『いい加減退場してくれない!? 原作崩壊著しいんですけどぉ? あんた、もしかして……あたしと同じ前世持ちで、転生チートで逆ハー築こうとしてるあたしの邪魔してる? 消えずにあたしを陥れて、逆ザマァしようとしてる? そんな訳ないわよね、いつまでも男爵家なんかにしがみついて、イイ男の一人も捕まえないあんたなんて、トロくさいだけよね。
良い? あんたの敵は聖女だけなのよ。だから、せめてあの女を何とかしなさいよ! あんたがぼやぼやしてるから、聖女がちゃっかり王子様を射止めちゃってるでしょ!』
16歳では、夢の少女が執拗に執着する「聖女」と共に邪龍の討伐へと参加することになった。王国の命運を握る重要な作戦への選抜は、またとない栄誉だ。聖女は、わたしと同じく王立貴族学院の在学生で、この世で唯一「浄化」の力を持っている。それもとびきり強大な。
彼女無くしては、王国の平和は無いのに、夢の少女はどうして彼女を目の敵にするのか……? まぁ、実態の無い夢の中の存在に、まっとうな考えがあるとも思えない。
そんなことより重要なのが、わたしの体調だ。ここのところ熱もないのに頻繁に眩暈に襲われることが多くなり、気を失いかけて、必死に意識を凝らすことが増えてきた。武芸を嗜み、体力と集中力を高め続けてきたわたしだからこそ耐えられるけれど、ただのご令嬢だったら間違いなく前後不覚に陥って倒れている。
「わたしのことはお気遣いなく。聖女リリアンネ様は、王太子殿下と共に邪龍討伐のことにのみ、御心を向けてください」
王太子とわたし、そして副騎士団長の地位を得ていたサンディス様以外、成人男性だけで結成された討伐隊で行動する1年の間、常々わたしを気遣ってくださるリリアンネ様とは自然と距離が近付き、親友の枠に収まった。わたしたちの仲は、サンディス様や、彼女の婚約者の王太子殿下が「嫉妬するなぁ」と茶化して仰るほどにね。
そして遂に邪龍討伐を成し終えた。リリアンネ様は程なく王太子妃となり、王城へ上がられても、わたしを側近くに何度も呼び寄せて親しくさせていただいている。そして何度も同じことを仰る。「トリ様、貴女の中に別の何かが巣くっております。邪龍のように存在が害を成すモノではない気配なのに、トリ様にとって良くない感情を持っているようです。心当たりはありませんか?」と、心底気遣わし気に。
「知っております。幼き頃よりわたしの夢の中には、2年に一度、どうにも抗えないほど大きく声を発する黒髪の少女が宿っております。半年後の18歳を迎える瞬間に、また彼女の声は大きく響きわたしの心を乗っ取ろうとするでしょう。正直、彼女の声は段々と大きくなっていて、近頃では何をしていても常に小さく彼女の声がわたしの中に響いているのです」
いつ、この身の自由を奪われるかもしれない不安と恐怖。18歳を目前に控えたわたしは、この焦燥感と諦めに似た感情に心を支配されつつあった。だから、討伐から無事に戻ってすぐにサンディス様から受けた婚約の申し入れを受け入れられずにいる。けれど、誕生日を翌日に控えた今日、彼に「トリシアを想う私たちの力を、高き
「わたしの我儘に付き合ってくれてありがとう。今夜、きっと9回目の夢がやって来る。今度こそ、わたしひとりの力では耐えられないかもしれない」
そう言えば、すっかり親友となった聖女リリアンネ様が、力強い笑みを浮かべてわたしの手を握り占めた。サンディス様も傍にいて、優しくも力強い瞳を向けて、わたしを見守っていてくれる。そうしてわたしは「わたし自身」の存在を賭けて、最後かもしれない眠りに就いた。