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第六話 夕暮れと二人の絆

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 土曜日、主要駅の改札付近は人でごった返している。大きな時計の下のベンチは満席で、仕方なく近くの柱に寄りかかり、スマートフォンで時間を確認した。


 待ち合わせの十五分前。ちょっと早すぎたかな?


 いつかの日菜子みたいにスマートフォンで前髪を直してみる。見た目なんてどうでもいいはずなのに、少しだけ手が震えてドキドキしている。


 考えてきた今日の予定を復習する。日菜子と若葉の協力もあり、プラン内容は完璧だった。わたしが道に迷うことさえなければの話だけど。きっと、カナデも楽しんでくれると信じたい。


 昨日の昼休み、思い切って日菜子と若葉に「二人は友達と遊びに行く時、どこに行く?」と聞いてみた。


「何⁉ まさか、松波奏とデート⁉」


 そう言って若葉は大袈裟に驚いたけど、ちゃんと提案してくれた。


「私は柊氏とよく遊ぶけど、ゲーセンで音ゲーしたり、アニメショップ行ったりかな〜」

「音ゲー?」

「あ、あの有名なやつだと太鼓叩くヤツとか。他にも色々種類があるんだけどね〜ハマると結構楽しいよ」


 なるほどと相槌を打ちながら、わたしは手元に用意していた小さなメモ帳に記録をしていく。『ゲーセン 音ゲー 太鼓、アニメショップ』……と。


 続けて、日菜子は友達と遊ぶときじゃないけど、と前置きをした上で、自身のプランを語ってくれた。


「駅ビルで一緒にぶらぶら雑貨を見たりとか、どこかカフェで甘いものを食べたりとかすることが多いかな? こないだは新作のフラペチーノを一緒に飲んだけど、美味しかったからおすすめだよ」


 メモ帳に『駅ビル、甘いもの フラペチーノ』と書き込む。なんだか高校生っぽくなってきたぞ。


「あ、あとゲームセンターで、私は音ゲーはやらないんだけど、プリクラ撮ったりとか。ほら、コレ」


 そう言って日菜子はスマートフォンを取り出し、背面を見せる。そこには日菜子と蒼が写ったプリクラが一枚貼られていた。大変仲睦まじい写真で、見ているこちらが照れてしまう。だけど、プリクラをスマートフォンに貼るのは、なんだか高校生感があって魅力的だ。ゲーセン、と書いた横に、プリクラと付け足す。


「ま、そんなに難しく考えなくても、美奈氏と遊びに行けばきっとどこでも楽しいよ」


 若葉は笑いながら、励ますようにわたしの背中を叩いた。あっけらかんとしたその笑い方は、まるで悩み過ぎだと言うかのようにわたしの気持ちを少しばかり軽くしてくれた。


「そうだね、結局、どこに行くかはそんなに重要じゃなかったりするよね。大切なのは、その人と一緒に時間を過ごしたっていうことなんだと思う」


 日菜子も微笑みながら、なんだか深い言葉を口にする。二人とも人生経験が豊富だなあなんて思いながら、わたしは手元のメモ帳を見つめる。このプランだと、主要駅に行けば大抵のことはこなせそうだった。


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