繁華街を抜けて、若葉おすすめのアニメショップへ。初めてだけど、事前に調べたおかげでなんとか着いた。店内は意外と広く、漫画がぎっしり棚に詰まっている。
「あ、この漫画。新刊出てたんだ」
カナデが新刊コーナーから一冊を手に取る。聞いたことはあるけれど、読んだことのない少年漫画だ。
「カナデ、漫画読むの?」
「まあ、兄貴が結構漫画好きだからねー……面白そうなのがあったら、借りて読んだりするよ」
「えっ。カナデってお兄さんいるんだ?」
新情報だった。カナデから家族の話を聞いたのは、そういえば初めてかもしれない。
「言ってなかったっけ。大学生の兄貴が一人いるよ。いつも行くカラオケあるじゃん、あそこでバイトしてる……」
なるほど。毎回カラオケ代を安くしてもらえるのは何でだろうと思っていたら、お兄さんが働いていたのか。つまり、社割みたいな感じなんだろうなと納得する。それにしても、カナデのお兄さんかあ。
「会いたいとか思ってるでしょ? 働いてるの深夜だし、ろくでもないからやめときなよ」
わたしの考えを見抜いて、カナデが顔をしかめる。珍しい表情にちょっと笑った。仲が悪いとか、そういうのではなさそうだけれど。
結局カナデは漫画の新刊をレジに持っていったので、やっぱり兄妹仲はまずまず良さそうだった。わたしはあまり漫画を読む方ではないけれど、今度カナデからオススメの漫画を貸してもらう約束をした。
鞄の中からスマートフォンを取り出し、時間の確認をする。ちょうど三時を回っているところだった。甘いものでも食べたくない? とカナデを誘い、近くのコーヒーチェーンに歩き出す。
ガラス張りの店内の様子を外から確認すると、運良く座れそうな混雑具合だった。オーダー方法が独特で戸惑いそうだったが、日菜子のレクチャーのおかげでスムーズに注文できた。カナデは手慣れているのか、難なく注文する。わたしもカナデも、日菜子おすすめのフラペチーノを注文した。
二人席に座るなり、カナデが「今日のプラン、ミナが考えたの?」と聞いてきた。探る感じじゃなくて、なんだか悪戯っぽい笑みだった。わたしが考えたんじゃないの、見抜かれてるっぽい。
「ええと、クラスの友達に聞いて……」
「やっぱりね。だって所々ミナっぽくない場所があったし、なんかメモをチラ見してるし。色々考えてくれたんだね、ありがと」
照れくさそうに笑って、カナデはストローを口に咥えた。果実を含んだフラペチーノの液体が、勢いよく吸い込まれていく。ひととおり吸ったところで唇を離し、「普段あんまり行かないところもあって、楽しかったよ」と軽く笑った。
どうやらカナデは、このプランで一応楽しんでくれていたようだ。良かった、と胸を撫で下ろす。週明け学校に行ったら、若葉と日菜子にお礼を言わなないと。その前に、若葉から「美奈氏、デートどうだった⁉」と突っ込まれてしまいそうだけど。
日が少しずつ傾き、暑さも和らいできた頃。わたしにはもう一ヶ所、カナデを連れて行きたい場所があった。
そこは、若葉と日菜子の提案ではなく、唯一わたしが考えた行き先だ。スマートフォンで時間を確認する。ちょうど良い頃合いだ。
「最後に、連れて行きたい場所があるの」
カナデの目を覗き込みながら、言う。よく見ると、カナデの黒々とした瞳の奥に、ぼんやりとわたしの姿が映っていた。はっきりとした顔立ちのカナデや、正統派美少女のほのかと違い、いつ見てもぱっとしない冴えない顔だ。親からは、覇気がないなんてたまに言われてしまう。
こんなわたしが、今カナデの隣に立つ資格はあるのかな。自信が無くなってくる。でも、わたしは今、やれることをやるしかない。
「わかった。じゃあ、出ようか」
すっかり空になったプラスチックカップを軽々と持ち、カナデは立ち上がる。わたしも続けて立ち上がり、再びカナデをエスコートするために歩き出した。