涼しい風が、わたしの頬を撫でている。そうか、わたしとあの二人は、友達だったんだ。
「その調子だと、ミナは私のことも友達だと思ってなさそうだね」
「うえっ」
横から茶化すような声が聞こえ、素っ頓狂な声を上げてしまう。すっかりパンを食べ切ってしまったらしいカナデはにやにやと笑い、わたしの様子を伺っている。なんて酷い趣味をしているんだと思い、口角がひきつる。
「私は、ミナのこと友達だと思っているよ」
唐突に投げられたその言葉は、あまりにも簡単にわたしの中に落ちていった。カナデは、友達。
「だからさ、ミナも私のことを友達だと思ってくれると嬉しいな。友達なんだから、変に気を使わなくていいんだよ」
気の抜けたような、優しい笑顔。そうか、わたしはこの顔にやられてしまうのか。脳が蕩け、身体が幸福に包まれる。わたしはカナデの友達なんだ。
わたしは、どこまでカナデに近付いていい?
詰まった胸に息を吸い込み、声を上げようとすると丁度良く予鈴のチャイムが鳴ってしまった。喉元まで出かかっていた言葉を引っ込める。
「あ、予鈴だ。ミナ、お弁当全然食べられてないじゃん……探させちゃってごめんね。晴れてる日は大抵ここに居るから、また気が向いたらおいでよ」
半分も口を付けていない弁当の蓋を閉める。胃の空腹感は残っていたけれど、不思議と不快な気持ちは無かった。授業の間の休みに食べるから大丈夫と言って立ち上がると、カナデも続けて立ち上がる。わたしたちは自然と並んで、教室までの歩みを進めていた。
「今日、放課後海辺で吹こうと思うけど、ミナも来る?」
「えっ、いいの? 楽器持ってきたし……行こうかな」
「オッケー。今日はドからミまで教えるよ。そしたらチャルメラ吹けるから!」
カナデが突然メロディを口ずさみ、つい笑ってしまう。彼女も笑い出して、バカみたいに二人で笑った。
カナデといると楽しい。これが友達なんだ。潮風に揺れる笑顔を見ながら、灰色の毎日に色が混じり始めた気がした。
ブレザーの中のスマートフォンが振動する。画面を見ると、『授業始まるぞ〜!』という若葉からのメッセージ。続けて、可愛らしいキャラクターが焦るような仕草をしているスタンプが日菜子から送られてきた。
「じゃあまた、放課後ね!」
カナデはそう言って、廊下を走る。わたしもその姿に手を振って、二人の友人が待つ教室に走り出した。