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 駅ビルを後にし、繁華街にあるゲームセンターに移動した。若葉おすすめの太鼓の音ゲーは入口近くにあり、すぐに見つけることができた。


 無難なJポップを選曲し、カナデは「むつかしい」、わたしは「ふつう」の譜面を選択する。初めてのプレイだけど、基本的なルールは単純みたいだし、「ふつう」で大丈夫だろうと思ったのが間違いだった。


 次々流れる顔みたいな譜面がさっぱりで、わたしの青い太鼓が魂ばっかり吐いている。一方カナデは複雑な譜面をサクサク叩いて、結果はボロ負け。やっぱり音楽に触れているだけあって、こういうのも得意なんだろうか。リズム感とか良さそうだし。


 「ミナも慣れれば出来るようになるよ!」なんて慰めを聞きながら、次は日菜子の言っていたプリクラコーナーに移る。プリクラなんて、撮るのは一体いつぶりだろうか。カナデは初めて撮るようで、物珍しそうに辺りを眺めている。


 適当な機械の暖簾を開け、お金を入れて指示通りにポーズを取る。なんだかこそばゆい気持ちになるなあと思いながら、カナデの横に突っ立って、無難なピースをカメラに向けた。


 「最後に仲良くハグしちゃおう~!」と機械が気の抜けた声を出す。


 は、ハグ⁉ 最近のプリクラは、そんなポーズもさせるの⁉ 慌てて横を見ると、カナデは落ち着いてハグかあと呟いていた。その表情から、心境は読み取れない。


 流石にハグはね、全然普通にピースとかでいいと思うけど……。


 3、2、とカウントダウン。あたふたしてたら、「1」で腰に手が回ってきて、カナデの柔軟剤の香りがふわっと包んだ。顔が近すぎて、息が止まった。


 呼吸の音が聞こえる。これはわたしの音じゃない。全身が心臓になってしまったかのようだ。体中がどくんどくんと大きく脈を打ち、視界がちかちかと光を放って眩しかった。


 気付けば撮影が終わっており、機械に写真の一覧が並んでいた。


「ミナ、最後の写真すごい顔」

「か、カナデが急に抱きついてくるからでしょ!」


 最後に撮ったハグのポーズの写真のわたしは、鳩が豆鉄砲を喰らったような、なんとも言えない変な顔をしていた。こんな顔を晒してしまうとは……。恥ずかしくなり、俯いてしまう。


 そのまま写真の落書きコーナーに移動し、二人とも落書きなんて得意じゃないから、無難にスタンプを押して無事体験は終了した。


 なんだかどっと疲れた気がするのは気のせいだろうか……慣れないことは、あんまりするものじゃないのかもしれない。


 写真のシールを仲良く半分こし、カナデが「ミナの変な顔のシール、スマホに貼ろうかな」なんて悪戯っぽく言うものだから、断固拒否をしてしまった。せめて、もっと普通の顔をした写真を貼って欲しい。


 変な顔のシールをまじまじと見つめる。カナデはなんてことなさそうに、わたしの腰に手を回している。


 女子同士だし、ハグなんてよくあるスキンシップだ。よくあることのはずなのに、なんでこんなにドキドキしているんだろう? 変に気にする方がおかしいし、わたしが変な顔をしているのは突然のことで驚いただけ……。まあ、この写真はこの写真で、悪くはないのかもしれないけど。


 ゲームセンターでのノルマを終えて、昨日昼休みに書いたメモ帳を鞄から取り出す。ええと、次は……若葉の言っていたアニメショップ。


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