私と、勇者としあきは、冒険者ギルドにてランク判定を受けた後、魔王討伐への旅の準備を進めた。
まずは装備を整えないといけない。私は聖女なので特に装備はいらないのだけれど、勇者があの調子のポンコツなので、せめて回復ポーションや、食料、路銀の管理をしたいと思う。勇者の分については、適正がまったく分からない状態だったのだが、とりあえずは服と、ナイフくらいは与えておきたい。
あとは道々少しずつ充実させていこう。都度、適正が判明したらそれに合わせて装備を揃えればいい。
街で、旅の装備を整えた私たちは、冒険者ギルドセンターの建物に戻ってきて、ギルド内の食堂で食事をしていた。
「なあ、アリシア……俺、無能すぎるから、やっぱり追放されてしまうのか?」
「そんな訳無いでしょう? こっちの世界に勝手に転移させておいて、それはあまりにも無責任すぎる。だから安心して! 私が、全力でサポートするから」
「お前、いいヤツだな」
なんか、昼間はあんなにテンション高かったのに、すっかりしおらしくなっちゃって……。まぁ、しょうがないか。徹底的に分析されちゃったものね、能力を。
「ほら、あんたが食べたがってた『マンガ肉』……食べなさいよ」
「ああ……」
気の毒なくらい、落ち込んでいる……。もう、しょうがないなあ。
「としあきくん、聞いて。私、思うんだ。としあきくんが、この世界に転移したのには意味があると思うんだ。そりゃあ、ギルドでの検査では適正がまったくみられなかったけど……。逆にこれは、検査では分からない未知の能力、そう! スキルがあるのかもしれない」
「そうか?」
「でなければ、神……、んっコホン! 司祭さまの異世界勇者召喚の儀式で、こっちに転移させられたりしないでしょう? きっと私も、としあきくんにも分からないなにかがあるのよ」
と、勇者としあきの手を握りしめながら、くどくどと励ました。
「そ、そうだよな? 俺、異世界勇者なんだよな? こんな流れもお約束ってやつだ。よ、ようし!」
「まずは、こつこつレベルを上げていきましょう!」
すると、受付の方から、どよめきが響いてきた。
「すげえ、ベルンのやつ、どんどん強くなっていくな」
「今日は、国境の森のゴブリンを一掃したらしい」
「おれ、近くにいたんだけど、アリサの攻撃魔法もすごかったぜ」
ん? アリサ? ベルン?
「あーっ! アリサって、かおりちゃん?」
「えっ? その名前を知っているあなたは……聖女……さま? あっ、その顔は、めが……もがが……」
「しっ! 駄目! ここでは私は聖女アリシアなのよ、ア・リ・シ・ア、いいね?」
「め……あ、アリシアさん、どうしてここに?」
――かくかくしかじか経緯を説明
「そうだったんですね、勇者としあきさんと魔王討伐に……」
アリサが、懐かしそうに私の顔を見ながら話をしていると、隣のベルンが話しかけてきた。
「国境近くの辺境にあるギルド支部で話を聞いたのだが、ここ一ヶ月程、急に魔物が増えてきたらしい」
「えぇ、私もその話は聞いています(異世界モニターで見てた)。なので、異世界から転移させたこの勇者としあきと魔王討伐をする事になったのです」
「しかし、見るからに貧弱そうなその男……、少年? 大丈夫なのか?」
ベルンの心配はもっともだ。
「そうなのよ。これからレベル上げをしていく予定なのだけれど、一体どれだけ時間がかかることやら……」
「あの、よかったら私たちも、その討伐の旅に同行しましょうか?」
「えっ、いいの? この勇者ポンコツよ?」
「ちょっ!!」
「私の最終目標は、最強の魔法使いになること! こっちのベルンも最強の剣聖を目指しているの。だから、この旅でもっともっと強くなりたい」
「いいね、賛成だ! 僕ももっと剣の腕を上げたい」
この二人……。
Aランクの剣聖「ベルンハルト・フォン・グレイフェンタール」
Aランクのアークウイザード「アリサ」
頼もしいのだが、勇者としあきが、足手まといにしかなってない……。
―― つづく ――