光輝は炎上が収まる気配がないことに嫌気がさして、摩耶とデートに向かっていた。
「今日はありがとね! バイバーイ!」
「じゃまたね。バイバーイ……」
光輝は設定で誹謗中傷コメントは見えないようにしているのだが、セクハラコメントだけなぜか貫通してくるため、ストレスがかかっており、唯一の癒しである摩耶とのデートが終わるのを名残惜しく感じていた。
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「視線を感じる……」
いつもは送迎されているが、配信が億劫で家に帰るのを遅らせたいがために歩いて帰っていると感じたことのない視線を光輝は背後から感じた。
自分の警護のために離れたところから見張っている護衛ではない、何か粘着質な視線だ。
流石に不快感に耐えられなくなり、振り向くと2m近くもある迷彩服を着た大男が立っていた。
「な、なんだお前!?」
身長160cmの光輝からすると2mの男は巨人にしか見えず、恐怖心に襲われながら疑問を口にする。
すると男はニッコリと笑顔を浮かべて、口を動かし始めた。
「ひどいなあ、ヒカリたそ。男の子な上、彼女もいたなんて」
「僕のプラベートのことなんてお前に関係ないだろ! お前さては僕の配信でセクハラコメントばっかしてたやつか! ストーカーまでしやがって警察に突き出してやる!」
「人聞きが悪いな、ヒカリたそ。あれは俺なりの愛だよ。でも見てくれてて嬉しいよ」
「ヒィ!」
「おぼっちゃま、お下がりください!」
脅しをかけても喜ぶストーカーの異常さに光輝が悲鳴を上げると警護の屈強なスーツの男2人が彼の前に現れた。
「足腰立たなくなるまでボコボコにしてやるぞ変態! 土下座して許しを乞うのなら、警察に突き出すだけにしてやろう!」
近くに護衛がきたことで、安心した光輝は態度が大きくなり、大男に対して尊大な態度を取る。
数的有利から彼はこの時点で大男を圧倒したと思っていた。
「俺は何もしていないのに警察に突き出してもどうにもできないし、殴ったら君たちが逆に逮捕されちゃうんじゃないかな」
「そんなものは僕の家ならどうにもできちゃうんだよねえ。あ〜あ、これだから庶民て哀れだなあ。強者を不快にさせるって意味を知らないんだから。おい、お前ら、やれ!」
護衛たちが隙のない動きで動く中、男は構えさえ取らない。
「ははは! とんだ木偶の坊じゃないか!」
光輝が笑い声を上げる中、護衛2人が男に飛び掛かると、男は護衛2人の襟首を掴んで、勢いそのままに地面に叩きつけた。
護衛2人はぐったりと伸びて、動かない。
必然的にその場には光輝と男だけが残された。
「ヒカリたそ。やっと2人きりになれたね」
「ヒ、ヒィ! 近寄るな、バケモノ!」
腕ききの護衛2人を一瞬で伸されて、有頂天から一点光輝は恐慌状態に陥る。
腰を抜かして後ずさる光輝に男はジリジリと距離を取り続ける。
「ヒカリたそ、実はね。君と会うことを楽しみにしてたから今までのことはスマホでずっと撮ってたんだ。これネットにばら撒かれたら大変だよね」
「しょ、庶民の分際で僕を脅迫するつもりか!?」
胸ポケットから大男はスマホを取り出すと、光輝は再度悲鳴を上げる。
「でも元はといえば、信じてた俺を裏切ったヒカリたそが悪いんじゃないか。とりあえず俺を不快にさせたことを土下座して謝罪してもらえるかな」
「くそ! 意趣返しか!」
ニヤニヤとする大男の顔を見ながら光輝は先ほど言った自分の言葉をそのままやり返されていることに気づき、歯噛みすると、大男は光輝を急かすように距離を詰めてきた。
「わかった! それ以上僕に近づくな!」
光輝はついに四つん這いになると謝罪した。
「す、すいませんでした!」
「よくできたねえ。よしよし」
「く、くそ!」
光輝は短い期間に舐め腐っていた庶民に2度も敗北し怨嗟の声を上げた。
「復讐してやるぞ、秋也! 全部お前のせいだ!」