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第27話

27話 まさゆめ。


 どうやら俺は、この世界に居ることが限界のようだ。

 心のどこかで感じていたこの予感が、現実になろうとしている。

 呪文も唱えずに、俺の知らない魔方陣まほうじんが開き始める。

 最初は魔方陣まほうじんも途中で消えてしまう状態だったが、とうとう完全な形で魔方陣まほうじんが展開する。

 光が強くなり、俺の体がその光に包まれていく。

 意識が薄れていく中で、後悔の念が押し寄せる。

 美空に自分の気持ちを言えないまま消えようとしていることが、心を締め付けた。

 美空と過ごした日々、笑い合った瞬間、優しい言葉を交わした時間が、走馬灯そうまとうのようにめぐる。

 駐車場の魔方陣まほうじんの中で苦しんでいる俺を玄人げんとが見付けて、大きな声で美空に叫ぶ。


「みそらー! バートがぁ!」


 その声が、どこか遠くからひびいてくる。

 あれから美空とは、挨拶あいさつをかわすだけで、普通に話すことが出来ていなかった。

 彼女の心の中にどんな思いがあるのか、どうしても知りたかった。

 二階から下りてきた美空が俺を見付けて、涙を流しながら何かを言っているが、もう俺にはまともに聞こえなかった。

 彼女の口元が動くのを見て、もどかしさが募る。

 美空は、俺に向かってなにかを言っている。


「バート好き、バート大好き、バート居なくなっちゃイヤだあぁ」


 その言葉は俺の心の奥深くにひびいてほしいのに、絶望的ぜつぼうてきに届かない。

 意識がどんどん遠くなり、俺は心の中で2人に伝えたくてたまらなかった。

 玄人げんとと美空に聞こえないかもしれないが、この世界での感謝の気持ちを伝えた。


玄人げんと美空みそら


 声にならない声でつぶやく……。

 2人に感謝の気持ちを伝えたくてたまらない。


「俺は、2人と家族になれて良かったよ……」


 その瞬間、光が一層強くなり、意識が薄れていく。

 美空の涙が、俺の心にみ込んでいく。

 美空のことを守れる男になりたかった! ずっと一緒にいたかった。

 そんな思いが募る。


「本当に、ありがとう……」


「美空、俺は……」


 伝えたい思いが山ほどあるのに、言葉がもう出せない。

 俺の体が光に包まれて、意識が完全に失われていく中で、〈ドスッ〉とした感覚を感じた。

 まるで心の中に何かが突き刺さったような、重い感触だった。

 玄人げんとは、泣いている美空の肩を優しく叩く。


「バート、またな!」


 俺の心に届いた念は、玄人げんとの心からの願いがこもったものだった。

 玄人げんとはリビングの椅子に座り、タバコを手に取った。

 煙が静かに立ち上がり、玄人げんとの表情には深い悲しみが浮かんでいた。

 感謝の笑顔を見せようと、頑張がんばって動こうとしたのだが、俺の意識は……そこで完全に消えた……。


★★★★


 俺はこの世界から消えたけれど、心の中には玄人げんとと美空とトラ先輩の思い出が刻まれていた。

 山島家やましまけで過ごした時間が、どれほど自分を支えてくれたのか、今さらながらに感じる。


「バート、またな!」


 その思いが、俺の心の中でひびいていた。

 魔方陣まほうじんが閉じて、山島家やましまけみんなの思いを胸に、俺は2人の前から静かに姿を消した。



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