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第32話

32話 姉の力、雷の呪力印じゅりょくいん(上)


 師匠ししょうとの壮絶そうぜつな特訓が続いていた。

 1ヵ月ほどの特訓が終わり、ヘトヘトな状態の体を引きずり、俺はウエルス国へ向かう道を急いでいた。

 だが心には、希望と決意があふれ、特訓の成果を仲間達と共有することを楽しみにしていた。


「今日は仲間に会える」


 特訓の合間に感じた母の力を思い出しながら、みんなとの再会に俺の気持ちは高まっている。


★★★★


 ウエルス国に入るとにぎやかな市場の音が耳に入ってきた。

 人々の笑い声や商人の呼び声が聞こえる中、俺は仲間達が集まる場所へ向かっている。


「おーい、バート!」


 俺を呼ぶその声は、タクマにいだった。

 タクマにいは、各国から集まったアサシンの仲間と一緒に広場の片隅で訓練をしている。


「タクマにい、報告に来たよ」


「特訓はどうだった?」


 タクマにいから尋ねられたので、俺は嬉しさを隠せずに、笑顔を向けて大きく頷いた。


「すごくいい感じだったよ! 母の力を受けげる可能性を感じたんだ」


「それはすごい進歩だな。お前の成長を楽しみにしているからな!」


 タクマにいは俺の背中を叩き、笑顔で言った。

 アサシン部隊の仲間達も集まり、特訓の成果や山での出会いについてのことなど、俺の話を聞いてくれた。


「でも、まだまだこれからだ。もっと強くなりたい!」


 熱い思いを込めて、俺はみんなに伝えた。


★★★★


 その時、突然、周囲が静まり返った。


「……ん? なんだ?」


 周囲を見回すと、広場の中心で小刀のように大剣を片手でグルグル回しながら立っていた巨体の男が、威圧感いあつかんただよわせながら俺達のほうに歩いて来た。


「お前達、何をしている?」


 男は冷たい声で俺達に尋ねる。

 その目は鋭く、周囲の空気が一変いっぺんする。


「俺達は特訓をしているんだ」


 タクマにいが答えると、男はニヤリと笑った。


「特訓か。お前達がどれほどの力を持っているか、試してみるか?」


 その言葉に、警戒心けいかいしんからなのか? 俺の体には鳥肌が立っていた。

 大剣を持っている男の雰囲気ふんいきからは、ただの挑発ではなく、真剣な戦いの気配けはいを感じたからだ。


「お前は誰だ?」


 勇気を振り絞って、俺は男に尋ねた。


「俺か? 俺の名はカイン。ウエルス国の戦士部隊の隊長だ! お前達の力を試すために来た」


 男は冷酷れいこくな表情を崩さず、俺達に答えた。

 仲間達は不安そうに顔を見合わせている。

 タクマにいも眉をひそめて、俺に目を向けた。


「どうするバート。ヤツは、かなり強いぞ」


 俺は少し考えたが、自分の成長を試す絶好の機会かもしれないと考えた。


(ビビッている場合じゃないぞ俺! 特訓を思い出すんだ!)


「俺がやる! 名はバートだ。カインさん、俺達アサシンの力を見せてやるぜ!」


 みんなを安心させるために、自信を持って大きな声で、カインに伝えた。

 カインは大剣を肩にかつぐと、冷たく笑った。


「いいだろう。だが負けたら、お前達の特訓は無駄になると思え」


 その言葉に俺は心を引き締めた。

 仲間達の期待に応えなければならない。

 自分の呪力じゅりょくを感じながら、立ち上がる。


「場所を変えるぞ! いいな、隊長さん」


★★★★


 俺達は街の外に出て、街に被害がでない場所を選んで、2人は向き合った。


「いくぜぇ! 隊長さん」


 俺は叫び、カインに向かって間合いを詰める。

 風の呪力じゅりょくを感じるイメージをすると体が軽くなる。

 俺の中に流れる母の血も、力を与えてくれているかのようだ。

 カインも大剣を抜き、かまえを……。


(おいおい、マジか! あの巨体で、なんてスピードなんだよ!)


 視界から一瞬見失うほど、カインの動きは速く、まるで獲物を狙う野獣のようだ。

 その時、俺の頭に師匠ししょうの教えが思い浮かんだ。


〈力を抜いて、自然のリズムを感じろ!〉


 心の中で自分に言い聞かせながら、変なところに力を入れずに自然な動きで、カインの動きに集中していた。

 カインが変則な構えを俺に見せて、動いた俺の一瞬のすきをついて大剣を振り下ろした。

 なんとかギリギリで攻撃をかわせたので反撃を試みたが、大剣を使っているとは思えないほどカインの動きは素早く、俺の反撃は空振りに終わった。


「お前の動きはまだまだだな」


 カインは冷笑しながら、次々と攻撃を仕掛けている。

 あせりを感じながらも心を落ち着けることに集中する。

 師匠ししょうとの特訓を思い出して、自分の中に眠る力を引き出そうとした。


(姉さんにも母さんの力が受けがれているかも知れないんだ。負けたなんて報告できるかー!)


 俺は、その思いを力に変えて、カインとの距離をとった。


「俺の力、見せてやる!」


 俺は叫び、風の呪文に集中をする。

 周囲の空気が震え、カインの周りに風が巻き起こる。

 カインはおどろいた表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻して、ニヤリと笑みを俺に向けた。


「ケッ、なんだよ! その程度なのか? ガッカリだよ。お前の全力を見せてみろよ! 自信がないのか?」


 その言葉に奮起ふんきして、全力で風の力を集める。

 風圧が強烈な勢いでカインに向かって飛んでいく。


怪我ゲガをしても文句を言うなよ! 隊長さん」


「来い! アサシンの若僧」


 カインもかまえを取り、迎撃げいげきの体制を取った。

 空気が震え、カインの気迫と俺の呪力じゅりょく、2人の力がぶつかり合う。

 その瞬間、俺は自分の中に流れる母と姉の血の力を感じた。

 雷のようなエネルギーが俺を包み込み、限界だと思っていた風の力が、さらに増幅ぞうふくされていく。

 普段より大きな風の呪陣じゅじんが展開すると、その風の呪陣じゅじんから雷が小さく出ていた。


「カイン! これが、俺の全力だ!」


 全力を込めて叫び、呪文、風刃ふうじんを放った。

 そのヤイバがカインに直撃すると、カインを後ろに弾き飛ばし、周囲におどろきの声が上がった。


「やった、バート!」


 仲間達が歓声かんせいを上げる中、俺は息を切らしながら立ち尽くしていた。

 カインも立ち上がり、おどろきの表情を俺に向けた。


「お前、なかなかやるじゃないか! 今の攻撃はいい攻撃だった。かわすことが出来なかったぞ! 自分を信じろ若僧」


「まだまだ、これからだよ。あなたも、その巨体で、なんて素早いんだよ! でも今日は、ありがとな! 隊長さん」


 胸を張り、俺はカインに手を差し出した。

 カインもその手を取り、2人はガッチリと握手をした。

 この戦いで、自分が成長していることと、自分の力を信じることが大切なことをカイン隊長からも学んだ。


(フェリス姉さん、俺も母さんの力を受けいでいる! 俺は1人じゃない。母と姉の力が俺を支えてくれているんだ!)


 新たな決意を胸に秘め、俺は、さらなる成長をちかった。


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