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第24話

24話 進む開発、始まる異変。


 この国の夏、今年は特別なようだ。

 8月が過ぎて、9月が終わりに近付いているのに、まだ冷やし焼きイモと焼きイモソフトクリームの販売が続いている。

 玄人げんとは、ルノーン界にもある、秋という季節の準備が整わないとボヤいている。

 周囲の変化に気を取られつつも、俺は心の中で何かが違うことを感じていた。

 疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ2の完全攻略本が発売されて以来、美空はその本を片手にゲームを進めている。

 美空の楽しそうな声が俺の部屋にも聞こえて、ゲームの楽しさが伝わってくる。

 しかし、その裏で俺の体には異変いへんが起こり始めていた。

 疾風しっぷう 激烈げきれつ アサシンズ マスターズ3の開発も順調に進んでいるようだ。

 何となく俺には分かる……。

 この頃から俺の体に異変いへんが起こり始めたのだ。


★★★★


 髪の毛を乾かそうとドライヤーを取ろうとした瞬間、手が透けて見え、ドライヤーを掴むことができなかった。

 その時、ふと鏡を見ると、自分の姿が砂嵐のようにぼやけている。

 おどろきと恐怖きょうふが同時に押し寄せ、胸がザワザワとする。

 なんでもない場所でコケることも増えて、周囲に迷惑を掛けてしまうことが多くなった。

 だが周りの人達には、誰かがコケたぐらいにしか思われていないようだ。

 美空と玄人げんとには、この異変いへんを感じ取られたくなかった。


「ねぇ、バート、最近元気ないよね? どうしたの、何かあったの?」


 美空が心配そうに声を掛けてきた。


「そうか? 何を言ってるんだよ美空。俺は元気だけが取り柄なんだぞぉ~」


 俺は笑顔を作って返したが、玄人げんとが少し考え込みながら言った。


「ああ、でもお前、最近あまり外に出てない気がする。本当に何もないのか?」


 その言葉に内心ドキリとするが、俺は笑いを交えながら玄人げんとに言った。


「そんなことないって、ちょっと夜遅くまで必殺! 暴れん坊の殿様のテレビを見ていて、睡眠不足なだけだよ。心配するなって玄人げんと


 必死に笑顔を作り、俺は玄人げんとと美空に向けた。

 玄人げんとと美空には、心配をさせたくなかった……。

 自分がこのまま消えてしまうのではないかという不安が、頭をよぎる。

 毎日をなんとか乗り切り、普段通りにおうと努力しているが、心の中ではあせりがつのるばかりだった。


「今日も大丈夫だ。俺はまだココに居る!」


 自分に言い聞かせながらなんとか笑顔を作るが、その笑顔はどこかギコチなく感じられた。

 周囲の人々が焼きイモの甘く香ばしい匂いを楽しむ中、俺だけがこの異変いへんの正体が何となく分かっている。


(このままではいけない)


 自分の状況を整理して、ゲームの開発がどのぐらいのスピードで進んでいるのか? そして何がなんでも最後まで、山島やましま刃痕バアトで居ることが必要だと、強く決意した。



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