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第39話

39話 完全攻略本


 他のことは何が書いてあったのか、正直あまり覚えていなかった。

 でも、これだけは1日たりとも忘れなかった、美空に教えてもらった完全攻略本に書いてあったことを試している。

 ジュビルの開発した毒針の効果と、タクマにいが開発した転移薬てんいやくを使い、何度も副作用を引き起こすために、俺は効果を試し続けていた。

 だが、タクマにいが開発していたので、本来の転移薬てんいやくとしての効果は出ていた。

 飲む量で転移する距離は変わり、イグニス国からウエルス国にも転移できている。

 タクマ兄の転移薬てんいやくは死ぬほどマズイし、どうしてもジュビルの毒針の調合が分からなかった。

 毒の耐性のない俺は、酷い日は1日トイレから出られない日もあった。


★★★★


 バートに無茶振むちゃぶりをされてから14日間ほどが過ぎようとしていた。

 タクマはウエルス国の研究室で、ジュビルの研究資料を探している。


「おいタクマ、お前が探している物は、これじゃないのか?」


 タクマに声を掛けたのは、洗脳から解放された親友のライヤだった。


「ライヤ、これを何処から持って来たんだ?」


 おどろいた表情でタクマが聞いた。


「おいおい、忘れるなよタクマ。お前にジュビルから渡された毒針の吹き矢を渡したのは誰だ? お前は優秀だからな、1本で成功させただろ。残りを頂いておいたのさ! ジュビルから返せと命令がなかったからな」


 ドヤ顔をしてから、ライヤはタクマに2本の吹き矢を渡した。


「こ、これだよ、ライヤ! この毒針の先を調べれば、毒の成分が分かるかもしれないぞ」


 興奮をかくしながら、冷静な態度でタクマがライヤに告げた。


「これが、お前の探していた物なら、フェリス姫様とのお茶会のセッティングでいいぜ! アサシン部隊の隊長さん。いや、アサシンナイトさん」


 そう言い残して、ライヤはタクマに笑顔を向け、親指を立てて研究室を出ていった。


 吹き矢を手に取り、真剣な表情でタクマは考え込んだ。

(これでジュビルの毒針の調合が分かるぞ。バートの思いに応えてあげることが出来るのかも知れない)


★★★★


 俺はタクマにい進行しんこう状況じょうきょうを聞くために、ウエルス国の研究室に向かっている。

 タクマにい転移薬てんいやくは本当にそごいんだぜ。

 飲む前に場所のイメージが出来て、飲む量を間違えなければ、ほぼイメージした場所に転移が出来る。

 俺が走れば3時間程の距離を、瞬時に転移させてくれるんだぜ。


(でも薬は……本当に死ぬほどマズイんだけどね)


「こんにちは、タクマにい。進展はあったのかい?」


「おっ、バートか! これを見てくれ!」


 タクマにいは吹き矢を示した。


「この毒針の先を調べれば、ジュビルがどんな成分を使っているのか分かるかもしれないぞ」


「本当に? それなら、早速調合に取り掛かろうよ」


 期待を込めて俺は言ったが、タクマにいからさとされた。


「でも、まずは慎重にいこう。ジュビルの毒は強力だから、失敗は許されない」


 真剣な表情でタクマにいは言った。

 俺達は、お互いの目を合わせて頷いたあと、タクマにいからの指示を受けながら、急いで研究室の薬品を集めて調合の準備を始めた。

 タクマにいが吹き矢の毒針を調べながら、俺はタクマにいからの指示でサポートをしている。


「まずはこの成分を分解してみる」


 薬液を手に取り、タクマにいは手際よく作業を進めていたが、手が止まり俺のほうを向くと、例の質問をしてきた。


「バート、約束はやっているのか?」


「ああ、タガーイ国王には承認しょうにんしてもらったよ」


「そうか、なら今日はバン王とエミリア王妃とフェリス姫の承認しょうにんだな。承認しょうにんをもらえなければ、この実験は終了するからな」


「うん。今日はバン王とエミリア王妃とフェリス姉さんに承認しょうにんしてもらえるように話をするよ」


「なら気合いを入れて、いってこい。姫様を泣かすなよ」


 そう告げてタクマにいは、また作業を始めた。


★★★★


 研究室を出て、王と王妃に謁見えっけんのため、近衛兵このえへいの案内で王室に向かった。

 王と王妃に会って、話をさせていただき、俺の思いを伝えて無事に承認しょうにんを頂けた。

 残念がっていたが、王室を出る時に『頑張がんばりなさい』と2人に言われたのは、本当に嬉しかった。


(次は姉さんかぁ・・・・)


 なんだろう? 姉さんに話をするのは気が重い。


 双子であったことを知り、母さんと姉さんのつながりだった雷の呪力印じゅりょくいんを、俺がもらってしまった。


「ふぅ~」


 大きな息を吐き、姉さんの部屋の前にたった。


 女性の近衛兵このえへいが頭を下げてドアを叩いた。


「姫様、バート様が謁見えっけんのために、いらっしゃいました」


「バートが来たのね~。入ってもらってー」


(あーもう、当たってくだけろだ! くだかれたら、それはそれで困るんだけど……)


「姉さんバートです。入ります」


★★★★


 部屋に入ると姉さんは、ハサミとクシを持って、ドレッサーの前で目をきらめかせて、ニコニコしながら手招きをしている。


(えっ! なんじゃ~この状況は?)


「はい、バート座ってね~」


 状況が分からないまま、姉さんが、なかば強引に俺を椅子に座らせた。


「バート、タクマから聞いているわよ! ルノーン界の探索のために旅に出るんだってね」


「旅に出るなら、その焼け焦げた髪を綺麗きれいにして行きなさい。長旅になるみたいだからスッキリしなさい」


 俺は心からタクマにいに感謝をしていた。

 姉さんに話をしてくれていたんだ……。


「はい、姉さん。長旅になるからさぁ~、バッサリとお願いするね」


 姉さんは楽しそうに、邪炎じゃえんで焼かれた俺の自慢の銀髪をカットしてくれている。


(……あれ? なんだこれ?)


 目から熱いものがポロポロと流れていた。


「なにバート。姉さんに髪の毛を切ってもらって感動しちゃった?」


「ああ、ウエルス国のお姫様にカットをしてもらえるなんて、光栄のきわみだよ。姉さん」


 カットが終わったようで、俺をアチコチの方向から見て、満足そうにハサミとクシを鏡の前に置いた。


「はい、バート終わったわよ。バートは格好かっこいいから、このヘアスタイルも似合っているわよ~」


「有り難う。フェリス姉さん」


「タクマにいから話を聞いているなら、承認しょうにんはしてもらえるんだよね?」


「当たり前よ~! 姉さんも応援するからね。頑張がんばりなさいね! バート」


「うん、頑張がんばるね! フェリス姉さん。ありがとう」


「じゃ~タクマにいのところに戻るね。カットと美味しい紅茶も、ありがとうね」


「……じゃ、またね!」


 最初で最後のうそを、俺は姉さんについた。

 最後に姉さんの顔を良く見て、一礼をして部屋を出た。


★★★★


 研究室に戻るとタクマにいが親指を立てて、俺に合図をする。

 俺も親指を立てて、最高の笑顔で合図を返した。



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