「ドォーン!」
地を震わす轟音が響き来る。
それは『鬼』と黒い巨人とが同時に突き出した腕同士がぶつかり合う音だった。
湯気を漂わせる筋骨隆々とした腕と、黒々とぬらつく太い腕。
その二つが軋みを上げんばかりにガッチリと組み合っていた。
形成は瞬く間に判明する。
『鬼』は猛然たる勢いで黒い巨人をグイグイと押しつつあったのだ。
狼狽した様の巨人は、立て続けに水撃を迸らせる。
けれども、『鬼』を怯ませようとしたであろう試みは全く以て効果を為さなかった。
『鬼』は怯む素振りなど露ほども見せず、悠々たる様にて巨人を波打ち際へと押し返しつつあったのだ。
「グゥォォォォ!」
野太い雄叫びと共に、「ブチン!」と何かが引き裂かれるような鈍い音が響き来る。
果たして何事かと見遣る僕。
胸中に戦慄が拡がり行く。
黒い巨人の両腕は、その肩口からすっかり喪われていた。
『鬼』が力任せに引き千切ってしまったのだ。
『鬼』が握り締める巨人の腕は、端のほうからボトボトと海水を滴らせていて、たちまちの内に消え失せてしまった。
それは、水風船から中身が漏れ出してしまい、瞬く間に萎れ行く様を思い起こさせるものだった。
一際大きな水撃が『鬼』の顔面を直撃する。
僕らの傍まで
きっと、起死回生を狙った懸命の反撃だったのだろう。
けれども、それを喰らった『鬼』の様子に露ほども変わるところは無かった。
両目に宿る赤い光が瞬いたように思えた。
まるで、巨人の懸命の抗いを嘲るようでもあり。
『鬼』の右腕が横凪ぎに一閃し、「バァン!」と鈍い音が響き渡る。
怖々と見遣ると、黒い巨人はその頭部すらも喪って棒立ちとなっていた。
『鬼』がその両腕を差し伸ばす。
力を漲らせた両の手が、頭も腕をも失ってしまった巨人の両脇を
そして『鬼』は、
巨人の身体を頭上まで高々と持ち上げた『鬼』は、「グォッ!」と気合いを迸らせながら海原へと勢い良く放り投げてしまう。
巨人の身体は相当な遠くまで投げられてしまったのだろう。
「バシャン!」と海原を叩く音が響き来たのは、随分と時間が過ぎ去った後だったように思う。
そして、夜の海原は静けさを取り戻した。
⑤