平凡なサラリーマンだった。いや、なんの取り柄もない冴えないサラリーマンだった、というのが正しい認識だろう。そんな私が突発的な事故で死に、天界に来たら詳しい説明もなく「転生者を導く女神」にされた。
これまで対応してきた魂たち。裏社会のドン。元上司の詩織さん。超古代文明のカルマ精算をさせられた元勇者と第七王女さま。101回輪廻転生を繰り返したネコ。クマのぬいぐるみとよろしくやっているかおりちゃん。市役所受付係の女の子。
女神といっても殆ど流されるまま、自分が関与出来ることなど何もなかった。なのに。
年がら年中真っ白な空間で、明るくはあるものの太陽や月、星などが見えるような世界ではないので、一日という概念がないのかもだが、その日……。
近頃は転生予定者の訪問もなく、だらだらと異世界モニターで「リリカちゃん」のギルド受付嬢っぷりを眺めていた。お茶請けに眼鏡三つ編み女神ちゃんにもらった煎餅をかじっていた。
ちょっと視線をそらしていた隙に、こたつに神様が降臨して茶をすすっていた。
――女神失格の烙印を押される
「山田さん、暇そうぢゃのう」
「あっ、神様……お久しぶり」
「ほっほっほ、お前はまだ魂磨きが足りんようだから、異世界に降りて修行してくるがいい――」
とか、言われたんですよ? 理不尽じゃないですか?
当然というか、他の転生予定者と同じように、私もスキルガチャを引くわけなのだけれど……。
これ、いつも役に立たないスキルばっかり出すから、あまり使いたくないんだけどなぁ。
――付与されたスキルが
《聖女の風格「特別な力はないがラッキーポイントが高いのでまず死にません」》
ほら、また訳解んないスキル。
ええ、いいですよ?
やってやろうじゃないの。聖女ですか? 上等です。
で、転生先はどこです?
え? リリカちゃん(ギルドの受付嬢)のあの世界です?
え? まって! あそこ魔界が! 魔物がウヨウヨでヤバい世界じゃ。
「ぢゃ! しっかり魂を磨いてくるんぢゃよ! ホーッホッホッホ」
「えっ、まってまって! せめてまともなスキルを、そう! かおりちゃんに付与したホーリーライトニングを希望ぉぉぉぉぉ」
今まで幾度も転生予定者たちに言わせていた言葉を、まさか自分の唇から出すことになるとは。
そうして私、女神山田は、ついに異世界転生を果たすのであった。この流れとても嫌な予感がする。聖女なのだろうか? 私が聖女? またまたご冗談を――
―― 第3章 本編第20話へつづく ――