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第6話 あたりまえの日常の中で

 前回のあらすじ。元勇者に付与されたスキル(魔道具?)は、超古代文明の遺物、最終兵器『皆殺し装置』だった。転生し、あっという間に王国を灰燼かいじんに帰す、その圧倒的パワーで第七王女も巻き添えにし、転生ガイドルームへ再び舞い戻る事になった。

 三度の転生を経験した元勇者と、巻き込まれた元第七王女の行く末は如何いかにに?


   ◯ 忌まわしき最終兵器の記憶


 ―― 一万三〇〇〇年前


 ビーッビーッビーッ


 けたたましい警報が鳴り響いた。それは腹の底から不快にする嫌な響きだった。都市全体が激しく振動し、空は不気味なむらさき色に染まり、地割れが足元まで迫っている。人々は争って地下シェルターへ避難、または宇宙そらへと脱出していた。逃げる先などどこにもないというのに。そして地上に残ったのは我々ふたりだけ――


「もう、終わりね……」

 震える声で、彼女は彼の胸に顔を埋めた。彼は優しくその背を抱きしめ、ささやいた。

「ああ。だけど、恐れることはない。最期の時まで、そばにいる」

「あなたと出会えて、本当に幸せだった。こんな形で別れるのは辛いけれど……」

 彼女は涙で濡れた瞳で彼を見つめた。彼はそっとその頬に触れ、微笑んだ。

「私もだ。君と過ごした日々は、たとえ短い時間だったとしても、私の人生で最も輝いていた」


 足元の地面が大きく崩れ落ちる。二人は強く手を握り合った。


「また、いつか……きっと、また会おう」

「うん、私もそう信じている」


 二人は互いの瞳を見つめ合い、静かにうなずいた。言葉はなくても、その視線からは、永遠の愛と、再会への強い願いが溢れていた。崩壊の轟音の中、二つの魂は、確かに一つに結ばれていた。

 人類が生み出した『最悪の機械』が最後のカウントダウンを刻んでいる。


 ピッピッピッピッ……。

 そして――その『最悪の機械』を残して、世界は……消えた。


 何もない。

 何もない。

 まったく何もない。


 ただ空間だけがそこに『在る』だけ。

 異なる次元間のゆらぎを統一し、コントロールされたマイクロブラックホールが物質の限界を突破。激しい重力波が原子を振動させ、素粒子にまで分解。

 その『最悪の機械』の名は……


   《次元波動縮退重力波原子素粒子化対消滅装置(通称:皆殺し装置)》


 温かい光につつまれていた……気がついたら、視界すべてが白かった。目が見えているのか、それとも……。


   * * *


 ―― あれから一万二〇〇〇年後


 地球……七つの海と、六大陸。東の果てにその王国はあった。


   ◯ とある祭の農村地帯


 僕の名前はカイル。王都ヴァルハラから少し離れた農村地帯にある小さな村、フェルトハイムの農家の一人息子だ。

 少し厳しいけど真面目な父と、いつも笑顔の優しい母と三人暮しをしている。小規模ながらも豆を作って生計を立てている。

 貧しく地味な毎日だけど、特に不満もなく生きてきた。

 今年の収穫祭は、十五歳の誕生日後。なので僕は晴れて成人したことになる。収穫祭は隣のリンデンハイム村と共同で、いつも盛大に行われていた。農村唯一の年に一度のお楽しみ。

 成人したので『ねんがんのエール』が飲める。エールをあまり飲まない父も、祭りの時には皆で騒いで飲んで楽しむ。

 普段は物静かな父。だけど、この日の陽気で明るい父が大好きだ。いつもは少し照れくさくて口に出しては言えないが「ありがとう」と言おう。

 僕は立派に成人したんだ。


   〇 となりの看板娘さん


 あたしはアリシア。王都ヴァルハラから少し離れた農村地帯に位置する、小さな村リンデンハイムの宿屋の娘で、宿は街道沿いにあります。

 今年十四歳になり収穫祭を迎えると村から大人として認められるの。

 今日、村の中心にある広場では、お隣、フェルトハイムの村と合同で収穫祭が開かれる。

 どちらの村も、けっして裕福とは言えないけど、この日ばかりは飲めや歌えやの大騒ぎになる。楽しみね。

 うちの宿屋の倉庫から、少ないがありったけのエールを出して、隣村の住民共々年に一度の収穫に感謝をするの。

 宿屋のおカミをしている、元気でいつもガハハと笑う男勝りな母と、農具の修理を生業としている静かな父と三人仲良く暮らしている。そんなあたしは小さい頃から、宿屋の看板娘として手伝いをしていた。

 宿屋でエールや食事の配膳をしていたので、今までの収穫祭には出たことがなかった。しかし今年は成人したのだから「いいひと見つけないとネ」と、母があたしの肩をバンバン叩きながらガハハと笑い、村の中心の広場に行かせてくれた。


   ◯ 転生ガイドルーム


「ズズッ、ふぅ……どうやらふたりとも、良い大人に成長したようぢゃの。ほっほっほ」

「そういうことだったのね。転生は、その過程において、無意味なものは何一つない完璧なシステムだったんだ」

「そうネー、あの子らは古代の愚かな人間たちの業を、まとめて背負わされてしまった、いわゆる生贄のようなものだったネ」

「その業の精算が、これまでの三回の転生での理不尽すぎる顛末てんまつで、すべて終わり、記憶をすっかり消して、穏やかな日々を送り、天寿をまっとうしてもらうことになっていたんだ」


 ――今回の職業(スキル)ガチャは


   《しずかな農村、しあわせな結婚(天寿をまっとう)》


 私は、地味だが健気な生活を送るふたりを、この転生ガイドルームで、ずっと見守っていた。肩がわずかに震えているのを感じる。

 そして静かに泣いていた。

「わしらも辛かったんぢゃよ。飄々《ひょうひょう》と接していないと、わしらも、もたんからな」

「ホントつらいのネー」

「うん……」

 私はコクリとうなずいた。


          ―― 勇者編 おわり ――


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