37話 覚醒 俺式 服部流派 究極 奥義
タガーイ国の空はドス黒い霧に覆われて、異様な緊張感が漂っている。
俺は仲間達とともに邪神龍と壮絶な戦いに挑む。
この時にルノーン界、全ての運命が掛かっている。
俺の心臓は緊張で高鳴り、仲間達の存在を感じながら力を高めていく。
俺の見えたイメージは大きな銀狼のようだった。
(あれは何だったんだ?)
分からないまま、俺は邪神龍との戦いのため、感じた銀狼のイメージをしていた。
「行くぞ! 服部流派 究極 奥義! 銀狼だぁー!!」
「・・・・」
イメージは完璧に出来ているのに、何故か服部流派 究極 奥義が発動しない。
(何故なんだ……俺には、まだ使うことが出来ないのか……)
邪神龍が仲間のアサシン部隊や兵士にドス黒い邪炎を吐いて、大きな翼と尾でみんなを凪ぎ払っている。
仲間達は、まるで小さな人形のように焼かれ、飛ばされ、踏み潰されて、目を覆いたくなる光景が繰り返されていた。
その時、俺の1番悪いところ、頭に血がのぼり自分の制御が出来ていない状態になってしまっていた。
「やめろおおぉー! 服部流奥義 俺式の実体分身 銀狼だあぁー」
奥義を唱え、1人の分身と2頭の銀狼を出して、邪神龍に攻撃を仕掛ける。
必死に攻撃をしているが、邪神龍には致命的なダメージを与えることが出来てはいなかった。
(俺が悪いんだ、みんなゴメン。究極 奥義を発動させられないばかりに……)
その時だった。
「主様、バート様。落ち着いて下され」
(ん? 俺を誰かが呼んでいる? 主様? なんだそれ。今はそれ処じゃ……)
「主様、落ち着いて下され。私です、銀狼です」
攻撃をしながら俺に呼び掛けているのは、1頭の銀狼だった。
「主様、落ち着いて聞いて下され。究極 奥義は、私共の神であり、神殺しの異名を持つ、フェンリル様でご座います」
「フェンリル?」
「左様でご座います」
あの大きな銀狼は狼達の神、神殺しのフェンリル神だったのか。
「ありがとうな、教えてくれて。今まで聞かなくてスマンな! お前の名は?」
「落ち着いたようですね。私はエンゲルです」
「ありがとうな! エンゲル。あとは俺に任せてくれ!」
「お前のおかげで自分を取り戻せたよ。もう大丈夫だ! 落ち着いたよ」
神殺しのフェンリルなんて、この状況には最高じゃないかー。
俺は実体分身を戻して、服部流派 究極 奥義のイメージを始める。
(大きな銀狼。神殺しの力を持つ、銀狼神フェンリル)
「よおーし! イメージが出来たぜ。今度こそいちゃうぜぇー!」
「俺式の服部流派 究極 奥義 神殺しの銀狼神フェンリルゥーー!!!!」
呪文を唱えた瞬間、体が雷と風の巨大な呪陣に包まれて、俺は巨大な銀狼の姿へと変わった。
★★★★
牙は鋭く、爪は刃のようになり、毛は稲妻のように煌めいている。
それと、信じられないぐらいの、猛烈な力が、雷と風の力が体中に沸き上がってくる。
自分が雷風狼として生まれ変わる感覚は、まるで夢の中に居るようだった。
(これが師匠の言っていた危険な技なのか。制御しなくてはならないぞ)
邪神龍に視線を向けて、俺は大きな一吠えをした。
「ジュビルの野望は、ここで終わらせてる!」
邪神龍は冷酷な笑みを浮かべて、俺を見下ろす。
「貴様がどれほどの力を持とうが無駄だ、無駄だ! 我の力は、お前の想像を超えている!」
「邪神龍! お前に殺られた仲間の痛みや苦しみは、何倍にしてでも返してやる! 釣りいらねえぜ! とっときな」
邪神龍の邪炎攻撃をかわして、一気に駆け出して雷風狼の力を全開にした。
巨大な風の呪陣を展開させて、展開した呪陣の中に飛び込んで、邪神龍に突撃した。
稲妻のように素早く、俺は周囲を駆け回りながら、雷風狼の力を溜める。
「いくぜぇー、疾風 激烈 瞬風斬!」
俺の動きは次第に速くなり、高速で回転しながら周囲を駆け巡り、勢いをつけて邪神龍に向かって跳びかかる。
「貴様に殺られた仲間達の痛み! 苦しみを思い知れ!」
風の力を纏った爪が刃のように炸裂し、邪神龍の体を次々と切り裂き、思いっきり鋭い牙で噛みついてやった。
邪神龍も俺の攻撃をあしらっていたが、噛みついた時に邪神龍が必死に防御をしているところが見えた。
ハッタリも兼ねて、邪神龍に俺は笑みを向けた。
「おや? 邪神龍さんよぉ~ お前の弱点が分かっちゃったかも知れないぞ! 貴様の弱点は核なんじゃねーのか? 庇いかたが異常だぜ。邪神龍」
「復活した我に、弱点などないわ! この、犬ころめがあぁー」
気合いを込めて、邪神龍との間合いを詰める。
一気に飛び掛かり、殴る蹴るの激しい肉弾戦を開始した。
俺も邪神邪神龍の蹴りやパンチや力強い尻尾の攻撃をもくらい、意識が何度も何度も飛びそうになっていた。
〈ブゥォン〉と風を切る音が聞こえた後、邪神邪神龍の丸太のような尻尾の攻撃をもろに顔にくらっていまった。
防御が出来なかった俺は、激痛とともに地上に叩き落とされてしまった。
何とか体制を立て直し、地面とのハードキスは逃れられたが、頭の周りには、綺麗な星とチンキの子供が飛び跳ねながら回っていた。
鉄の味がするツバを吐き、体制を立て直す。
(絶対にあの核がヤツの弱点だ。庇いかたが異常だ!)
俺は作戦を変えて、雷波系の技のイメージをしていた。
「くらえ! 犬ころめーー!!!!」
俺にトドメを刺そうとしたのか? 邪神邪神龍が地上に降下して来た瞬間だった。
「今だ! くらえ! 疾風 激烈 雷撃波!」
巨大な雷の呪陣を展開させて、雷の力を込めた一撃を邪神邪神龍に放った。
狙いを定めて放った雷撃波は、首と胸のあいだでドス黒く光る核のようなところに直撃する。
雷のエネルギーが爆発して、邪神邪神龍の体が初めて揺らいだ。
「な、なんだと……!」
邪神邪神龍は苦痛の表情を浮かべている。
邪神邪神龍の体が崩れているように俺は見た。
だが、ドス黒い霧が邪神邪神龍の姿を覆い隠してしまった。
★★★★
タクマ兄と師匠もジュビルとの激しい戦いを続けているようだ。
タクマは剣を構えて、ジュビルに迫る。
「ジュビル、今度こそ、ここで終わらせてやる!」
タクマの叫びにジュビルは冷笑を浮かべる。
「貴様らの力など、我には通用しない!」
タクマは素早く動きながら、ジュビルの隙を突いて攻撃を仕掛ける。
剣が炎を纏い、ジュビルに迫る。
「炎刃 行けえぇーー!!」
同時に、師匠もタクマの背後から呪文、龍爆極みで支援する。
「ジュビル、我も居ることを忘れておらぬか? タクマ、今がチャンスだ! 連携しろ! はい。師匠!」
タクマは力強く返事をして、2人は息を合わせて攻撃を重ねる。
ジュビルは必死に抵抗するが、2人のコンビネーションに翻弄されていた。
「き、貴様らぁー!! お、愚か者どもめがあぁ!!!!」
怒り狂ったジュビルは、周囲のドス黒い霧を巻き上げながら反撃に転じていた。
★★★★
俺は、邪神邪神龍との戦いに、集中し続けていた。
「くらえ! 犬ころめぇー!」
霧の中からの邪神邪神龍が邪炎を吐き、もろに邪炎をくらってしまった。
雷の盾が瞬時に反応したが、自慢の銀髪を盛大に焼かれてしまった。
姿を表した邪神邪神龍はダメージも回復していた。
「クソォーー! て、てめぇー!! 俺の自慢の銀髪を焼きやがったなあぁーー!!!! ダメージも回復してやがるじゃねーかぁー」
〈小僧、今のままではヤツは倒せんぞ〉
突然、俺の頭に誰かが話し掛けてきた。
(だ、誰だ? 今の俺は神殺しの雷風狼フェンリルだ! 邪神邪神龍は俺が倒す)
〈我は神殺しのフェンリル。何故、小僧は風の力を使わんのだ? 小僧は雷と風の力を使えるのだろ? 覚醒しろ〉
(ゲェ! フェンリルから話し掛けられているのか? 俺。……覚醒?)
〈そうだ! 小僧は無知だな。雷と風の融合は威力が何倍にもなる組み合わせなのだぞ!〉
(フェンリ神、俺はどうすれば覚醒できる?)
〈解放せよ! 小僧の全ての力をヤツに放て、さすればヤツは倒せるだろう。だが、小僧も死ぬかも知れないがな・・・・〉
……俺、死ぬかも知れないのか。
……俺は、死ぬかも知れないんだ。
邪神邪神龍に視線を向けると、イヤな顔をして薄っすらと笑みをうかべてやがる。
ジュビルが王になる世界なら、みんなもイヤだと思う。
誰かが殺らなければならないのなら、殺れる力を手にした俺達が命を掛けてでも阻止するべきだ。
ルノーン界をメチャクチャにしようとしているジュビルには、この戦いで居なくなってもらわないとな。
「ヨシ! いいぜ。俺の命を掛けた最大の一撃をヤツに喰らわせてやるよ。神殺しのフェンリルさんよぉ」
再び雷風狼の力を高めて、邪神邪神龍に立ち向かう。
「さっきも言ったが、この戦い、絶対に勝つんだあぁー!」
雷と風のイメージを限界? いや、究極だ! 究極を越えるんだぁー。
「もっとだ! もっとだあぁ!! もっと強くだあぁーー!!!!」
邪神邪神龍の攻撃をかわしつつ、周囲を駆け巡り、力をた溜めていく。
「風と雷の力よ集まれ! 集まれぇ!! 集まれえぇーー!!!!」
俺の動きは次第に速くなり、邪神邪神龍に迫る。
あれ、何故だろう? 一瞬、美空がコントローラーのボタンを必死に激しく連打している姿が頭に浮かんだ。
その真剣な顔は、最高にイケている顔であり、俺も絶対に負けられない気持ちが、さらに高まった。
「今度こそ決める! もう二度と復活させねぇーぞ!! いくぜえぇーー!!!!」
「覚醒 服部流派 疾風 激烈 俺式 究極 突破 雷風刃だあぁーー!!!!」
究極 奥義の呪文を唱えた時に俺は、邪神邪神龍に負ける気がしなかったんだ。
超巨大な激しく煌めく風と雷の呪陣が展開して、俺の体の周囲にたくさん集まっていたんだ。
(美空……俺は真剣な姿の美空もスキだし、美空の笑顔が1番スキなんだ。美空のためにも、ここに居るみんなのためにも、ルノーン界を守ってみせるぜえぇ)
たくさん集まった風と雷の煌めく呪陣の力を融合させて、俺の全ての力を込めた究極の一撃を、邪神邪神龍に放った。
「くらえぇぇぇー! 邪神邪神龍」
邪神邪神龍は核を庇って、直撃を逃れようとしていたが、俺の全てを放った究極 突破 雷風刃の一撃は、庇っていた翼と手を貫き、邪神邪神龍のドス黒く光る核に突き刺さった。
「俺の命、俺の絆の力、全てを持っていけぇぇー!!。邪神邪神龍! 止めだぁぁー!!!!」
雷と風のエネルギーが激しく大爆発した。
大爆発した邪神邪神龍は、体制の維持が出来ずに落下して激しく地面に激突すると、体が崩れていった。
「こ、こんなことが、あるものかー。ワシはまだ、死!」
邪神邪神龍は苦痛の表情を浮かべて、体の維持をしようとしているようだが……もう限界のようだ。
崩れていく体の再生も出来ていないようで……邪神邪神龍の最後のようだ。
崩れた邪神邪神龍はドス黒い霧となり、周囲のドス黒い霧と混ざった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……お前は元々、死んでいたんだよ邪神邪神龍。二度と黄泉がえるじゃねーぞ」
上がっていた呼吸を整えて、大きく天に一吠えをしてから、俺は師匠とタクマ兄の戦いに視線を向けた。
〈……おい小僧、格好つけておるところ悪いが、早く究極 奥義とやらを解放した方がええと思うぞ〉
〈小僧の師匠が小僧達に伝えていただろ、この呪文は危険だと。今回は小僧の命を15年分、我が食ったぞ。ご馳走さん〉
(マジかぁ! 最悪は死ぬかもと言っていたのは、このことなのかぁ。有り難うな。神殺しのフェンリルさんよー)
〈ま~、何時でも呼んでくれてもええぞ。小僧の命はうまかったからな! ニヤリ〉
「俺式 服部流派 究極 奥義 解除」
俺は体力の回復をさせながら、2人の激闘の邪魔にならないように、崖の上から、タクマ兄と師匠の戦いを見ていた。
★★★★
タクマ兄と師匠の激闘も、さらにジュビルを追い詰めているようだ。
師匠は冷静な目でジュビルを見据え、タクマと目を合わせる。
「今がチャンスだ、タクマ! 究極 合体 呪文を発動しろ!」
「分かりました。師匠!」
2人は同時に呪文を唱える。
「服部流派 究極 合体 奥義 極炎 虎龍天!」
巨大な2つの呪陣が展開して、炎と光の呪陣が重なり、融合しているよに見えた。
見たことのない巨大な炎と光の呪陣が展開すると、立ち昇る炎の渦の中からは巨大な炎虎。
空を貫く光の中からは光龍が現れ! ジュビルに迫る。
「貴様の終わりだぁ、ジュビルーー!!!!」
ジュビルは、魔方陣を展開して苦渋の表情を浮かべながらも必死に抵抗しようとするが、2人の力がジュビルを包み込んでいく。
極炎 虎龍天がジュビルを完全に飲み込み、豪熱がジュビルを焼き尽くす。
猛火の中で蠢いていた影も次第に見えなくなって、その姿はドス黒い灰となって崩れているようだ。
「貴様ら、我は、我はルノーン界の王! ジュビ・・・・」
妖術薬師ジュビルの断末摩が響いた。
タクマ兄と師匠の勝利が確信に変わる瞬間だった。
「やったのか?」
タクマが上がった息を整えながら呟く。
「まだ安心するな、タクマ! 何かが起こるかもしれない!」
師匠が警戒を促している。
俺も崖から飛び下りて、師匠とタクマ兄の元へ向かった。
周囲の霧が徐々に薄れていく中、俺達は互いに顔を見合わせると、安堵の表情を浮かべた。
戦いが終わり、静寂が訪れる。
「俺達の力が勝ったんだー。みんなの力の勝利だー」
俺は力強く勝利宣言を告げた。
「本当に凄い戦いだったな」
タクマ兄がみんなに微笑んだ。
「だが、これで終わりではないかも知れん。安心するな」
師匠の激が飛んで、その言葉に、俺達アサシン部隊は周囲の警戒を続けた。
だが、師匠の心配は不要のようだった。
ジュビルと邪神邪神龍はドス黒い霧となり、完全に姿と気配はなくなった。
同時に蠢いていたアンデッド達もドス黒い霧となった。
そのドス黒い霧は周囲の霧と混ざって、風に吹かれて次第に消えていった。
空から光が差し込み、ルノーン界に美しい空が広がっていった。
★★★★
俺達は、この戦いで亡くなった仲間達に勝利の報告とレクイエムを捧げた。