スノーホワイトが「
スノーホワイトと七人のサムライ、そして馬たちまでもが、次々と自力で岸に這い上がった。しかし、水中から引き上げられたハンターの体は、岸辺に横たえられたまま、目を閉じて動かない。
「嘘……こんなのイヤよ、ハンターさんっ! お願い、返事して……!」
スノーホワイトはハンターの名を呼び、必死に体を揺さぶる。だが、ハンターは完全に心肺停止状態だった。
「もう……もうダメなの⁉ だったらもう、降伏する!」
心が折れたスノーホワイトは、突拍子もないことを口走る。
「あの人に降伏して、ハンターさんを生き返らせってって、頼むしかない……!」
「なんでやねん! 姫様、ちょっと落ち着きなはれ!」
七尾キョースケが一喝して、泣きわめくスノーホワイトを黙らせた。一文字ナイトが口を開く。
「姫君、まだ終わってないでござるよ! 急いで、心臓マッサージと人工呼吸を!」
「な、何それ……?」
スノーホワイトが困惑する。
「ふふふ……王国の医学は遅れておるな。よかろう、我が指南しよう……ムサシ、実演しろ」
ムサシが分身して、自分で自分に心臓マッサージと人工呼吸を施すジェスチャーをしてみせた。ゲンシュウが解説を加える。
「まず、胸の真ん中を手で押す! 一定のリズムで、三十回! それから、ああやって鼻をつまんで、口から息を吹き込む!」
「ゲンシュウてめえ、こういう時は普通に説明できるじゃねえか!」
ホーチキがツッコミを入れる。スノーホワイトは大きくうなずいた。
「分かったわ! やる!」
スノーホワイトの判断は早い。すぐさまハンターの体にまたがると、胸に両手を置き、力を込めて押し始めた。
「1、2、3……!」
胸骨圧迫を終えると、すぐさま唇をハンターの口元に近付ける。
「えっ、人工呼吸まで、姫様が⁉」
「何? 代わってる暇はないわよ。こっち見ないで」
七人があわてて回れ右して視線をそらすと、スノーホワイトはためらいなく、口移しでハンターの肺に息を送り込んだ。
すると——
「ゴホッ……ガハッ……」
ハンターが息を吹き返し、水を吐き出しながら大きく咳き込んだ。
「ハンターさん! 良かった、生きてた……!」
スノーホワイトが泣きながら、ハンターの胸に顔を寄せる。ハンターは、ため息を吐きながら、力なくつぶやいた。
「まったく……罠師が、罠にかかるとはな……」
「軍師殿、どういう意味でござる?」
一文字ナイトが問いかけると、ハンターは悔しげに語った。
「第三の眼は、獲物を正確に追尾する。橋の向こうの巨大な魔力が、少しずつ動いていたんだ。それに気を取られているうちに、橋の正体に気づくのが一歩遅れた……」
ハンターは自嘲しながら苦笑いしたが、すぐに声に力を込めて続ける。
「だが、ただでは終わらんぞ。橋は無くなった。ならば、我々で橋をかけ直すまでだ。どうせなら、ただの橋じゃなく、橋の借りを橋で返してやろう……」
ハンターの頬に、再び血の色と熱気が戻り始めていた。
そんな彼らを、川向こうから見つめ続ける影があった。
――王妃の使い魔カラスだった。
カラスの目は闇夜の中でギラギラと光りながら、革命軍の監視映像を魔法の鏡に送り続けていた。
スノーホワイトたちが大魔橋を渡ろうとする瞬間も、落下してハンターが溺れ、救命されるまでの一部始終も、王妃には筒抜けだった。
「渡るタイミングにバッチリ合わせて橋を消したのに。ハンター、悪運の強いやつね?」
「また私に作戦聞かないで、勝手に先走って失敗ですか。天下の大軍師を川ポチャで始末しようとか、安易すぎません?」
「うるさいわね。途中まではうまく行ってたのよ。あの宝玉を、カラスの足にぶら下げておいたの。ハンターったら案の定、宝玉を私本人だと思い込んで、橋を渡ってきたんでしょ?」
「あなたも宝玉も、強力な魔力を発してますからね」
「そうなのよ。ハンターはいつだって、一番強い輝きを見ると、それに心を全部奪われてしまう男。そうよね?」
「あなたを裏切って、今やスノーホワイト王女殿下のファーストキスのお相手ですし」
「キスじゃなくて人工呼吸よ! それに、私とは何でもないの。私はただ、失明したあいつが魔の森で獲った野獣のくっさい肉とか内臓とか、別に要らないけど、全部言い値で買ってやってただけよ」
ため息をつきながらサニーは、窓からふと、オステル川の方角を眺めた。
「そしたら、『慈悲深き王妃陛下』とか言って、尻尾を振って
空は少しずつ白みはじめ、間もなく地平線から朝日が昇ろうとしていた。サニーは悔しげな目をしながら、窓にそっと背を向けた。