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第40話

40話 巣立ちの時


 翌日、転移薬てんいやくを使って、トラビス国に来ていた。

 目的は当然、トラビス国王のラシン王に承認しょうにんをもらうためだ。

 トラビス国の近衛兵このえへいに案内をされて、王室の入室を許されたので、一呼吸ひとこきゅうをしてから俺は入室をした。


★★★★


 ラシン王は、立ち上がり近衛兵このえへいに『お前達は、さがってよい』と告げて、立派な椅子に座りなおした。

 目の前までいき、俺は片膝を付き、頭を下げた。


「頭を上げよ。バート」


 頭を上げた俺は、ビックリして思わず、後退あとずさりをしてしまった。

 ラシン王が立派な上着を脱いでいた。

 初老の男と言ってしまったことを申し訳ないと思うほどの立派なボディーと、複数の傷痕きずあとが見えた。


「どうだ? バート。この年齢の割にはイカしているだろ」


 ラシン王はポーズを決めて、俺に見せた。


「はい。師匠ししょうすごいですが、ラシン王もすごいですね」


 ラシン王はニコリと笑い、上着を取ろうとした時、背中が見えてしまった。


「えっ? ラ、ラシン王、そ、その呪力印じゅりょくいんは!」


「風の呪力印じゅりょくいんだよ。バート」


 俺は何も考えられず、ラシン王に近寄り、呪力印じゅりょくいんの形の確認をしていた。


(いま思えば、そのまま殺されてしまっても、おかしくない行動をしてしまっていた……反省)


 ラシン王の呪力印じゅりょくいんは、俺の呪力印じゅりょくいんとそっくりだった。

 呪力印じゅりょくいんは同じ風のいんでも、血筋ちすじちがうと、ちがう形で出るからだ。


「ラシン王、ま、まさか?」


 それ以上、俺は言葉を出せなかった。


呪力印じゅりょくいんがどう言うものなのかは、ロギーから教わったのか? 理解はしているようだな。バート」


「は、はい。ラシン王」


「このことは、2人の秘密だからな! 良いなバート」


 姉さんのことを、俺はすぐに伝えた。


「姉さん、ウエルス国の姫様のことは承知なのですか?」


「ああ、知っているよ。だがウエルス国の姫はバン王とエミリア王妃の娘として立派に育ててもらえた。感謝しているよ」


 ラシン王は上着を着て、俺に告げた。


「このままでいいのだよ、バート。ど~せお前のことだ、この国の王子になれと言っても、聞かぬのであろう?」


 真剣な顔で尋ねられたが、俺の返答を待っているようなので、真剣な顔を向けて『うん』と頷いた。


「だから、このままでいいのだよ。さて、お前の頼みを聞いてやるかな! トラビス国、ラシン王としてな」


 少し残念そうな顔をしていたが、俺の話を聞いてくれた。


「そうか、旅に出るのか! 立派になれとは言わん。父が母にしてあげられなかったことを、お前はしてあげられる男になれ!」


「これを持っていけ。この服は、エリーとの思い出の服なんだ。達者たっしゃでな! バート」


「はい。有り難う御座います。ラシン王」


(ラシン父さん)


 服を受け取り、俺は大きく一礼をしてラシン王の王室を出た。


★★★★


 トラビス城を出た俺は、父が納める街を見て歩いている。

 活気のある市場の音が耳に入ってきて、視線がその方向に向く。

 子供たちの笑い声や商人の呼び声が聞こえてきて、元気のある街だと思った。


(クンクン・・・・あれ? この匂いは・・・・)


 俺はすぐにその場所へ向かった。


★★★★


「お兄さん、焼きたてホカホカの焼きイモはいかがかね?」


「甘くて、美味しいわよ~」


(父さん。取りすぎたら、なくなっちゃうから言ったのに・・・・・・)


「お姉さん、焼きイモを1つ下さいな」


「はいよ。ラシン王の若い頃にそっくりな、お兄さん」


 焼きイモを受け取り・・・・・・おや? あれ? これモーイじゃないか~。

 俺は急いで、焼きモーイを口に運んだ。

 調理方法を変えると、モーイもイモには負けるが、ほんのり甘くてホクホクしていた。

 これはこれで、うまいモーイになっていた。


「お姉さん、この調理方法は誰から教わったの?」


「これは農夫のランさんから教えてもらったのよ~」


(農夫のランさんねぇ~。……父さんは日本のテレビで見ていた必殺! 暴れん坊の殿様かよ!)


 ツッコミを入れたい気持ちをグッと抑えた。


「有り難う、お姉さん。焼きモーイ美味しかったよ! 頑張がんばってね」


「有り難う、素敵すてきなお兄さん。また食べに来てねー」


 さて、うまい焼きモーイを食べて、マズイ転移薬てんいやくを飲む準備は整った。


「イグニスに戻るかー」


 トラビス国を出て、転移薬てんいやくの小瓶を一気に飲み干した。


★★★★


 イグニス国に戻った俺は、街の中を歩いて周っている。


(イグニス国はいい国だな)


 久々の街中の散策さんさくに、子供の頃のことを思い出している。

 タクマにいと同じ物が欲しいとダダをコネて、合うサイズの服がお店になく、泣いて店員さんを困らせた時、タクマにいが俺と同じデザインのサイズがある服に替えてくれて、お揃いの服を着られて嬉しかったこと。

 師匠ししょうとタクマにいと食事をしにきた食堂。

 師匠ししょうのお使いで買い物をした店で『お使い偉いね~』と言われ、お姉さんにもらったお菓子を食べながら帰ったことなど、色々なことを思い出していた。

 気付くとイグニス城の門前もんぜんに着いた。

 門兵もんぺい服部はっとり流派りゅうはのバート服部と告げて、頭を下げて城に入った。


★★★★


 近衛兵このえへいに案内をされてイグニス王の王室に向かっている時に、ふと、天井を見上げた。

 そこには美空と行った時に見た、花火大会の花火のような壁画が描かれている。


(美空と花火大会にいった時にも、そう思っていたな。俺)


「少々お待ち下さい」


 近衛兵このえへいが王室のドアをノックして入室の許可をとる。

 近衛兵このえへいにドアを開けてもらい、俺は王室に入室した。


★★★★


 トラス王の前までいき、片膝を付き頭を下げた。

 トラス王に話を聞いていただき、俺の思いを伝えて、理解をしていただいて、承認しょうにんをもらった。

 トラス王からアサシンとしての報酬とジュビルの野望やぼう阻止そしした功績こうせきの特別報酬を頂くことが出来た。


「ルノーン界は広いぞ! 地図に書かれていない場所もある。探索をするなら、しっかり装備を整えてから前に進むのだぞ! 分かったなバート」


「はい、お気きづかい有り難う御座います。トラス王」


 大きく一礼をして、俺はイグニス城を後にした。


★★★★


 俺のアサシンとしての人生は今日で無事に終わった。

 たくさんの物を抱えて、山道を歩いている。

(この道を歩くのも、今日で最後なんだぁ)と思うと、熱い思いが込み上げる。

 服部はっとり流派りゅうはの特訓場を歩いている時に、タクマにいから声を掛けられた。


「無事に終わったようだな。バート」


「うん。ルノーン界の王は、たみの平和を望んでいる、いい王様ばかりだよ」


 涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃな顔で、俺はタクマにいに笑顔を向けた。

 タクマにいも涙を流していた。

 初めて見るタクマにいの泣き顔だった。


「さて、師匠ししょうに報告をして、旅の準備をしよう。手伝わせてくれ、バート」


「ああ、頼むよ。タクマにい


 俺達は、師匠ししょうの待つ家に戻った。



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