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第41話

41話 バート服部 = 山島やましま刃痕バアト


 俺達が家に入ると師匠ししょうは居なかった。

 2人で旅立ちの準備をしている時に俺は気付いた。


「ほとんど持って行ける物なんて、ねえじゃんかぁー」


〈プッ!〉俺達は顔を見合わせて笑った。


 体格があまり変わらないこともあり、俺は感謝を込めて、死導製しどうせいのアサシンスーツをタクマにいに渡した。

 俺からは渡しずらかったので、タクマにいに、トラス王から頂いた物を師匠ししょうへ渡してほしいと、お願いをしておいた。

 2人でゴソゴソと支度をしていると、師匠ししょうが帰ってきたようだ。


「タクマ、バート、来い」


 師匠ししょうに呼ばれて俺達は、師匠ししょうの待つ居間に向かった。


★★★★


 俺達が椅子に座ると、師匠ししょうが俺達の顔を良く見てから話を始めた。


「タクマ、お前はウエルス国で、お前の服部はっとり流派りゅうは継承けいしょうせよ」


「バン王、エミリア王妃の影となり、フェリス姫と共にウエルス国を支えよ。良いな!」


御意ぎょい師匠ししょう


「私、タクマ服部は、師匠ししょうの教えを守り、ウエルス国を影から支えます」


 タクマにいは椅子の横で片膝を付き、頭を下げた。


「バート、お前はバート服部の名を名乗ることを止め、やり残していることに全力で挑戦せよ!」


「アサシンとしての任務にんむは今日で最後となった。暗殺をすることは禁じる!」


「アサシンの力で、救える命がある時は、その命を守り、新たな人生を歩め! お前の思い人と共に。良いな」


 俺も椅子の横で片膝を付き、頭を下げた。


御意ぎょい師匠ししょう


「死んでしまう可能性があった俺を救出し、ここまで育てていただきまして、本当に有り難う御座いました」


服部はっとり流派りゅうはの技術を使い、救える命を守れるように頑張がんばります」


「暗殺の任務にんむは決して受けません。バラバラになっていた俺の家族に会わせていただきまして感謝致します」


 こうして俺は、タクマにいとの約束を全てクリアした。

 全員からの承認しょうにんをもらえたので、タクマにい承認しょうにんのサインが入った手紙を渡した。


「確かに、全員の承認しょうにんは預かった。バート、お前の言う通りに薬は限界まで濃縮のうしゅくしてあるからな」


 俺はタクマにいから新薬しんやくが入った箱を手渡された。


服部はっとり流派りゅうはのバート服部は、今夜、旅立ちます」


「育ててくれたお礼を伝えたばかりですが、死んでしまったら俺の人生は、それまでだったと思って下さい」


「ロギー師匠ししょう、タクマにいさん……今まで本当に、有り難う御座いました」


「おい、バート。誰が新薬しんやくを作ったと思っているんだよ! 大丈夫だよ」


 涙を流していたが、タクマにいは最高の笑顔を俺に向けてくれている。


「元気でなバート。またな!」


 師匠ししょうはヤーニ〈タバコ〉に火をつけると、俺に背を向けて、手を軽く上げた。


「じゃ、またね! 2人とも」


 ラシン王からもらった服を着て、師匠からもらった靴を履き、肩掛けバックに入る荷物だけを持ち、俺は服部はっとり流派りゅうはの家を出た。

 外に出て、服部はっとり流派りゅうはの特訓場に一礼をして、転移薬てんいやくを飲んで、トラビス山頂に向かった。


★★★★


 日が暮れたトラビスの山頂は、(うわ、寒みぃ~)思った以上に寒かった。

 山頂の周りを良く見ると、父さんがイモの世話をしているようだ。

 小さなイモ畑が出来ていた。


「父さん、少しもらったからね。母さんには、まだ、だったからね」


「最後になっちゃってゴメンね。母さん」


 母さんに最後のお供えをするために、火をいていた。

 体も暖まってきて、甘く香ばしい匂いが周囲にただよい始めた。

 大きく深呼吸をして、出せる全力の声で、エリー母さんに最後の報告をした。


「母さーん、バートだぁー。父さんにも会ったんだよー」


「父さんから母さんとの思い出の服をもらったんだー! イカしているだろー。これを着て旅立つよー」


「母さんが最後になっちゃってゴメンねえぇー。父さんが育てたイモを俺が焼いたんだあぁー」


「姉さんと俺を産んでくれて・・・・・本当に・・・・・ありがとうね」


「俺は、大切にしたい人のところに帰って、その人のために自分が決めた目標を目指すんだあぁぁ」


 ・・・・・母との別れは・・・・・何故か涙が出なかった。

 最後の挨拶を無事に済ませて、新たな旅立ちの報告が出来たことのほうが嬉しかったのか、少しキリッとした顔になっていたはずだ。


「さて、行くか!」


 タクマにいからもらった箱から、しん転移薬てんいやくを取り出した。

 箱の中に手紙が入っていた。


〈バート、このしん転移薬てんいやくは、この世界には不要な物だ! この手紙も読めなくなるのだろ?〉


しん転移薬てんいやくの作り方が書いてあるから、持って行ってくれ。またな、弟よ!〉


(…………)


「ああ、読めなくなるから持って行くよ。タクマ兄さん」


 しん転移薬てんいやくふたを開けて、一気に飲み干した。

 見たことがない魔方陣まほうじんが展開して、輝き始める。

 しん転移薬てんいやくも味は死ぬほどマズかったが、すぐに意識がなくなったので、俺にはあまり辛くはなかった。

 俺の体が光に包まれていく。

 魔方陣まほうじんは一気に光が強くなり、ゆっくりと魔方陣まほうじんが閉じた。


 さらば! 俺達のルノーン界。

 いつまでも、平和な世界を・・・・・。


★★★★


 意識を失なっていた俺の体が光に包まれる。


〈あなたが決めた世界で、あなたの大切にしたい人達を守れるように頑張がんばりなさい〉


〈あなたにはもう、言葉の呪文は要らないはね。その世界で1年も頑張がんばっていたのですから、戻ればきっと、文字も読めるし経験したことは理解することが出来るわよ!〉


〈最後に美味しい焼きイモを、お供えしてくれて本当にありがとうね。私の大切な息子・・・・・バート〉



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