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第22話:誰がこの剣を? 神剣、誕生!

エルフの森での一件を終え、俺たちは王宮へと帰還した。


まあ、「帰還した」っつっても、俺が強引に飛んで連れてきただけなんだが。


案の定、レオナルド騎士団長と生意気勇者は着陸と同時にグロッキーになっていたが、そんなことは俺の知ったこっちゃない。


エリアーヌ姫が平気な顔をしてたのは少し意外だったな。


「やっぱ王宮は最高だぜ! まずは風呂! 次に飯だ!」


俺は報告もそこそこに、真っ先に自分の欲求を満たすべく行動を開始した。


王宮自慢の超豪華大浴場に飛び込み、極上の湯で汚れと疲れ(主に精神的な)を洗い流す。


あー、生き返るわー。


これがあるから、面倒な依頼も引き受けられるってもんだ。


俺が風呂と食事で完全にリラックスモードに入っている間、王宮では俺が持ち帰った例の「元・呪いの魔剣」(仮)について、ちょっとした騒ぎになっていたらしい。


まあ、そりゃそうだよな。


見るからにヤバそうなオーラ放ってたし。


ようやく満腹になって、王女様の私室でお茶請けの焼き菓子(これがまた絶品なんだ!)を堪能していると、レオナルドが報告にやってきた。


その顔はまだ少し青いが、騎士としての威厳は取り戻している。


生意気勇者と、客分として王宮に滞在することになったエルフの姫、エリアーヌも同席していた。


エリアーヌ姫は、まだ少し緊張しているようだったが、王女様が淹れてくれたハーブティーを静かに飲んでいる。


「姫様、例の剣についてですが、王宮の魔法使いたち、そして王妃陛下にもご協力いただき、調査を進めております。しかし……」


レオナルドは、そこで言葉を切り、難しい顔をした。


「なんだよ、ハッキリ言えよ。やっぱとんでもなくヤベー代物だったんだろ?」


俺がお菓子をポリポリやりながら尋ねると、レオナルドは重々しく頷いた。


「はい。剣には依然として、触れた者の魂を蝕むような強力な呪いの残滓が認められます。迂闊に扱えば精神を汚染されかねない、極めて危険な代物であることに変わりはありません」


「だよなー」


「ですが……同時に、それを打ち消すかのような、未知の……非常に強力で清浄なエネルギーが内部で混在し、せめぎ合っている状態にある、とのことです。専門家たちも『これほど不安定かつ強大な力を秘めた物は見たことがない』と……」


どうやら、俺が触ってビリビリした時に、俺の力が流れ込んじまったらしい。


その結果、呪いと俺の力がケンカして、なんかよくわからんけど超不安定な状態になってる、と。


「ふーん、不安定ねぇ。爆発したりしねぇだろうな?」


「今のところその兆候はありませんが、予断は許しません。それで、専門家の方々も結論を出しかねているのです。この剣は破壊すべきか、あるいは厳重に封印すべきか……。しかし、その内部に秘められた未知のエネルギーは、あるいは使いこなせれば比類なき力になる可能性も秘めている、と……」


「へぇ、じゃあ誰か使える奴がいればラッキーってことか? 例えば俺とか?」


俺が軽いノリで言うと、レオナルドは「姫様……あなたの力が原因だと思われる以上、あなたが触れるのは最も危険かと……」と真顔で返してきた。ちぇっ。


その時だった。


それまで黙って紅茶を飲んでいた生意気勇者が、ふと顔を上げた。


その視線は、部屋の隅――厳重な結界が何重にも張られ、特別な台座の上に安置されている「元・呪いの魔剣」(仮)へと、真っ直ぐに注がれている。


「……?」


彼女は眉間に皺を寄せ、何かを探るように剣をじっと見つめている。


その横顔は真剣そのものだ。


「どうしたんだよ、生意気勇者? 腹でも痛ぇのか?」


俺が声をかけると、彼女はハッと我に返った。


「なっ……! ち、違うわよ! ただ……」


彼女は少し言い淀んだ後、再び剣に視線を戻した。


「……わからない。でも……あの剣、なんだか……私を呼んでるような気がするの」


「は? 呼んでる?」


俺は思わず首を傾げる。


剣が人を呼ぶ? ファンタジーのお約束かもしれんが、現実(?)に起こるとやっぱり変な感じだ。


しかも呼んでる相手がこの生意気勇者ってのが、またなんとも。


「勇者様、危険ですわ。その剣にはまだ強力な呪いが……」


王女様が心配そうに声をかける。


エリアーヌ姫も不安げな表情で彼女を見つめていた。


「わかってる。でも……どうしても気になるのよ。あの剣、他の武器とは何かが違う……。私にしか感じられない、何かがある気がする」


生意気勇者は、まるで何かに導かれるかのように、ゆっくりと剣に向かって歩き始めた。


その瞳には、恐怖よりも強い好奇心と、運命的な何かを感じているかのような、不思議な光が宿っていた。


「お待ちください、勇者殿!」


「危険です! それ以上は!」


部屋の隅に控えていた専門家たちが慌てて止めようとするが、生意気勇者は彼らの声など耳に入らない様子で、結界が張られた剣の前で立ち止まった。


「……」


俺は成り行きを見守ることにした。


根拠はないが、こいつなら、もしかしたら何か起こせるかもしれない。


そんな気がしたのだ。


それに、もし本当にヤバくなったら、俺が割って入って助ければいい。


生意気勇者は、目の前の剣をじっと見つめ、深呼吸を一つした。


その表情には、緊張と、わずかな不安、そしてそれを上回る強い決意が見て取れる。彼女は意を決したように、震える手を伸ばし――


その禍々しくも、どこか神聖な光を放ち始めている、奇妙な剣の柄に、そっと触れた。


その瞬間だった。


パァァァァァァッ!!!


剣から、太陽が爆発したかのような眩い光が溢れ出した! 部屋全体が純白の光で満たされ、俺たち全員が思わず腕で目を覆う。


「うわっ!?」


「きゃあっ!」


「おおっ!?」


光の中心で何が起きているのか、全く見えない。


ただ、凄まじいエネルギーの奔流が部屋を満たし、空気をビリビリと震わせているのが分かる。


それは、魔剣が放っていた禍々しい呪いのオーラとは完全に異質の、清浄で、力強く、そしてどこか俺の力にも似た、温かいような、不思議なエネルギーだった。


どれくらいの時間が経っただろうか。


眩い光がゆっくりと収まっていく。


俺たちが恐る恐る目を開けると、そこには――


「……これは……」


生意気勇者が、呆然とした表情で、光り輝く剣を手に立っていた。


さっきまでの禍々しいオーラは完全に消え去り、代わりに剣全体が美しい黄金色の光を放っている。


光を吸い込むようだった漆黒の刀身は、まるで磨き上げられた鏡のように輝き、そこには優美で力強い紋様が浮かび上がっていた。剣身に走っていた微細なヒビも完全に消え、より洗練された、神々しいフォルムへと変化している。


まるで、長きにわたる呪いの殻を破り、真の姿――「神剣」と呼ぶにふさわしい姿――を取り戻したかのようだった。


そして何より、その剣は、生意気勇者の手に驚くほどしっくりと馴染んでいた。


剣と彼女の魂が共鳴し、完全に一つになっている。


まるで、この瞬間のために、遥かな昔から定められていたかのように。


「これが……私の……新しい力?」

生意気勇者は、剣から伝わってくる、暖かくも強大な力に打ち震えていた。


彼女の瞳には、驚きと、喜びと、そして新たな力を手にした者としての覚悟と責任感が宿っている。


「おー! なんかピッカピカになったな! カッコいいじゃん!」


俺はといえば、そんな神々しい光景にも特に感動する様子もなく、呑気な感想を漏らした。


まあ、見た目が良くなったのはいいことだ。


「へぇ、お前が使えるようになったのか? 良かったじゃん。ならやるよ、それ」


俺にとって、剣の価値は爪切り程度の価値しかない。


この神剣(?)がどれほどの意味を持つのか、俺はまだ全く理解していない。


「……ありがとう」


生意気勇者は、俺のあまりにも軽い反応に一瞬呆れたような顔をしたが、すぐに力強く頷き、感謝の言葉を口にした。


「おお……! なんという奇跡!」


「呪いの魔剣が、これほどの剣に生まれ変わるとは……!」


専門家たちは、目の前で起こった奇跡に興奮と驚愕を隠せないでいる。


「これは歴史的な発見だ……!」「早速、詳細な記録を……!」と口々に騒ぎ立てている。


「勇者様……! 素晴らしいですわ!」


王女様は、心からの祝福の微笑みを生意気勇者に向けていた。


「すごい……! まるで伝説の聖剣のよう……!」


エリアーヌ姫も、目を輝かせて感嘆の声を上げている。


こうして、エルフの森で回収された「魂喰らいの魔剣」は、俺の意図せぬ介入と、生意気勇者の魂との共鳴によって、新たな「神剣」として覚醒したのだった。


その後。


エリアーヌ姫は王宮での生活に少しずつ慣れ始めていた。


王女様が姉のように優しく接し、宮廷での作法や生活について教えてくれている。


「エリアーヌ様、お茶はいかがですか? こちらはエルフの国でも好まれると聞いたハーブを使ってみたのですが」


「まあ、王女様……! ありがとうございます。とても良い香り……」


生意気勇者も、最初はぎこちなかったものの、持ち前の面倒見の良さを発揮し始めていた。


「ほら、これ使いなさいよ。王宮は無駄に広いんだから。迷子になったら、あんた一人じゃどうしようもないでしょ」


「あ……ありがとうございます、勇者様。……あの、もしよろしければ、剣の稽古なども……?」


「え? ああ、まあ、いいけど……手加減しないわよ?」


俺? 俺はまあ、たまに彼女たちの輪に加わって、お菓子をつまんだり、エリアーヌ姫の尖った耳をつついてみたり(生意気勇者に怒られた)、そんな感じで過ごしていた。


新しい仲間が増えるのは、まあ悪くない。


生意気勇者は、手に入れたばかりの神剣の力にまだ戸惑いつつも、その力を完全にマスターするため、明日から俺との特訓を再開することを決意したようだった。


「いい? 明日からビシバシ行くわよ! あんたをギャフンと言わせるくらい強くなってやるんだから!」


その意気込みは買うけど、ギャフンと言わされるのは、たぶんお前の方だと思うぞ?


平和な時間が流れているように見える王宮。


だが、エルフの森の異変は解決したものの、魔王軍の脅威は依然として存在しする。


この新たな神剣と、新たな仲間が、今後の戦いにどう影響していくのか。


それはまだ、誰も知らない――。

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