「美奈ちゃんの音、奏に似てるね」
ほのかとの初練習の日。音出しをしていたら、横で聞いてたほのかがぽつりと言って、わたしは目を丸くした。
「えっ……そうなの?」
「うん、音が明るいし、華やかな感じがする。やっぱりいつも奏の音を聴いてるから、影響を受けてるのかもね」
トランペットを胸に抱える。カナデ以外の人前で吹くのは初めてで、緊張で手が震えそうだったけど、カナデの音に似てると言われるのは、お世辞でも嬉しかった。
「私は奏みたいな音色、出せないからなあ。羨ましいよ」
ほのかが俯いて、銀色の楽器をじっと見つめる。その瞳は、照明の光を受けて少しだけ揺れている気がした。段違いに上手いほのかがそんなこと言うなんて、優しさなのかな。でもどこか切なそうで、胸が疼いた。
「でも、ほのかちゃんの音って優しくて柔らかくて、憧れるよ」
「えへへ、ありがとう。あんまり言うと、奏に怒られちゃうかもよ?」
ほのかはおどけたように笑う。カナデの音が好きなのはもちろんだけど、ほのかの音に憧れているのも本当だった。
「それにしても、あの奏が弟子を取るなんてねえ」
「だから、弟子って程じゃないよ……」
ほのかは楽器を抱えながら腕組みをした。うーんと考え込んだ後、わたしを見据える。
「奏って昔から自由人で、他の子と馴れ合わないタイプだったから。中学の頃なんかピリピリしてたし……すっかり丸くなったね。美奈ちゃん、相当気に入られてるよ」
「ええ?」と反応する。確かに、学校でカナデが誰かと過ごしてるのは見たことがないし、他人と馴れ合わないのは本当だと思う。そのほうが、わたしには都合が良いけれど。ピリピリ……はちょっとよく分からないけど、少なくとも、今のカナデからそんな棘は感じない。
それにしても、そんなカナデが、どうしてわたしと一緒にいてくれるんだろう。あの日の気まぐれ? それとも、何か理由があるのかな。
「……さて! まずは、美奈ちゃんの演奏を聴かせてもらおうかな。奏から課題、出されてるんだっけ」
気を取り直したように、ほのかはわたしの持っていた譜面を覗き込む。カナデがわたしのために用意した、練習曲だ。昔カナデも練習していたのか、鉛筆で幼い文字の書き込みがしてあった。
ほのかに見守られながら、楽器を構える。失敗しても大丈夫だよ〜とほのかは言うが、見つめられるとやっぱり緊張してしまう。
深く息を吐き出し、マウスピースに息を吹き込んだ。譜面の音を一つずつ、明確に鳴らしていく。大丈夫、吹けている。このまま、ちゃんと息を入れていけば……。
一番苦手意識のある、高音のあるフレーズが近付いてくる。音をイメージして、上から狙うんだ。音を……。
「……あっ」
狙った音が外れて、変な音が響いた。咄嗟にマウスピースから口を離して、曲が途切れて顔が熱くなった。