目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第32話 悪役令嬢父からの依頼


 コラボ配信の手伝いをしてほしいのと相談があるということで、今回も稀崎邸に向かっていると、稀崎邸の玄関の前にモノクルを付けた燕尾服の老人がいるのが目に入った。


「お願いでございます。どうか一度だけでもお目通りを」


『無理です。お帰りくださいませ』


「どうかーー」


 見た感じ執事さんのようだが、何度も入れてもらえるように頼んでいるところを見ると、稀崎家に仕えている方ではなさそうだ。

 稀崎家に何のようだか、わからないが執事さんが必死なのは頼み込む様子から伝わってくる。

 おそらく入れてもらえるまでここから離れないだろうことは想像に難くない。


「どうかされたんですか?」


 一度執事さんにどいてもらうにも一声掛ける必要があるし、老人が門前払いされているところを見るところも目に毒なので、声をかけた。


「稀崎家の方にある男を訴える際に弁護をしてほしいのです! どうかお願いします!」


 執事さんはそう俺に懇願しながら縋り付いてくる。

 完全に稀崎家の人間と勘違いされてるようだ。


「すいません、俺は稀崎家の人間じゃなくて、家庭教師にきただけの外部の人間なのでそう言うことは」


「さ、左様ですか……」


 俺が訂正を入れると執事さんはしょんぼりした顔をして引き下がった。


「秋也、何度も悪いわね」


 インターホンを鳴らして中に入ろうと思うと、あらかじめ訪れる時間を約束してこともあり、先んじて恵那が出迎えに外に出てきてくれた。


「恵那様!」


 すると隣にいた執事さんは大きな声を上げた。


「千垣!?」


 何事かと思うと恵那も執事さんから名前を呼ばれて驚きながらそれに応える。

 どうやら2人とも知り合いのようだ。


「2人とも知り合いなんだね」


「ええ、千垣は光輝の筆頭執事だから幼い頃からの付き合いよ」


 幼い頃からということは千垣さんとはかなり深い縁があるのか。


「それにしても千垣。こんなところで何をしてるの?」


「いえそれがオオグロチャンという無頼漢に弱みを握られたおぼっちゃまが攫われてしまいまして。それで名誉を守りつつおぼっちゃまを救助するためにどうしても稀崎家のお助けが必要になりまして」


「何それ!? 中に入って詳しく聞かせてくれる?」


 千垣さんが驚きの事実を告げると、恵那が千垣さんを引きずるようにして、屋敷の中に上がり、俺も関係があるだろう予感がしたので彼らに続く。

 最近炎上を避けるためか、配信をしていなかった光輝くんがまさかそんな事態に陥ってるなんて思いもしなかった。



 ーーー


「ですので、どうか御坊ちゃまを救出するために力を貸していただきたいのです! お願い申し上げます、恵那さまっ!」


 恵那の部屋で千垣さんから話を伺うことで、どうして光輝君が攫われる至ったのか、把握できた。

 脅迫されて稀崎家に謝罪を入れて、婚約を復活させればまだどうにかなったかもしれないところを慢心してあえて自分で解決しようとして、こうして攫われるという酷い事態になっているとのことらしい。


 婚約を復活させるなら恵那側も千垣さんに協力してもいいと思うが、SNSで現在も光輝君から意思を確認しても返事はNOということだ。

 主人のために奔走してここまで来た千垣さんには悪いがこれでは稀崎家当主の娘である恵那でもどうにもならないだろう。


「千垣、流石にうちが損をするだけだもの。それじゃあ、お父様も協力してもらえないわ」


「恵那様……」


 やはり恵那が千垣さんからの依頼の断りを入れ、千垣さんが目を伏せる中、恵那は口を動かした。


「でもあたし個人としては協力するわ。光輝についてはもう愛想が尽きたけど、千垣が可哀想だし、何より光輝のリスナーがこんなことで配信終了なんて悲しむことになるもの。秋也、家庭教師の時間、こっちに回してもらってもいい?」


 光輝君の救出を依頼にするのか。

 光輝君が攫われた原因には俺も関わっているので俺個人としては罪滅しとして受けてもいいが、危険な大男が相手になり、暴力沙汰に発展する可能性もあるので、俺の雇い主である麻黒さんのお父さんーー郷士さんに確認をとった方がいいだろう。


「俺としてはいいけど。ちょっと事がことだから社長に確認を取るね」


 プライバシーの観点から一度部屋から廊下に出て、郷士さんに電話をかける。

 忙しい人だが、繋がるだろうか。


「もしもし、秋也くんか。何かあったのかね?」


「いえ実は恵那から人の救出を頼まれて。大丈夫でしょうか?」


「君のことは信頼してるから拒否する理由はないが、その助ける人物というのは星源光輝かな」


「星源家のことについて知ってるんですか?」


「ああ、次期当主が消えれば流石に騒ぎになるからね。私の耳に入っているよ」


 察しの良すぎる郷士さんに尋ねると、やはり事情について知っていた。

 麻黒家は情報収集に長けているとは知っていたが、おそらくまだ判明して1日も立っていないことを知っているとは流石に驚いた。

 スパイでも雇ってるのではないかと思うような耳の速さだ。


「星源光輝を救出できれば報酬を上乗せしよう」


「報酬を上乗せですか?」


 麻黒家に特に旨味のない話なので、いきなりの報酬の上乗せに疑問を抱かずにいられない。


「今回のことで星源光輝を救出すれば、星源家の弱みを握れる上に、大きな貸しもできるからね。こちらとしてはあわよくば派閥をこちらに移ってもらえるかもしれなんだよ」


「なるほど」


「それに今星源光輝の身を拘束している無頼漢の素性も調べがついていてね。彼は花園家の息がかかった外国籍の傭兵会社を経営する若手ホープとのことだ。本人自身も現場である戦場で活動する上、ルール無用の男で危険性が高くてね。バカンスで来日した当初から私の派閥で花園家と因縁がある人間の一部からは怯える声も上がってるので私としてもできるだ早く国外に帰ってもらいたいんだ」


「傭兵会社で現役……」


 日本では会わないレベルで危険な人間のようだ。

 なんとかなく報酬が上乗せされる理由がわかった。

 危険手当だろう。


「心配することはないよ。我々も君を全面的にバックアップするし、君の才能は折り紙つきだ。もし直接向かいあうことになったとしてもおおよそ彼でも君の敵にはならないだろう」


 ーーー


 若干聞き慣れない言葉を聞いて驚いたが、郷士さんからOKをもらえたので、恵那と千垣さんにそのことについて伝える。


「OKが出たよ。社長の方でも協力してくれるらしい」


「麻黒家も協力してくれるのね! 百人力ね」


「おお! 神はここに居られたか!」


 俺が返事をすると恵那がガッツポーズをとり、千垣さんが咽び泣き始めた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?