目が覚めたら、そこは見慣れぬ教会の大聖堂。どうやら本当に異世界に来たようだ。見慣れぬとはいえ、ついこの間まで天界から多くの転生予定者をこの世界に送り出していたのだから、全く知らない世界でもない。
実際に肉体を持って、これからこの世界で生きていくのだ。今度は私が謎スキルに翻弄されることになる。
さて、いかにも「聖女になりなさい」と言わんばかりのスキルである「聖女の風格」とは一体どんなものなのだろう。
まず、腕。細い。白い。つるっつる。 次に、髪。さらさら。長い。いい匂いがする。
「いやいやいやいや」
慌てて自分の胸に手をやる。
「……あっ」
あった。なにかが、そこに、確かに、あった。
さらに脚を見てみると、なんとういう事でしょう! すね毛がない。それどころか妙に艶めかしい。え? 白を基調とした服装……いかにも聖女といった佇まい?
「えぇ!? これ女神の身体のまんまじゃないぃぃ!」
「ホッホッホッ、驚いているようぢゃの山田さん。おっと、ここでは君は『アリシア』と呼ばんとな」
「あーっ、神様!」
「しーっ! ここでは司祭様と呼ぶがいい。流石に『なんの説明も無しに送り出すのは酷すぎだ』と、三つ編み眼鏡ちゃんに叱られてのぅ。こうやって序盤だけサポートすることにしたのぢゃよ」
序盤とか言うな……。
「そうだったんですね。では私はこれからどうすれば……」
「まずはこの世界ぢゃが……」
神様もとい司祭様が言うには、この異世界、どうやら今までたくさんの転生者を送ったのはよいが、本来あるべき宇宙の秩序を著しく乱してしまったらしく、魔物が大量発生してしまい、魔物の勢力が強くなりすぎて人間が絶滅する恐れがあるとか……。
えぇ、何やってんです、神様……。
「そこでぢゃ。今度は転生者ではなく、現代の日本から正しい適正のある成年男子を転移させ勇者とし、ラスボスである魔王討伐をしてもらおうと思っているのぢゃよ。魔王の存在を亡き者にすれば、後は魔物の勢力拡大も収まるぢゃろう」
「ほんと、何やってるんですか、神様」
「同じ日本出身ということで、これから召喚する転移勇者を導いてやって欲しいのぢゃよ。ただ……」
「ただ……?」
嫌だなあ、なんかとても良くない予感が……。
「魔王討伐に最も適正があると思われる、現代日本人勇者候補というのが……少々性格に難があってぢゃな。その、討伐の旅にアリシアさんも冒険者聖女で監視役として、同行してもらいたいんぢゃよ」
「えぇ、そんな、私だって元日本人ってだけで、ただのサラリーマンしかやってなかったし、女神役も流されて特に何かやれてた訳でもないのに無理じゃないですか?」
「ま、なんというか暴走する勇者をコントロールする調整弁ぢゃな……」
「元上司だった詩織さんならともかく、私にそんな事出来るかなあ」
「その容姿でありながら、わずかばかりの日本人成人男子だった頃の心があれば、きっとうまくやっていけるぢゃろう。神であるわしを信じるがよい」
そんな訳で、異世界人転移の召喚儀式が始まった。気がつけば周りには多数の魔法使いと聖人聖女で転移魔法陣に沿って丸く並んでいた。
ポータルゲートの類ではなく、魔法による召喚術式にて異界の勇者を転移させようという試みなのだろう。しかし、なんだが異世界魔法なのに、日本の葬式の時に聞く般若心経のように聞こえるのは気の所為だろうか……ますます嫌な予感がするんですけど。
――詠唱が始まった
空なる世界よ、万物の根源よ
移ろいゆく現象に、心を奪われることなかれ
我らが身もまた、幻のごとし
その執着を捨て、解き放たれし時
新たなる世界への扉は開かれん
その身に宿りし力、 空を識り、執着を断て
勇者召喚!!
光の粒子が一点に収斂して、人の形を成してきた……。
すると、その光の中心で懐かしい服装をした男が現れた。転移完了だ。
「ん? なんだここは?」
その男、カプ麺をすすりながら、キョロキョロと周りを見回す。
服装はだぶだぶの黒Tシャツに、よれよれのきったないジーパン。ぼさぼさの髪に黒縁メガネ。でもなんか懐かしい。日本人だなぁ。
すかさず神……いや、司祭さまが男に話かけた。
「おお、勇者よ! お前は、魔物がはびこり人々の生活を脅かす魔族と、その頂点にに君臨する魔王を討伐をし、世界を救済する為に召喚されたのぢゃ!」
するとその男、握りこぶしを振り上げて叫んだ。
「異世界転移、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
「……!」
「えっ?」
「ホアッ?」
もしかして性格に難ありとは……ネッt……。
―― つづく ――