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第11話:悪魔討伐2回目!国王涙目

小人の国との戦争が、俺のくしゃみ一発というあまりにもあっけない形で終結した後、王宮では緊急の戦後処理会議が開かれていた。


豪華な会議室には、国王陛下を筆頭に、主要な大臣たちが顔を揃えている。


部屋の空気は重く、彼らの表情は一様に険しい。


「まさか、中立を保っていた小人の国が、このタイミングで我が国に牙を剥くとは……」


「背後に魔王軍がいるのか、あるいは別の勢力が唆したのか……」


「いずれにせよ、竜の姫君の力添えがなければ、国境線は突破されていたでしょうな」


「しかし、その姫君の力は我々の制御下にあるわけではない。今後の関係性をどう構築すべきか……」


小声で交わされる議論は、安堵よりも困惑と懸念の色が濃い。


予想外の勝利は、新たな悩みの種を生んだようだ。


賠償問題、外交方針の転換、そして何より、俺という規格外の存在をどう扱うか。


彼らの頭痛は尽きないだろう。


まあ、俺自身はその時、そんな深刻な会議が開かれていることなど露知らず、戦場からの帰路をのんびりと(低空飛行で)進んでいたのだが。


ガチャッ!


重苦しい空気が漂う会議室の扉が、軽い音と共に開かれた。


「急ぎの話って聞いたんだけどー? 何かあったのか?」


呑気な声と共に現れたのは、他ならぬ俺だった。


その場違いな明るさに、大臣たちが一瞬ぎょっとした顔をする。


だが、彼らの驚きはすぐに別のものへと変わった。


俺の片手が巨大なものを引きずっていた。


黒く焼け焦げ、まだ熱気と微かな煙を放っている、巨大な猪のような塊。


よく見れば、それは角と蹄を持つ、明らかに異形の存在――悪魔だった。


「あ、これな」


俺はそれを無理矢理会議室へ引っ張り込み、ドン、と会議室の床に無造作に置いた。


床の大理石がミシリと音を立てる。


「なんか小人軍の近くでコソコソ偵察してたっぽい悪魔。邪魔だったから、ついでに捕まえて焼いてきた。お土産?」


まるで近所の森で珍しいキノコでも採ってきたかのような軽い口調。


悪魔はまだかろうじて生きており、虚ろな目で天井を見上げながら、かすれた声で呟いた。


「……ころして……」


会議室は、水を打ったように静まり返った。


国王も、百戦錬磨の大臣たちも、ただただ絶句している。


(ま、また悪魔!? しかも生け捕り!? しかもなんか調理済み(?)みたいになってる!?)


誰もが同じことを考えていただろう。


この竜姫(♂)は、一体どこまで規格外なのか、と。


最初に我に返ったのは、やはり国王だった。


彼は深呼吸を一つして平静を取り繕うと(内心では「またかよ……!」と叫んでいたかもしれないが)、威厳ある声で命じた。


「……宝物庫より聖剣を持ってこい」


もはや手慣れたものだ。


悪魔が現れたなら、王が聖剣で滅ぼす。


それがこの国の、新たな「お約束」になりつつあった。


ほどなくして、厳重な警備と共に聖剣が運び込まれる。


国王は静かに聖剣を抜き放ち、悪魔の前に立つ。


その顔には疲労の色も見えるが、王としての覚悟が宿っている。


「我が国の名の下に、汝を滅する」


静かに、しかし力強く宣言し、国王は聖剣を振り下ろした。


ズバァァァ!!


聖なる光が悪魔の体を貫き、浄化していく。


「……ありがと……う……」


なぜか感謝(?)の言葉を残し、猪型悪魔は完全に光の粒子となって消滅した。


「おお! さすがは陛下!」


「二度までも悪魔を滅ぼされるとは! まさに英雄! この偉業、歴史に刻まれることでしょう!」


「我が国の誇りですぞ!」


大臣たちが、ここぞとばかりに国王を褒め称える。


確かに、悪魔殺しは人間にとって至難の業だ。


それを二度も成し遂げた国王は、英雄として語り継がれるだろう。


俺の助力(?)があったとはいえ。


しかし、当の国王本人は、内心穏やかではなかった。


(……またか……。確かに、悪魔を滅ぼすのは王の務め。民からの称賛も嬉しい)


(だが、しかし! 今後もこの調子で姫君が悪魔をホイホイ持ち帰ってきたら、我が身がいくつあっても足りぬではないか! 聖剣を使うのだって、ただではないのだぞ! 体力の消耗が激しいのだ!)


国民や臣下の前では決して見せないが、国王は今後の悪魔デリバリーに本気で怯え、胃が痛くなる思いだった。


内心は涙目である。


一方、俺はといえば。


(おー、やっぱ国王の聖剣、便利だな。俺がいちいちブレスで吹っ飛ばすより確実だし、王宮が壊れる心配もない。よし、次も悪魔を見つけたら捕まえて国王にパスしよう! 俺、天才じゃね?)


国王の苦悩など知る由もなく、俺は効率的な悪魔処理システム(国王への丸投げ)の確立に、一人満足していた。


さて、悪魔騒ぎが一段落し、会議は本題である小人軍の戦後処理へと移った。


「それにしても、賠償をどうするか……実質的に勝利をもたらしたのは竜の姫君ですが」


「ならば、賠償に関する決定権も、姫君にお委ねするのが筋かと存じますが……」


大臣の一人がそう提案した瞬間、俺は椅子の上でだらけていた体勢から、がばりと上半身を起こした。


「……は? 俺が決めるの?」


冗談じゃない。


賠償がどうとか、外交がどうとか、そんな面倒なこと、俺が考えられるわけがないだろう。


「待て待て待て、俺は気持ちよく暴れたり、美味い飯食ったり、快適な風呂に入ったりしたいだけだぞ? 面倒なことは全部お前らがやれよ。それがお前らの仕事だろ?」


「そ、それはそうですが、姫様! 今回の戦勝の最大の功労者として、しかるべき権限と責任が……!」


「だからそういうのいいって! 面倒くさいのは嫌なんだよ!」


「しかし姫様、それでは筋が……!」


「俺が嫌だって言ってんだから仕方ないだろ!」


俺は全力で責任を回避しようと駄々をこねる。


大人げないとは分かっているが、面倒なものは面倒なのだ。


押し問答が続き、会議室の空気が再び重くなりかけた、その時。


国王が(疲労困憊の顔で)助け舟を出した。


「……まあ、待て。姫君に複雑な政治判断を委ねるのも酷であろう。賠償問題については、我が国が主導して進めることにする」


その言葉に、大臣たちも(不承不承ながら)頷く。


「しかし、姫君には今回の多大なる功績に対する、相応の報酬を受け取っていただかねば、我が国の沽券に関わる」


(げっ、また報酬の話かよ……だから、今の生活で十分だって……)


俺は内心うんざりしたが、国王の顔には「これは譲れない」という意志が見て取れる。


何か適当なもので手を打つしかないか……と考えた瞬間、俺の頭にある考えが閃いた。


「そうだ!」


俺はポンと手を叩く。


「俺、前に王妃様のこと、ゲームに出てくる魔女みたいって言っちゃったの、あれ、めちゃくちゃ反省してるんだよ!」


突然の告白に、会議室の全員がきょとんとした顔になる。


「だからな、その謝罪の気持ちとして、王妃様に何か豪華なプレゼントを贈りたいんだ! それを、今回の報酬ってことにしてくれ! これで万事解決だろ!」


もちろん、謝罪の気持ちがゼロではない。


ないが、9割方は「面倒な報酬の話をこれで終わらせたい」という下心から出た方便である。


俺のあまりにも突拍子もない提案に、大臣たちは再び呆然。


国王は一瞬、俺の顔をじっと見つめた後――天を仰ぎ、深々と、それはもう深々と、ため息をついた。


(……もう、それで良いか……。この姫君に常識を求めるのが間違いなのだ……)


心の声が聞こえてきそうなほどの諦観と共に、国王は力なく頷いた。


「……分かった。では、姫君から王妃への謝罪の品――例えば、豪華な衣装などの準備を、今回の功績への報酬として、国が全面的に負担する、ということで……よろしいですかな?」


「おう! それでいいぜ! 話が分かるじゃないか、国王!」


俺は満面の笑みで答えた。


面倒事回避成功! やったぜ!


こうして、戦後処理に関する重要な会議は、俺の鶴の一声(?)によって、妙な形で決着がついた。


国王はどっと疲れが増した顔で椅子に沈み込み、大臣たちは何とも言えない表情で顔を見合わせている。


――後日、俺がデザインに口出しした結果、非常に露出度の高い(しかし最高級の素材で作られた)豪華な衣装を贈られた王妃が、国王の隣で恥ずかしさのあまり涙目になっている姿が見られることになる。


そして俺は、そんな王妃からの返礼として贈られた(毒かもしれない)林檎を、「やっぱ美味いな!」と無邪気に頬張るのだった。

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