恵梨香の意外な一面が見えた昼食を終えると、ファションブランドがひしめき合っている大通りに向けて歩き出した。
「今日は主に服を買う感じかな?」
「そうですね。この近くにあるっていうお店が目的なんです」
恵梨香はエロかわいいもの好きなので、表通りのハイブランドで彼女の目に叶うものがあるのかわからなかったので多少心配だったが、やはりここをデート場所に選んでみたあたり、目的のお店があるらしい。
「路地の奥にある知る人ぞ知る名店なんですよ」
路地の方にあるお店か、基本的には表通りのお店しか回らないのでそんな店があるとは知らなかった。
恵梨香の案内の元、壁に落書きのあるアングラな路地を抜けていくと、目的地らしいお店に到着した。
Codaとだけ書かれた小さな看板があるお店だ。
側から見たら、なんのお店かわからないところだが、恵梨香の足先が吸い込まれるようにそこに進んでいくのでここで間違いないだろう。
店内に入るとレザーのタンクトップを着たタトゥーの目立つ女性の店員さんとずらりと並んだ布面積の少ない服が見えた。
「いらっしゃい」
店員さんはこちらを一瞥すると言葉少なにそれだけ言うと、カウンターの方で作業を始めた。
「評判通りですごく品揃えがいいですね」
「専門店なんだね。この系統の服がずらりと並んでるのを見るのはすごく新鮮だね」
恵梨香はシースルーの度合いが極端に高い服の元に向かうと、ひとつ取り出してみた。
「最近のトレンドも入れてあるからこれは着やすいですね」
「この中なら確かに着やすいね」
布を通しているとはいえ、かなり肌が見えるのであまり大丈夫ではない気もしないでもないが、パッと見た感じではこれが一番露出度が低いので着てくとなるとこれが無難かもしれない。
「ちょっと着てみますね」
恵梨香は試着スペースに入っていくと、衣擦れの音がする。
慣れいない場所のせいか、衣擦れの音が大きく長く感じる。
衣擦れの音が止まったのかと思うと試着室のカーテンを開いて、シースルーの服を着た恵梨香が出てきた。
透けて見える部分の範囲はこれでも少ない方なのだが、胸元から上、臍から腰までとかなりの部分の肌が透けて見えている。
恵梨香は出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるので、透けて見えるところがひどく扇情的な一方、ばっちりと似合っているのでカッコ良さの様なものを感じる。
SNSで見るモデルと比べても遜色はないだろう。
「どうでしょうか、この格好」
「似合ってるね、モデルさんみたいだよ」
「そ、そうですか。このまま着ていこうかな」
恵梨香は褒められて満更でもないのか赤面しながらそう呟く。
周りの注目を集めそうだが、恵梨香が着たいと言うのなら否定するものではないだろう。
どれだけ正論だろうと好きなものを否定されるのはいい気はしないし、ここら辺の界隈には奇抜な格好をした人もいるのでそこまで浮くということもないし。
「似合っているね。お客さん。レザーはどうだい?」
恵梨香が試着室のカーテンを閉めようとすると、店員さんが来て、革製のバニー服を差し出した。
「いいですね」
恵梨香はそれを受け取ると、着付けやすいものだったかどうかわからないが、先ほどよりも早いスピードで出てきた。
この世で初めてリアルでバニー服を着た人を見るが、すごい格好だ。
胸あたりがはだけており、殊更に平均と比べて大きい恵梨香の胸を強調している。
「これは普段使いに使えないですけど、かわいいです」
恵梨香はウサ耳をいじりながらバニー服の感想を言う。
店員さんの好みで差し出されたものだが、気に入ったようだ。
「お客さん、似合うね。うちのモデルやらないかな?」
恵梨香の姿を確認すると、思案気にあごに手を持っていき、店員さんはモデルの勧誘をし出した。
目の肥えた人にお金が取れるほどに魅力があると言っているようなものだから服屋さんの店員さんにモデルを頼まれるって言うのは相当すごいことなのではないだろうか。
「いえ流石にモデルというのはちょっと」
「残念」
どうなるのかと若干ドキマギしながら、見ていると恵梨香はすぐ断りを入れた。
流石に恵梨香にも羽咲家の令嬢があるのだから受け入れるわけもないか。
ーーー
その後、シースルーとバニーを購入すると、codaから出て大通りに戻った。
シースルーについては着こんでおり、何人かの視線が恵梨香の方に向いているのを感じる。
「すごいね、恵梨香。店員さんにモデルに誘われるなんて」
「いえ、全然ですよ。たまたま誘われただけですし、陽菜なんて自社のモデルをやって、一番人気があると評判ですし」
「陽菜。モデルやってたんだね」
麻黒さん、自分の会社のモデルをやっていた上に一番人気もあるのか。
全然知らなかった。
他の子なら自慢しそうな事柄だが、名誉とか名声とかに疎そうな彼女のことのなので家の手伝いくらいにしか考えておらず話を振ってこなかったかもしれない。
「見てみたいですか?」
「なんだか意外な感じだし、そりゃ見てみたいね。陽菜のことだからきっとキメキメで似合ってるだろうし」
「興味津々ですね」
恵梨香に珍しくやや拗ねたような声で言うと、「あそこのお店に行きましょう」とおしゃれな小物屋さんを指差した。
恵梨香が試着していた時の態度と麻黒さんのモデルをしていた時の態度で差が出来すぎてしまって、気分を害してしまったようだ。
恵梨香の時は過激な格好で大ぴらにテンションを上げるのもどうかと思ったが、もう少し言葉を多めにして感想を言った方が良かったかもしれない。