『あなたの婚約者は何の面白みもない、財産だけが取り柄の平民モブよ。男爵令嬢の貴女の方が立場は上だから、尽くす必要なんてないわ。けど程よく機嫌だけは取っておくのよ? 学園へ無事通える年齢になるまでの資金源としては、キープしておきたいもの』
8歳のときは熱が下がった途端、それまで父が秘密裏に勧めていた裕福な商人の息子との婚約を言い当てた。
「お父様なんて大嫌い! お金がすべてじゃないわ。わたしはお母様を想うお父様みたいに、一途なお方と婚約しますの」
言い切る娘に、両親は揃って言葉に詰まった。彼らは貴族の中では珍しく、政略ではなく恋愛による結婚をしていたのだ。更に母が一命を取り留めたことによって、二人はより深い愛情で結ばれることになっていた。思い合っての結婚の大切さを知る自分たちがなんたる思い違いを! と考え直したらしく、わたしの婚約話は立ち消えとなった。