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第25話:魔剣の真実

「……そういうこと」


怒りを露わにしていないのに、地母神様が恐ろしい。


「事情、聞いてもいいか?」


俺がそう尋ねると、地母神様は、少しだけ、言葉を濁した。


「……魔剣の材料よ」


「材料?」


俺が聞き返すと、地母神様は、目を伏せ、静かに語り始めた。


「……魔剣は、悪魔が、神に対抗するために生み出した武器。……その製法は、あまりにも残酷で、おぞましいものだった」


「……おぞましい?」


「ええ。……魔剣の材料には、強大な力を持つ者の……エネルギーや、強い感情が使われたの」


「……強大な力を持つ者?」


「そう。……かつて、悪魔に捕らえられ、囚われた……勇者や、聖女たちのね」


「……!」


俺は、思わず息を呑んだ。


勇者や聖女。


聖女はよく知らないけど、生意気勇者や美ショタ勇者のような連中が、攫われて?


「……まさか、魔剣の材料にするために、勇者や聖女を……?」


俺が震える声で尋ねると、地母神様は、小さく首を横に振った。


「直接、材料そのものにしたわけじゃないわ。……でも、結果的に、そうなってしまったのは事実」


「……どういうことだよ?」


「……悪魔は、勇者や聖女を、生きたまま、永遠に近い時間、監禁し続けているの」


「……!」


「彼らの力と、彼らの絶望を、少しずつ、少しずつ、搾り取るためにね」


「……」


言葉が出なかった。


想像を絶する、悪魔の所業。


怒りよりも先に、深い吐き気がこみ上げてくる。


「……そんな……そんなことが……」


「ええ。……数百年前から、つい数年前まで。……多くの勇者や聖女が、悪魔の実験台にされ、その命と尊厳を、弄ばれ続けているの」


現神剣、元魔剣から情報を読み取った地母神様は、穏やかに見えて実際は激怒している。


「そして、その結果生まれたのが、あの魔剣。……絶望と憎悪の塊のような、呪われた武器」


「……」


「……それが、あの剣の、本当の姿よ」


地母神様の声は、震えていた。


怒り。


悲しみ。


そして、深い罪悪感。


様々な感情が、彼女の中で渦巻いているのが分かる。


「殺すだけで済ますべきじゃなかったな」


悪魔への怒りが、全身を駆け巡る。


生意気や美ショタの先輩たちをなんて目に遭わせやがる。


「地母神様!! 今すぐ、魔界に乗り込もう! 奴らを全員ぶっ殺して、勇者と聖女を救い出すんだ!」


俺がそう叫ぶと、地母神様は、静かに首を横に振った。


「……無理なの」


「なんでだよ!?」


「神々が魔界へ直接乗り込めば、世界の均衡が崩れ、地上に甚大な被害が出る可能性があるわ」


「……まさか俺も!?」


地母神様は深刻な表情のまま頷き……なんでそこで何か思いついた顔になってにやりと笑うんだ?


「そういえば、あんたは神竜だけどまだ見習いなのよね。力の規模を考えると脱法じみてるけど、あんたなら魔界に行ける」


「……マジで!?」


俺の瞳に、再び、希望の光が灯る。


「ええ、マジよ。……だから、お願い。……私に代わって、魔界へ行って、勇者と聖女たちを救い出してきてくれる?」


地母神様の言葉は、命令ではなかった。


懇願だった。


そして、その懇願には、深い悲しみと、強い決意が込められていた。


「……分かった。行ってやるよ」


俺は、迷うことなく、頷いた。


「……ただし、そのためには、あんたの力を貸してほしい。……魔界で、俺が迷子にならないように」


何が相手でも負ける気はしないけど、行き先と帰り道が分からないなら遭難しそうだって自覚はある。


「……ふふっ、分かってるわよ」


地母神様は、少しだけ微笑む。


「……エリアーヌ姫と、彼女の祖先の妹……リリアーナ。……あの二人は、血縁関係にある。……だから、エリアーヌ姫のペンダントは、リリアーナの居場所を示す道標になるはずよ」


「……なるほどな」


「……頼んだわよ、神竜。……あんたなら、きっと、できる」


地母神様の言葉が、俺の背中を押す。


魔界。


そこがどんな場所だろうと、関係ない。


俺は、俺のやり方で、必ず、みんなを助け出してやる。


そう、心に誓い、俺は、新たな戦いへの決意を固めた。

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