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第七話 文化祭と胸のざわめき

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 月曜日、久々に遅刻。ホームの黄色いベンチから動けず、いつもの電車を見送った。下車した学生が、辺りで騒がしく群れている。


 わいわいと賑やかなその姿を横目に、溜息を吐き出す。脚を伸ばし、意味もなくつま先を上下させた。足元には、今日も一応持ってきた楽器ケースが置かれている。


 あの日、カナデとほのかは、無事仲直りをしたみたいだった。どんな話をしたかは分からないけど、カナデは清々しい顔で帰ったし、携帯にほのかの連絡先を再登録していた。対してほのかからも、長文でお礼のメッセージが送られてきていた。


 わたしが望んだ結末のはずなのに、胸が霧で覆われたみたいにもやもやして、今すぐ叫びたい衝動に駆られる。カナデとほのかが仲直りしたのは嬉しいはずなのに、心の奥底で別の何かが燻っている。それが何なのか、うまく言葉にできない。ただ、胸のあたりがざわついて、息苦しくなる。


 わたしはカナデの友達で、カナデもわたしの友達のはずなのに。頭では分かっているのに、心が追いつかない。そんなに簡単に、誰かとまた繋がれるのなら、わたしじゃなくてもいいってこと? わたしじゃなくても、カナデは笑うの?


――違う、そうじゃない。


 そんなことを考えている自分が気持ち悪い。なのに、止められない。胸の奥に沈殿しているこの感情は……。


 嫉妬。カナデを独り占めしたい。わたしだけ見ててほしい、特別でいたい。


 可愛い気持ちなんかじゃない。胃の奥がじくじく燻って、体が重い。こんな感情を抱くのは初めてで、どうしたら良いのか分からない。


 むしゃくしゃと頭を掻いていると、鞄の中のスマートフォンが振動する。若葉か日菜子からのメッセージだろうと思い取り出すと、案の定、三人のグループチャットに日菜子から心配したような文面が送られてきていた。優しい日菜子のことだから、わたしが姿を見せない理由を深読みして考えているかもしれない。


『電車逃して遅刻する! こないだは相談乗ってくれてありがとう、お出かけ上手くいったよ』


 トークに打ち込んで送信する。よし、これでいいはず。ちょっとだけ気が紛れて、気持ちが軽くなった。


 メッセージの横に既読の文字が付き、若葉と日菜子から了解とか、お疲れ様とスタンプが送られてきていた。二人が心配しているから、次の電車に乗って学校に向かわなければいけない。


 ベンチとぴったりくっついてしまったお尻に軽く力を入れる。立たなきゃ。わたしがここで時間を無駄に貪っていても、状況は何も変わらないし、気持ちを素直に受け入れるしかないのは分かっている。胸の奥に沈んだ鉛のような感情を、抱えていくしかないのだろう。


 十分後、後続の電車がホームに滑り込む。のろのろ立ち上がって乗り込むけど、気持ちはまだ宙に浮いたままだった。


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