かんだ。


「どこに行くか楽しみだな。バート」


(死ぬなよ。バート)


「もう二度と会うことはないだろうな。サヨウナラだ」


 タクマにいは、ジュビルと刺し違えても戦うつもりだったから、師匠ししょうにも告げていた。

 それは死の覚悟があったから、あの時、俺にも告げてくれたのか……。


(そう言えば俺のことは? あ、あれ? 俺のことが最初に出ただけで、全然出てこないぞ。俺って要らない子になったの? 忘れられちゃったの?)


 ドキドキしながら、俺は意をけっして美空に尋ねた。


「み、みそらさん、バートは、バート服部のことはフェリス姫と双子だったことしか書いてないの?」


 美空は俺のことを見て、ニヤリとした笑みをしてから、ドヤ顔をしながら言った。


〈チッチッチッ〉


「バートくーん、あせらない、あせらない」


「バート服部はね。ジュビルが開発した新薬の毒針の効果と、タクマが開発した転移薬てんいやくの効果が副作用を起こしてしまい、ルノーン界からも居なくなっちゃったみたいで、みんなが心配しているよ」


(ふぅ~、俺は要らない子になってなくて良かったー! 良かったーじゃーねーよ。本当に俺は、どうなるんだ)


 そんなことを思っていると、美空が大声を上げた。

 今度は俺が美空にビックリさせられた。


「なんだ美空。何が書いてあるんだ?」


 美空は完全攻略本を手に取り、開いて俺に見せた。

 それを見て俺も大きく目を開き、椅子から立ち上がってしまった。

 疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ3 最終決戦! 妖術妖術ようじゅつ薬師やくしジュビルの逆襲ぎゃくしゅうと書かれていた。

 美空を見ると、美空は目を輝かせている。

 俺が消えてからルノーン界がどうなったのかは分かったが、続きがあるのか……。

 どうやら続きには、話の流れからさっするに、俺にも関係がありそうだ……。


「ただいまー。美空、バート、トラー」


 玄人げんと慰安いあん旅行りょこうという任務にんむから帰ってきたようだ。

 心から安堵あんどして、俺は美空と目を合わせて笑顔を向けた。


「おかえりー。『にゃー』」


 玄人げんとはお土産を美空に渡して、美空に分からないように視線を俺に向けると、親指を首の前で横に引き……ニヤリと笑った。

 大きく頷き、俺も安堵あんどの笑顔を向けた。

 死導しどうという暗殺組織は、本当にすごい組織だということを知ることになった。

 なんと玄人げんとのターゲットの他にも、別に2名も玄人げんとの仲間、死導しどうの人間に命の炎を消されていた。

 翌日のニュースで、ターゲットは急性きゅうせい心不全しんふぜんという病名で亡くなったことを告げていた。


(あれ、玄人げんとが何かをしているようだ?)


 玄人げんとがオセロと言うゲームと爪楊枝つまようじの赤いふたを持ってきてテーブルの上においた。

 今回の任務にんむ死事しごと〉のことを話してくれた。

 赤いふたは、国民が必死に働いて納める血税と言う国を良くしてもらうために納めるお金、オセロのコマを出して黒と白でおいた。

 この国を良くしようと頑張っている政治家は、オセロの白いコマを使い、この国を良くしようとしてくれているそうだ。

 だが、今回のターゲットは血税と言う国民が納めるお金の赤と黒いコマを混ぜた色のドス黒いお金を使って、あるカラクリを使い、ドス黒いコマを白いコマに変えて私利私欲のために使っていたそうだ。

 話が止まり玄人げんとが黒いコマをひっくり返すと、そのコマは確かに白だった。


「国民の血税を何年も何年も、私利私欲のために使いやがって……」


「バレても少しの間おとなしくしていて、裏に入れば裏で同じことをしてやがる……胸糞むなくそ悪い……」


「バートには、この国がすごい国に見えているのかも知れない……それは見させられているだけで、っしてそんなことはないんだ」


「この国にはな、残念だが今日の飯さえも食えない人達が大勢いるんだよ……これがこの国の現実なんだ……」


「だから今回の死事しごとは、お頭様かしらさま逆鱗げきりんに触れたんだ! 依頼主が、お頭様かしらさまだからな」


「幹部の誰1人も、反対する者は居なかったんだよ……。こんな話しを朝から聞かせて済まなかったな。バート」


玄人げんと達、死導しどうは、ルノーン界で言う俺達と同じ、本物の悪を絶つのに必要な存在なんだと、話しを聞いて思った)


「これで少しも変わらなければ、日本は本当に終わりだな……」


 そうつぶやくと、吸っていたタバコを灰皿で消して、玄人げんとは今日の準備を始めた。


 俺も外に出て、怒りの感情を抑えている玄人げんとを見ながら、焼きイモ用の石を洗い始めた。


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