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第18話:王宮帰還! 日常と新たな依頼

支援と後片付けを終えた俺は、「復興支援物資」と比べると軽すぎる生意気勇者と共に王宮の中庭に着地した。


まあ、着陸っていうか、ほとんど落下に近い勢いを無理やり減速させただけなんだが。


俺自身はピンピンしてるけど、問題は――


「さむい……はやすぎ……」


地面に降り立った瞬間、生意気勇者は膝から崩れ落ちていた。


「ただいまー! いやー、やっぱ空飛ぶのは最高だな!」


俺は悪びれる様子もなくブンブンと手を振る。


出迎えてくれた王宮の女官やメイドたちは、その光景を見て(ああ、ドレスが……)と言わんばかりの苦笑いを浮かべていた。


まったく、失礼な奴らだ。


せっかく俺が最速で帰ってきてやったってのに。


「姫様、お疲れ様でした。すぐにお風呂の準備を整えさせます」


「勇者様、こちらへ控えの間へどうぞ。お飲み物をご用意いたします」


さすがは王宮の使用人、手際がいい。


俺の「まず風呂!」という欲求を完全に理解してくれている。


俺は意気揚々と風呂場へと直行した。


「ぷはーっ! やっぱ王宮の風呂が一番だぜ! 五臓六腑に染み渡るわー!」


広い湯船に体を沈め、俺は至福の声を上げた。


乳白色の滑らかなお湯が、戦い(と、ちょっとした飛行の疲労?)で凝り固まった体を芯から解きほぐしていく。


これだよ、これ! このために俺は頑張ってるんだ!


「姫様、お背中をお流ししますね」


「髪のお手入れもさせていただきます」


数人のメイドたちが、慣れた手つきで俺の体を洗い、長い銀髪を丁寧に梳かしてくれる。


まさに極楽。


うっかり寝落ちしそうになるのを必死で堪えていると、湯気の向こうから不機嫌そうな声が聞こえた。


「……あんたねぇ、少しは反省しなさいよ。私がどれだけ怖い思いしたと思ってるの!」


見れば、生意気勇者が頬を膨らませながら湯船の隅に浸かっていた。


最初は「あんたと一緒に入るなんて!」とか言ってた癖に、結局この風呂の魔力には逆らえなかったらしい。


「えー、楽しかっただろ? スリル満点で」


「どこがよ! 本気で寿命が縮んだわ!」


まあ、確かにちょっと速度出しすぎたかもしれん。


反省は……まあ、気が向いたらするかな。


風呂でさっぱりした後は、お待ちかねの食事タイムだ。


豪華な食堂には、俺と王女様、そして(まだ少し顔色が悪い)生意気勇者の席が用意されていた。


テーブルの上には、見た目も美しい料理がずらりと並んでいる。


「んー! うまい!」


俺は早速、一番美味そうな骨付き肉にかぶりつく。


香ばしく焼かれた表面、滴る肉汁、そして噛むほどに旨味が広がる柔らかい肉質! 最高だ!


当然のように、俺は骨までバリバリと音を立ててしゃぶり尽くす。


「……あなた、本当にそれやめなさいよね……」


生意気勇者が呆れた目を向けてくるが、隣の王女様は優雅に微笑んでいた。


「ふふ、姫様が美味しそうに召し上がっているのを見ると、こちらまで嬉しくなりますわ」


「ほらな!」


「そういう問題じゃ……!」


生意気勇者が何か言いかけるが、俺は気にせず次の料理に手を伸ばす。


そういえば、と俺は巨人族との戦いを思い出した。


「やっぱ、くしゃみはヤベェよな……威力の調整とかできねぇのかな? 下手に街中で暴発させたら、洒落にならん」


俺が真面目な顔で呟くと、生意気勇者も少し真剣な表情になった。


「今さら気づいたの? あんたの力、便利だけど危険すぎるのよ。その破壊力、自分でも制御できてないでしょ? 少しくらい制御できるようになりなさいよね」


うぐっ、正論。


確かに、いつまでも「くしゃみしたら街が半壊しました」じゃ済まされないよな。


「姫様のお力は素晴らしいですが、確かに制御できるに越したことはありませんわね」


王女様が、優しくも的確な助言をくれる。


「もしよろしければ、騎士団の訓練なども参考にされてはいかがでしょう? 力の制御に特化した訓練もあると聞いておりますわ」


「うーん、訓練かぁ……めんどくせぇけど、やるしかないか……」


俺は渋々ながらも頷いた。


いつまでも本能任せじゃダメだってことか。


……まあ、気が向いたら、だけどな!


食後のお茶の時間。


王女様の私室で、俺たちは優雅に(俺以外は)紅茶を楽しんでいた。


最高級の茶葉の香りが鼻腔をくすぐる。


「そういえば姫様、実は……」


王女様が、ふと真剣な面持ちで口を開いた。


「エルフの国から、正式な使者がお見えになっているのです」


「エルフ?」


俺は首を傾げる。


ファンタジー世界の定番種族だが、直接会うのは初めてかもしれない。


「はい。先ほど、姫様にもお会いしたいと控えの間でお待ちです」


俺が「へぇ」と相槌を打つと、タイミングよく侍従が部屋に入ってきて告げた。


「王女殿下、姫様。エルフの国の特使、エルウィン様がお見えです」


やがて、厳かな雰囲気と共に、長い耳と美しい緑色の瞳を持つ、壮年のエルフが部屋に入ってきた。


その佇まいは高貴で、纏うローブも上質なものだと一目で分かる。


「拝謁の栄誉、誠に忝く存じます。竜の姫君、そして王女殿下」


エルウィンと名乗るエルフは、深々と優雅に礼をした。


その表情には、深い憂いと、切実な何かが浮かんでいる。


「我が国は今、森を蝕む深刻な異変に悩まされております。


魔物の凶暴化、原因不明の森の汚染、そして精霊たちの力の減退……我々の力だけでは、もはや対処しきれぬ状況なのです」


使者は一呼吸置き、俺を真っ直ぐに見据えた。


「つきましては、強大なお力を持つと伺っております竜の姫君に、どうか、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか?」


その声は震えていた。


国の存亡がかかっているのだろう。


必死さがひしひしと伝わってくる。


「えー、また仕事かよ……俺、休みたいんだけど」


俺は思わず本音を漏らした。


だって、ついさっき帰ってきたばかりだぞ?


しかし、俺の言葉を聞いた王女様が、静かに、だが有無を言わせぬ響きで口を開いた。


「姫様、困っている方々を見過ごしにはできませんわ。それに、エルフの国は古くからの友好国でもあります。どうか、お力をお貸しくださいませんか?」


王女様の真っ直ぐな瞳に見つめられると、俺は弱い。


それに、エルフの使者の必死な様子も、なんだか放っておけない気がしてきた。


「……はぁ、わーったよ」


俺は大きくため息をつきながら、降参するように両手を上げた。


「王女様が言うなら仕方ねぇな。美味いもん食わせてくれるなら、行ってやるよ。エルフの国の料理って美味いのか?」


俺の現金な返答に、エルフの使者は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに顔を輝かせた。


「は、はい! もちろんです! 最高のおもてなしをお約束いたします!」


「よっしゃ! なら決まりだな!」


「仕方ないわね」


隣で生意気勇者がやれやれといった顔で呟いた。


「あんた一人じゃ心配だし、私も行くわよ。エルフの森って、ちょっと興味あるし」


こうして、俺たちの次なる行き先は、エルフの国に決定した。


まったく、休む暇もねぇな! まあ、美味い飯と新しい冒険が待ってるなら、それも悪くないか!

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