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第25話

25話 美味しい焼きイモの季節が始まる。


 俺には、まだ寒い感覚はないのだが、焼きイモが恋しくなる季節が始まったようだ。

 移動販売、焼きイモ屋ゲンちゃんの車の周りには、早くも行列が出来ている。

 香ばしい匂いが鼻をくすぐり、その甘い味を思い浮かべると、自然と心がやわらぐ。

 しかし、俺の体の異変いへんはドンドン進行していた。

 玄人げんととの仕事中にも、手がスッとき消えてしまったり、足が急に軽くなったりして、バランスを崩してコケてしまうことが増えてきた。

 それでも、周りの人達には気付かれないようにい、心の中では(大丈夫、まだまだ頑張がんばれる!)と自分に言い聞かせている。


「バート、大丈夫か?」


 心配そうに玄人げんとが俺に声を掛ける。


「最近、なんだか元気がないように見えるぞ」


 俺は軽く笑って、玄人げんとに言った。


「なにを言ってるんだ玄人げんと。お客様がゲンちゃんの焼きイモを美味しそうに食べてくれているから、見ていて、腹がへってきちゃったんだよぉ~」


「お客様の分を俺が食べちゃう訳にはいかないだろぉー」


 そう言いながらも、内心は少しドキドキしていた。

 笑顔を見せることで、少しでも元気を出そうとした。

 玄人げんとは焼きイモを販売しながら、お客様とのやり取りを楽しんでいる。

 その横で俺も手伝いながら、焼きイモを待っているお客様の笑顔を見ていると、自然と心が温かくなる。

 特に、小さな子どもが目を輝かせて焼きイモを手にした時、その笑顔が俺の心をホッコリとさせてくれる。


★★★★


 ある日、焼きイモを新聞紙でくるんで渡した時、ふとした拍子に足がもつれてコケてしまった。


「バートさん、大丈夫?」


 周囲の人々やお客様が、おどろいた顔で俺を見つめている。

 恥ずかしさと恐怖心を隠して、すぐに立ち上がった。


「大丈夫だよ。心配しないでねー」


 大きく手を上げて振り、声を張り上げた。


「おい、無理するなよ」


「平気だよ。少し転んだだけだから」


 お客様に安心をしてもらうために、ダッシュから側転、バク転、連続宙返りと、連続で見せた。

 周りの人々やお客様も笑顔になり、拍手を送ってくれた。

 そんな温かい反応に、俺の心も少し軽くなっていた。

 焼きイモの香ばしい匂いが周囲に広がる中、自分の状況の整理をする。

 ゲームの開発が,さらに進んでいるのだろうと推測すいそくをした。

 ゲームの発売を楽しみにしている方々も居る。

 この異変いへんを、俺は受け入れなければならない。

 でも、お客様の笑顔は、俺に勇気を分けてもらえる。

 焼きイモを食べながら楽しそうに談笑だんしょうをしているお客様を見ると、不安な気持ちが落ち着く。

 俺は、この美味しい焼きイモを通じて、お客様の笑顔を見届けながら、最後の時がおとずれるまで、玄人げんとと美空とトラ先輩と共に、楽しい時間を過ごしていくことを心に決めた。



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