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第29話 買い物とデート①


 ゴールデンウィーク3日目。

 今日は恵梨香のところに家庭教師に来ている。

 若干恵那に対して光輝君がちょっかいをかけないか心配だが、彼は今炎上中なのでとてもではないがそんな余裕はないはずだ。


「秋也、難しそうな顔をしてますね。何かまたあったんですか?」


「ああ、恵那の方でまたちょっと婚約者の光輝君がちょっかいをかけてきたんだ」


「またあの人の差し金ですか?」


 摩耶がそうやるように指示したのかとの言われれば微妙だ。

 今回はいつものように自分の力を見せつけることなく、いきなり奇襲のような形できたので手口が違うことを考えると、個人的には摩耶は関与していないような気がする。

 だがあちら側と接触があったわけではなく詳しいことはわからないので断言はできない。


「今回は直接接触があることじゃないから現時点ではわからないね。状況だけから考えれば光輝君が単独で動いてる可能性が高いかな」


「直接接触しないですか。ネット関連のことで攻撃されているってところですか」


「稀崎家のプライベートに関わることだから口外はできないけど。そんなところかな」


「これからはネットでも攻撃してくることも警戒したほうがいいでしょうか」


 ネットか。

 確かにSNSがあるので、晒したりすることができるかもしれないが、影響力が大きいのでリスクも大きく、今回の様に配信者という特別な素性じゃない限りは簡単にはできないような気がする。


「ネットは影響力が大きいし、下手をすれば家の名前に傷がつくこともあるからそこまで気にしなくていいんじゃないかな」


「確かにただ元婚約者を牽制したり、高松さんの機嫌をとるためにそこまですることはできませんね」


「恵梨香は雛祭で大変だったし、ゴールデンウィークは煩いごとは忘れて羽を伸ばせばいいと思うよ」


 ちょうど教えなければいけない範囲も終わったし、少し早めだが切り上げるか。

 恵梨香は休日を雛祭の練習で潰していたし、できるだけ失った分の時間は取り戻させてあげたい。

 それに天政君とは喧嘩別れのような感じだし、時間を必要としてる可能性もあるかもしれない。


「今日はこのくらいにしようか」


「秋也、この後予定はありますか?」


「いや、ないけど」


「ちょっと買い物に付き合ってもらってもいいですか?」


「いいよ」


 買い物の誘いで俺に特に役に立てることがあるとは思えないが、了承しておく。

 思いつきはしないが、こうやって誘ったということは俺にやってほしいことがあるのだろう。


 ーーー


 正午になる直前になると、駅一つ分離れた地方都市に着いた。

 羽咲家に送迎してもらってここまできたので、待ち時間やトラブルに見舞われることもなくストレスフリーでここまでこれた。


「ちょうどお昼ですね」


「だね。ごめんだけど、高級店は今からじゃ予約が取れなくて、普通の飲食店になっちゃうけど大丈夫?」


「いいですよ。というよりもむしろそっちの方がいいです」


「ありがとう。助かるよ」


 俺の言葉に恵梨香が色のいい返事をしてくれたので、ちょうど入るのに良さそうなお店を探すことにする。

 待たせるのは論外なので、行列の出来ているお店を除外して、美味しそうなところを吟味する。

 目下の候補はチェーン店のハンバーガー屋だが。

 お嬢様である恵梨香の口に合うか、どうか心配だ。


「ハンバーガー屋さんでいいかな?」


「ハンバーガー屋さんですか。 ハンバーガー専門のお店なんてあるなんて知らなかったです。 気になりますしそこにしましょう」


 やはり想像していた通り、ハンバーガー屋さんというのはお嬢様にとってはメジャーではないようだ。

 言葉から察するにおそらく恵梨香にとってのハンバーガーは高級レストランのフルコースに出てくる様なものではないんだろうか。

 クオリティに天と地ほどの差があるように感じざるをおえない。


「へえ、専門店だけあってすごいハンバーガーの種類ですね。ハンバーガーにこれだけのバリエーションが作れるなんて思ってもみなかったです」


 お店に入り、メニューにずらりと並んだハンバーガーの文字を見ると、恵梨香は興味深そうにそう言う。


「シェフではなく、自分の好みのものを選べるなんて理にかなってますね」


「高級レストランではお客さんの好みより、シェフの好みの方が優先されるんだね」


「ええ。ああ言うところのハンバーガーはシェフの作品ていう感じで、シェフが美味しいと思っているものがつくられるんですよ」


「そうなんだ。高級店だからお金持ちの人の舌に合わせて作っているって言うわけじゃないだね」


「そうなんですよ。だからこうやって選べるのはなんだかルールを破っているみたいで背徳感があります」


「背徳感……」


 まさかハンバーガー屋さんに来て、背徳感を感じてもらえるなんて思ってもみなかった。

 とりあえず喜んでいるみたいなのでいいが、これで味が口に合わないのは上げて落とすみたいで申し訳ないので、味が合うことを切に願うしかない。


「激甘ピンクバーガーですか。美味しそうですね。これにします」


 すごいマイナーそうなハンバーガーだ。

 俺も定番のものばかり食べてきたのでそんなものがあるとは知らなかった。

 食べてみたことがないため、恵梨香の注文を否定も肯定もできない。

 彼女の選択を尊重して結果を静観するしかない。


 ーーー


「すごいですね! パンもパテも全てが真っピンクです! いただきます!」


 恵梨香が好きなピンク色で統一されていたせいか、初めて食べるチェーン店のハンバーガーだからかテンション高めで頬張る。


「とても美味です。甘さの革命児と言っても過言ではないと思います」


 嚥下すると恵梨香は至極真剣な顔でそう言って、またハンバーガーを齧った。

 口にあったようでよかった。












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