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第26話:決戦前夜! 魔界への扉を開け!

未知の異界、魔界。


そこに、かつて邪悪と戦い囚われたっていう勇者や聖女たちがいる。


そして、その中にはエリアーヌ姫の祖先も……。


「魔界か……」


王宮の最も機密性が高いとされる会議室。


重々しい空気が漂う中、俺は思わず呟いた。


円卓には、王女様、王妃、大神官、レオナルド、そして主要な大臣たちが顔を揃え、皆一様に厳しい表情をしている。


隣に立つ生意気勇者も、神剣の柄を握りしめ、固唾を呑んで議論の行方を見守っていた。


エリアーヌ姫は、祖先の生存の可能性に動揺しつつも、今は気丈に顔を上げている。


「これは王国、いえ、あるいは地上世界全体の未来に関わるかもしれない、極めて危険な任務です」


王女様が、凛とした声で口火を切った。


国王は現在、別の重要案件で王宮を離れているらしいが、この魔界探索・救出作戦の決断には同意済みとのことだ。


まあ、あの堅物そうな王様なら、地母神様の託宣と聞けば反対するわけもねぇか。


「しかし、地母神様の託宣に応えないわけにはいきません。我々は、魔界へ向かうことを決断します」


王女様の宣言に、大臣たちがざわつく。


「し、しかし王女殿下! 魔界など、伝承にしか存在しない領域! あまりにも危険すぎますぞ!」


「失敗すれば、王国に魔界の脅威を呼び込むことにもなりかねん!」


まあ、その心配は当然だよな。


俺だって正直、宇宙と同じくらい魔界も怖い。


どんなヤベー奴らがいるか分かったもんじゃない。


だが、大神官が静かに口を開いた。


「地母神様は、エルフの姫君の血筋とペンダントが道標となると仰せでした。それは、我々に勝機があるという暗示に他なりません。そして何より、囚われた魂を見捨てることは、神の教えに反します」


王妃も、冷静な口調で付け加える。


「わたくしの解析によれば、魔界との繋がりを示すエネルギー反応は、現在、極めて不安定な状態にあります。これは危険であると同時に、我々が干渉できる『隙』があるということでもありますわ。扉が完全に閉じてしまう前に、行動を起こすべきかと」


大神官と王妃、普段は微妙な関係(?)っぽいが、こういう時は頼りになるな。


二人の言葉に、反対していた大臣たちも徐々に納得し始めたようだ。


「……わかりました。ならば、具体的な作戦を練らねばなりますまい」


レオナルド騎士団長が、地図や資料を広げ、作戦会議が始まった。


「まず、魔界への突入方法ですが……」


王妃と大神官の説明によれば、王宮の地下深くに存在する古代遺跡――そこは強大な魔力スポットでもあるらしい――を利用し、二人の力と特殊な魔道具、そしてエリアーヌ姫のペンダントを触媒にして、一時的に魔界へのゲートを開くことができるという。


「ただし、ゲートを安定して維持できる時間は限られます。おそらく、往復で数日が限界でしょう。それ以上滞在すれば、ゲートが閉じてしまい、帰還できなくなる危険性が高い」と王妃。


「さらに、魔界は地上とは環境が大きく異なります。瘴気、重力、時間の流れ……全てが未知数です。長時間の活動は避けるべきでしょう」と大神官。


うへぇ、時間制限付きかよ。


ますます面倒くせぇ。


「魔界内部での行動ですが、託宣によればエリアーヌ様のペンダントが道標となるはず。まずはそれに従い、囚われた方々の場所を目指します。発見後は、速やかに救出し、帰還ゲートへ向かう、というのが基本方針かと」とレオナルド。


「潜入を主とするか、強行突破かは状況次第ですが、悪魔との戦闘は避けられないでしょうな」


「俺の力はどう使うんだ? また手加減しろとか言わねぇだろうな?」


俺が一番気になっていたことを尋ねると、レオナルドは少し考え込んだ後、答えた。


「姫様のお力は、我々の最大の切り札です。しかし、例の力のセーブ問題もあります。道中の戦闘では、可能な限り仲間との連携を重視し、お力は温存していただきたい。ですが、救出対象を守るため、あるいは脱出経路を確保するためなど、ここぞという場面では、その絶大な力をお借りすることになるでしょう」


なるほどな。


つまり、普段は抑えて、ヤバくなったらドカンとやれ、と。


まあ、それなら分かりやすい。


次に、同行メンバーの選定だ。


危険すぎる任務だから、少数精鋭で行くしかない。


「まず、神竜様には当然、お願い申し上げます」とレオナルド。


まあ、俺が行かなきゃ始まらんわな。


あと、俺が神竜ってことを知らされても、内心はともかく態度は変えないのがすごい。


「私も行きますわ」


生意気勇者が即座に名乗り出る。


神剣を握りしめ、その瞳には強い決意が宿っている。


俺の相棒としても、戦力的にも、こいつは外せない。


「わたくしも……! 必ず、リリアーナ様を助け出します!」


エリアーヌ姫も、震えながらも、はっきりとした声で志願した。


祖先救出への強い想いと、道案内役としての責任感。


彼女も必要不可欠だ。


「僕も行きます! 先輩のお側で、僕も戦います! 足手まといにはなりません!」


美ショタ勇者も、憧れの生意気勇者の隣で、勇気を振り絞って手を挙げた。


生意気勇者は一瞬心配そうな顔をしたが、彼の真剣な眼差しを見て、小さく頷いた。


「そして、一行の護衛と現場指揮は、この私が責任をもって務めさせていただきます」


レオナルドが、王女様の命として、自ら同行を申し出た。彼の経験と冷静な判断力は、未知の魔界では頼りになるだろう。


「よし、メンバーは決まりだな」


俺が言うと、選ばれたメンバーはそれぞれ、改めて覚悟を決めた表情で頷き合った。


不安がないわけじゃない。


だが、それ以上に、やらねばならないという使命感が、俺たちを突き動かしていた。


魔界へのゲートを開く準備は、王宮地下の古代遺跡で、極秘裏に進められた。


王妃と大神官が中心となり、王宮の魔法使いたちも総動員されている。


遺跡の床には複雑怪奇な魔法陣が描かれ、周囲には見たこともないような魔道具や大量の魔石が配置されていく。


王妃が古文書を紐解きながら古代語の呪文を唱え、大神官が地母神の力を借りて空間そのものに干渉していく。


二人の膨大な魔力が渦を巻き、遺跡全体がビリビリと震え、空間が不安定に揺らめき始めた。


準備には丸一日かかるらしい。


その間、遺跡周辺は近衛騎士によって厳重に封鎖され、息詰まるような緊張感が漂っていた。


そして、出発予定の前夜。


俺は、王宮のバルコニーで一人、月を眺めていた。


二つの月が、静かに地上を照らしている。


綺麗だけど、どこか物悲しい光だ。


「姫様」


背後から、凛とした声がかかった。


振り返ると、王女様が静かに立っていた。


その手には、温かい紅茶が入ったカップが二つ。


「眠れないのですか?」


「まあな。ちょっと考え事だ」


「……わたくしもですわ」


二人で並んで、夜景を眺める。


しばしの沈黙。


先に口を開いたのは王女様だった。


「姫様、どうか……どうか、ご無事で戻ってきてくださいましね」


その声は微かに震え、瞳には涙が浮かんでいた。俺がいるから大丈夫だとは思いつつも、やはり不安なのだろう。


「心配すんなって。俺がついてるんだぞ? 魔界だろうが悪魔だろうが、敵は全部ぶっ飛ばして、必ずみんなで帰ってくる。だから……」


俺はいつもの軽口を封印し、真剣な目で彼女を見つめた。


「美味い飯、いっぱい作って待ってろよ」


俺がそう言ってニッと笑うと、王女様は涙を拭い、ふわりと微笑んだ。


「はい、もちろんですわ。最高の料理を用意して、お待ちしております」


俺は、彼女の白く細い手を、そっと握りしめた。


言葉はなくても、想いは伝わっているはずだ。


その後、俺は訓練場にも顔を出した。


そこでは、生意気勇者が一人、神剣を手に精神統一を行っていた。


「よう」


「……神竜。あんたも眠れないの?」


「まあな」


俺たちは特に言葉を交わすでもなく、しばらくの間、並んで夜空を見上げていた。


「……死ぬんじゃないわよ」


やがて、生意気勇者がぽつりと呟いた。


「あんたが死んだら、私が……私が、困るんだから」


「へっ、お前こそな。足引っ張んなよ。俺の背中は、お前に預けるんだからな」


「……誰が足引っ張るって?」


生意気勇者はフンと鼻を鳴らしたが、その横顔には、強い信頼の色が浮かんでいた。


俺たちは、ライバルであり、相棒であり、そして……それ以上の、言葉にできない絆で結ばれている。


エリアーヌ姫は、自室で祖先のペンダントを握りしめ、静かに祈りを捧げていた。


その瞳には、不安と、祖先に会えるかもしれないという切ない希望、そして仲間と共に戦うという強い決意が宿っていた。


レオナルドや美ショタ勇者も、きっとそれぞれの場所で、武器の手入れをしたり、作戦を再確認したりして、静かに覚悟を固めているのだろう。


翌朝。


王宮地下の古代遺跡には、異様な光景が広がっていた。


王妃と大神官が最後の呪文を唱え終えると、空間が激しく歪み、遺跡の中央に黒々とした亀裂が走る! 亀裂は徐々に広がり、その向こう側には、禍々しくも力強いエネルギーを放つ、異界への入り口――魔界へのゲートが、ついにその姿を現した! ゴオオオ、と地鳴りのような音が響き渡る。


ゲートの前に、覚悟を決めた表情の俺たち同行メンバーが集結する。


後ろには、王女様をはじめ、見送りのために集まった王宮の仲間たちがいる。


「姫様、勇者様、レオナルド、皆さん……どうか、ご無事で……!」


王女様が、涙を堪えながら声をかける。


「行ってくる!」


「ご武運を!」


「必ず戻ります!」


短い別れの挨拶を交わす。


もう、迷っている時間はない。


「行くぞ!」


俺の号令と共に、俺たちは一斉に魔界へのゲートへと足を踏み入れた。


眩い光(あるいは深い闇?)に包まれ、体が異空間を突き抜けるような奇妙な感覚。


未知なる異界、魔界。


そこで俺たちを待ち受けるものは何か?


強い決意と、未知への不安を胸に、俺たちの新たな戦いが、今、始まろうとしていた。

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