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 昼休みのチャイムが鳴り、溜息を吐きながら世界史の教科書を閉じる。日直の号令で教室の空気が緩み、わいわい騒ぐクラスメイトを気怠げに見ていると、いつものように若葉と日菜子が机に近づいてきた。


 コンビニの袋を手に下げた若葉が、着くなりそういえばと首を傾げる。まんまるな瞳が揺れて、それはなんとも可愛らしい仕草だった。


「美奈氏は、松波奏と一緒に食べないの?」

「えっ?」


 突然の名前に心臓が跳ねる。若葉と日菜子はわたしの反応に気づかず、顔を見合わせた。


「松波さんってあんまり人と一緒じゃないよね。美奈ちゃんが行ったら、喜ぶんじゃない?」


「そうだよねー、松波奏が人とつるんでるとこ見たことないよね。そんなヤツと美奈氏は友達になったんだから……これを機に私も仲良くなって、テストのヤマとか教えて貰いたい!」


 頭を抱える若葉を見て、日菜子が苦笑する。二人は空いた椅子を適当に引き寄せ、腰かけた。日菜子がふんわりと笑い、わたしを見る。茶色い優しげな瞳とぱちりと目が合った。


「私たちは大丈夫だから、松波さんのところに行っておいでよ」


「そうだそうだ! もしかしたら、松波奏がボッチで悲しんでるかもしれないしねー。美奈氏の机は、ちゃんと私たちが見ておいてあげるからさ〜。ついでに私の売り込みもしておいて~」


 ええ……と苦笑しながら、ブレザーからスマートフォンを取り出した。画面をつけて、メッセージアプリを起動する。一番上には、カナデとのトークルームが表示されていた。


「そんなこと言われても……」


 画面を見つめたまま、自然と眉が寄る。今日は一日学校にいると言っていたから、おそらくカナデは学校のどこかにはいるはずだ。でも、カナデはもしかしたら一人で過ごすのが好きかもしれないし。のこのこと現れていいものなのだろうか。邪魔じゃない? どうしよう。行ってもいいのかな。……いや、行きたいかも。


 そう思ったとき、スマートフォンを握っていたままの右手がそっと包まれる。顔を上げると、日菜子が両手でわたしの手を握っていた。


「美奈ちゃん、がんばって」


 真っ直ぐにわたしを見つめている日菜子の瞳。これじゃあまるで、恋を応援されているみたいだ。そんなんじゃないんだけどな、と思ってわたしは苦笑いする。


 お節介なクラスメイト二人にやられてしまい、わたしは弁当を持って教室を後にした。そんなことを言われても、カナデが一人で居たいと思っていたらどうするのさ。


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