(……もう知るか! 周囲への被害? 後始末? そんなもん、後で考えりゃいい! 今は、こいつを……! このクソ悪魔を、完全に叩き潰す!!!)
俺は、心の奥底で、ずっと抑え込んできた力の枷(かせ)を、自らの意志で引きちぎった。
「てめぇ……」
俺は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は、もはや普段の呑気さなど微塵もなく、燃え盛るような金色の光を宿している。
「俺の仲間に手ぇ出しやがったこと、後悔させてやる……!」
ゴオオオォォォッ!!!
俺の体から、これまでとは比較にならないほどの、莫大なエネルギーが溢れ出した!
銀色の髪は激しく逆立ち、一本一本が光の粒子を纏って輝く。
背中の竜翼は雄々しく広がり、その鱗は白金(プラチナ)のように眩しく煌めく。
全身が、純粋な神気と竜の力が融合した、神々しいオーラに包まれ、周囲の邪気を一瞬にして浄化し、魔界の空気を震わせるほどの圧倒的な威圧感を放ち始めた!
「なっ……!? なんだ、その力は……!? 馬鹿な、貴様、ただの竜ではなかったのか!?」
ザルゴスが、俺の尋常ならざる変化に気づき、驚愕と警戒の色を露わにする。
「うるせぇ!!!」
俺は天を仰ぎ、大きく息を吸い込んだ。
体中の細胞が活性化し、魂の核から、無限とも思えるエネルギーが湧き上がってくる。
喉の奥が、灼熱の太陽を飲み込んだかのように熱く、痛いほどに膨れ上がっていく!
「これがあんたの……本当の力……」
生意気勇者が、呆然と俺を見上げて呟いた。
「全力で、行くぞォォォォォォッ!!!!」
俺の絶叫と共に、それは放たれた。
もはや、ただの炎や光線ではない。
純粋な『破壊』そのものが形となったかのような、白く、眩く、巨大なエネルギーの奔流――物語で初めて、全く手加減のない、俺の全力のドラゴンブレスだ!!!
ズオォォォォォォォォッッッッ!!!!!!
空間が悲鳴を上げる! 魔界の空が裂け、大地が揺れ動く!
ブレスは、ザルゴスが放とうとしていた混沌のエネルギー球など、まるで塵芥(ちりあくた)のように飲み込み、霧散させ、そのまま彼の巨体へと直撃した。
「グボァァァァァッッッ!!??」
ザルゴスは、生まれて初めて味わうであろう絶対的な力の前になすすべもなく、その頑丈な甲殻も、強力な魔力障壁も、多腕による防御も、全てが無意味に砕け散る!
悲鳴を上げる間すら与えられず、彼は眩い光の中に完全に飲み込まれていった。
だが、ブレスの勢いは止まらない。
ザルゴスを消し飛ばした後も、エネルギーの奔流は悪魔の城塞の大部分を貫き、薙ぎ払い、その先の魔界の大地を抉り、空に向かって巨大な光の柱を形成する。
ドォォォォォォン……!!!
遅れてやってきた轟音が、魔界全体に響き渡り、凄まじい衝撃波が何度も広間を襲う! 囚われていた檻の結界が衝撃で砕け散り、壁が崩れ落ち、天井が抜け落ちる!
やがて、眩い光が収まった時、後に残されたのは……圧倒的な静寂と、粉塵が舞う、巨大なクレーターだけだった。
悪魔の城塞は、もはやその半分以上が跡形もなく消滅し、ザルゴスの存在を示すものは、塵一つ残っていなかった。
「……」
「……」
「……」
救出された勇者・聖女たち、そして同行してきた仲間たち――生意気勇者、レオナルド、美ショタ勇者、魔法使いたちは、その信じられない光景と、俺が放った力のすさまじさに、ただただ言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。
俺自身も、初めて全力で解き放った力の余韻に、打ち震えていた。
喉の奥にはまだ灼熱感が残り、体には経験したことのないほどの力がみなぎっている。
そして何より、あの忌々しい悪魔を、城ごと完全に消滅させたという達成感。全てを破壊し尽くす、この絶対的な力の快感……!
(はは……ははは! すげぇ……! これが俺の全力……! なんて力だ……! 気持ちいい……!)
脳が痺れるような感覚。
視界がチカチカする。
もっと、もっとこの力を使いたい。
もっと破壊したい。
そんな危険な衝動が、俺の心を支配し始めていた。
(まだだ……まだ足りねぇ……! もっとだ! もっと壊してぇ……! どこかにまだ、悪魔は残ってねぇか!?)
俺の瞳に、狂的な光が宿り始める。
再び喉の奥にエネルギーを集中させ、この破壊された城塞の残骸ごと、周囲の魔界の大地ごと、全てを消し飛ばしてしまおうと、必要のない第二撃を放とうとする!
その、俺の異様な、危険な気配に、いち早く我に返ったのは、やはり生意気勇者だった。
彼女は、自らの恐怖を振り払い、俺に向かって、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
「ちょっと、待ちなさいよ! もう終わりでしょ! 何やってんのよ馬鹿!!」
彼女の必死の叫び声が、高揚しきっていた俺の意識に、鋭く突き刺さる。
それに続くように、他の仲間たちの声も聞こえてきた。
「姫様、お鎮まりください! 敵はすでに滅びましたぞ!」
レオナルドが、傷を押さえながら叫ぶ。
「姫様、もう大丈夫です! わたくしたちは助かりました! お願い、落ち着いてください!」
エリアーヌ姫が、まだ倒れたまま、必死に声を振り絞る。
「僕たちがいます! 姫様! もう戦う必要はありません!」
美ショタ勇者も、涙ながらに呼びかける。
仲間たちの必死の声。
心配そうな眼差し。
それらが、戦闘ハイ状態に陥っていた俺の意識を、ゆっくりと現実に引き戻していく。
(……あ……)
俺は、自分が何をしでかしたか、そして、今まさに何をしようとしていたかを自覚した。
全身から力が抜け、高揚感が急速に冷めていくのが分かる。
「……あ、わりぃ」
俺は、バツが悪そうに頭を掻きながら、溜めかけていたエネルギーをゆっくりと霧散させた。
喉の奥の灼熱感だけが、先ほどの激しい力の解放が生んだ狂騒の残り火のように、くすぶっていた。
「……ちょっと……テンション上がっちまった」
俺がそう言うと、仲間たちは安堵の息を深く吐き出した。
彼らは、俺の力の恐ろしさと、それを制御することの難しさ、そして……自分たちが、暴走しかけた俺を止めることができたことの重要性を、改めて認識したようだった。
救出されたばかりの元勇者や聖女たちも、一部始終を呆然と見つめていた。
彼らは、自分たちを救った存在が、同時に世界を滅ぼしかねないほどの力を持っているという事実に、複雑な感情を抱いているのかもしれない。
魔界での最大の脅威は去った。
残るは、ここから無事に脱出し、懐かしい地上へと帰還すること。
そして、この規格外の力を持つ神竜(見習い)である俺と、俺を支える仲間たちが、これからどう向き合っていくのか――。
その答えは、まだ誰も知らない。