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3章

第30話 3章 サブタイトル 奇跡は起こるのではない! 俺が起こすんだ。


 3章 前書き。

 『異世界転移者のアサシンは、現代世界で、売れ残りでも最高にうまい焼きイモを食う。』の3章へ入りました。

 この物語は、異世界から現代の東京に転移したバート服部が、焼きイモ屋として新しい人生を歩みながら、山島家やましまけの人達や彼に関わった人達と、さまざまな体験や交流をして成長していく物語です。

 バートは現代日本、彼にとっては異世界での経験を通じて、友情、家族や仲間とのきずな、自分の力を信じることの大切さを学びました。

 この章では、強制的にルノーン界に戻されたバートが、強敵ジュビルの軍団と戦う姿が書かれます。

 バートの冒険はついにクライマックスを迎え、彼の選択が未来を大きく変えることになります。

 果たして、仲間達と共に平和な世界を取り戻せるのでしょうか? それとも・・・・。

 彼の物語の集大成を、ぜひ読んで頂けましたのなら幸いです。


 さあ、バートのクライマックスがどのようになるのか? ご一緒に行かれませんか?



3章 本篇


30話 激しい修行、越えなければならない壁


 ルノーン界に戻った俺は、師匠ししょうとタクマにいとのきびしい特訓を半年間ほど繰り返していた。

 毎日、朝早くから夜遅くまで続くその訓練は、体力的にも精神的にも俺を追い詰めていく。


「バート、もっと力強く! その動きじゃジュビルには勝てないぞ!」


 ピリッとしたきびしい師匠ししょうの声がとどろく。

 師匠ししょうの言葉はきびしいが、その裏には期待が込められていることを俺は知っていた。


「はい、師匠ししょう!」


 全力で応えようとするものの、俺の体は思うように動かない……。

 そのそばで、タクマにいは冷静にアドバイスを送ってくれる。


「力を抜いてリズムを意識するんだ! バート。お前の体に合った動きがあるはずだ」


 タクマにいの言葉は優しいが、俺はその通りに出来ずにいた。


「ハァ、ハァ……ハァ、ハァ……」


 何度も繰り返す特訓の中、激しく息が上がるだけで、出来ない自分がもどかしくあせりがつのっていく。


★★★★


 特訓の合間に少しでも体力の回復をさせるため、山の中で1人静かに座り込み、周囲の景色を見渡していた。

 美しい自然が広がっているが、俺の心には重い雲がかかっている。


「お前、何を考えているんだ?」


 その時タクマにいがやってきて、俺に声を掛けると、水を手渡された。


「俺は……強くなりたい。みんなを守りたいのに、どうしても出来ない自分がいる」


 地面を見つめて、俺は言葉を絞り出した。


「それは誰でもそうだろ! 大切なのは諦めないことだ。お前には出来る力がある」


 はげますようにタクマにいから言われた。


「でも、俺は……」


 言葉を続けようとしたが、何も出てこなかった。


「自分の弱さを認めるのはなかなか難しいよな! でもな、お前の力は必ず開花する。あせるな、時間はある」


 そう言って、タクマにいが肩をポンポンと叩いてくれた。

 その言葉に勇気をもらい、大きく深呼吸をしてから俺は、再び特訓に戻ることにした。

 心の中で決意を新たにして、もう一度挑戦することにした。


★★★★


「よぉーし、やってやるぞ!」


 自分に言い聞かせるように声を出して、師匠ししょうとタクマにいに頭を下げてから特訓を再開した。

 師匠ししょう指導しどうのもと、何度も何度も動きを繰り返す。

 その中で、少しずつ体が反応するようになってきた。


「そうだ、その調子だ! もっと力を抜いて自然に動け!」


 師匠ししょう激励げきれいの声がひびき、その言葉を胸に、俺は全力で動き続けた。

 体が疲れ果てても、体が反応するようになってきたことが、心の中に新たな希望を芽生えさせていた。

 ……その時だった。


「バート、実体じったい分身ぶんしんの呪文を唱えよ!」


 力強い師匠ししょうの叫びが飛ぶ。


「いけ! バート!」


 タクマにいからも激励げきれいが飛ぶ。

 限界を越えながら、服部流はっとりりゅう奥義おうぎを唱えた! だが俺の実体じったい分身ぶんしんの呪文は発動しない。


「諦めてたまるかぁー! やってやる! いくぜぇー! 俺の命をくれてやる。出ろおぉー、俺式おれしき実体じったい分身ぶんしん 銀狼ぎんろうだぁー」


 呪文を唱えた瞬間、3つの力強い風を巻き上げる呪陣じゅじんが展開して、俺式おれしき実体じったい分身ぶんしんの1人と2頭の銀狼ぎんろうが現れた。


「おー! 出来たじゃないかバート」


 あっ、あれ!? 師匠ししょうとタクマにいが斜めに……俺にけ寄ってくるように……み、みえ……て……。


「う、うん。で、でき・・・・」


〈ドスッ・・・・〉


 俺は完全に意識を失ってしまったようだ。


★★★★


 目を覚ますと、俺は寝床に寝かされていたようだ。

 どのぐらいの時間、意識を失っていたのだろう? 居間の方からは、いい匂いがしている。


師匠ししょう、タクマにい。俺は」


 師匠ししょうとタクマにいに声を掛けて、意識を戻したことを告げた。


「意識を戻したかバート。今日の修行は終わりだ! 飯にしよう」


 いい匂いは師匠ししょうとタクマにいが夕食の準備をしているからのようだ。


「おいバート、1人しか分身は出なかったが、2頭の銀狼ぎんろうからはげしく雷が出ていたぞ!」


 喜びながらの声で、タクマにいが教えてくれた。


(雷? 水のいんの影響なのかなぁ?)


 自室から居間にいき、俺はテーブルの椅子に腰を下ろした。

 食事中に俺達は今日の特訓の話をしていたが、話が途切れた時に師匠ししょうから意外な頼みごとをされた。


「バート、お前が畑で育てている現代日本のイモと言う物を私達にも食べさせてくれ。お前はそれを販売していたのだろ?」


 タクマにい師匠ししょうを見てから、目を輝かせて俺を見て頷いている。


「はい。師匠ししょう、タクマにい少々お時間を下さい」


★★★★


 師匠ししょう、タクマにいからのリクエストもあり、収穫しゅうかくして追熟中ついじゅくちゅうだったイモを、焼きイモ屋ゲンちゃんの焼き方で食べてもらうことにした。


(ちゃんと焼きイモ用の小石は集めていたんだぜ! ナイスだぞ俺!)


 甘い香ばしい匂いが気になるのか? タクマにいは何度も何度も焼きイモを焼いているのを見に来ていた。

 焼き上がったので、頭を下げて、師匠ししょう、タクマにいに手渡した。


師匠ししょう、タクマにいどうぞ。これが! 現代日本の師匠ししょう直伝じきでんのミツがタップリで、ねっとり食感の石焼きイモです。熱いので気を付けて食べて下さい」


 2人は初めて食べる焼きイモに、興味きょうみしんしんのようなのだが、おそるおそる口に運んだ。


「ほぉー、これは甘くてうまいぞ。バート」


 師匠ししょうは笑顔を俺に向けて、頷きながら食べている。


「これはデザートか? フェリス姫に持ち帰ってもいいか? あっ、王と王妃にも」


 美味しそうに食べている2人の笑顔を見ていると、少しずつ自分の心も温かい気持ちになっていた。


玄人げんと、焼きイモの力はやっぱりすごいよ……笑。あれ? 俺は今日、初めて笑ったかもしれないな)


「ああ、いいぜタクマにい。フェリス姉さんとバン王とエミリア王妃にも食べさせてあげてくれ」


 親指を立てて、俺は笑顔で答えた。


「バート、今日のお前は頑張がんばっていたな!」


 焼きイモを食べながら、タクマにいから笑顔で声を掛けられた。


「うん、まだまだだけど、少しずつ出来るようになってきた」


 その時、どんなにきびしい特訓でも仲間がいるから乗り越えられると、俺は思った。


「明日も頑張がんばろうな。バート」


「うん、明日も頼みます。タクマにい


 心の中で決意して、服部はっとり流派りゅうはきづなの強さを、あらためて感じていた。

 そして、さらなる特訓にいどむことを、俺はちかった。



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