適性検査でポンコツっぷりが露呈した勇者としあき。真の適正を見極めるため、少しずつ難易度の高いクエストをこなし、様子を見ていくことにした。
前に日本から異世界転生をしたアークウイザード・アリサと、剣聖ベルンハルトも勇者パーティとして仲間に加わることになる。
まずは王都近隣で、雑魚モンスターで様子を見ようとしたが、想定以上に勇者としあきはポンコツだった……。
「ひいっ、こわいこわい……」
「勇者さがって!!」
「ファイヤーボール!」
「はっ!」
ズバアァッ!
アリサと、ベルンハルトの息のあった連続攻撃で、あっという間にゴブリンの群れを一掃してしまう。勿論、勇者としあきが活躍する場面などまったくなし。
「うーん、これでは、ベルンとアリサに魔王討伐してもらったほうが早いのでは」
勇者としあきの前にいながら、ついつい本音がポロリと出てしまった。
「俺たちとしては、それでも構わないですよ?」
「勇者なんて飾りです。そこにいるだけでもいいんじゃないですか?」
アリサとベルンハルトも、結構乗り気……。
「えぇ……(困惑)」
陰口ではないのだけれど、そんな私たちの会話を聞いていた勇者としあきは、また凹んでいた。膝を抱えて顔を押し付けうずくまる。分かりやすい凹みかた。あんなにビッグマウスだったのに、すっかり無口になってしまって……。
勇者としあき……勇者……、ああ、なんか勇者と呼ぶのもかわいそうになってきちゃった。
「ねえ、元女神さまの聖女アリシアさん、ちょっと気になったのだけれど、勇者としあきって、日本からの転生ではなく、転移……つまり召喚魔法によって、こっちの世界に来たんですよね?」
「えぇ、そうですよ」
「それでね、私もベルンも、日本にいた時の記憶があるから言葉の意味が分かるのだけれど、勇者としあきって『日本語』で話してない?」
「えっ? そういえば、私も気にしてなかったけど、日本語ですね」
「それで、勇者としあきの適正検査で何も分からなかったのって、日本語ベースで検査したからではないのかな? と。あと、こっちの世界の魔法って、この世界で生まれたものが生まれつき持っている魔力、つまり体内にある魔素に依存していると思うんだけど、生まれ変わりでない『転移してきた勇者』には、それが無いんじゃない?」
「……!」
ハッとした。体内の魔力量なんか、現世日本にあるはずもない。特殊な訓練をして「気」をコントロールする術を持っているはずもなく、そんな彼は何かしらのスキルがあったとしてもこの異世界では計測が出来なかったゆえに最低ランクのFランク冒険者として認定されたのかもしれない。
――夜
皆で焚き火を囲んで、肉を焼いていた。
「あぁぁぁぁ、あっついなぁぁぁぁぁ、アチアチアチアチ」
勇者としあきが、何気なく発した言葉……いや、言葉にもならないオノマトペだろうか……。そこから魔力の動きを感じ、周囲の空気を振動させ、一点に集中したかと思うと、そこに火系魔法が生じた。
――ファアアアアアア、ボッ!
「え? なにそれ? 魔法……なの?」
「どうみてもファイヤーボールじゃねえか!?」
「お、おおおお?」
勇者としあきの目が輝きを取り戻していた。
「ちょっと! もしかして勇者としあきの場合、魔法の仕組み自体がこの世界の理と違うものなんじゃない?」
「これはもしかして……」
勇者としあき、何かを感じたのか、またおかしなオノマトペを発した。
「ひゃああああああああああ、ビュン! ビュン! ビシャああああああ」
――ファアアアアアア、ビュッ! ビシッ! ズドォォン!
鋭い水柱がいくつも現れたかと思った瞬間、それらが一点に集中して近くにあった大木を貫いて倒した。
「おいおい、これ水魔法と冷却魔法のハイブリッドじゃねえか!!」
「私、思い出したんだけど、昔沖縄にいた時におじいちゃんが言ってた事。日本語には言霊というのがあって、音や意味そのものに力があって現実を改変したり、意識をある方向に導く力があるのだとか……、その力ってこっちの世界でいう精霊と魔力による魔法……」
「まさか……」
「日本から見れば魔法だって十分不思議な力だけど、ここは異世界。日本では発現しなかった何かが、こちらの世界での魔素やら魔力なんかと相互作用して、『日本語』のもつ力を引き出しているんじゃないかな」
さすが、アークウィザードのアリサちゃん。考察が深い。
頭でっかちのビッグマウス大魔王の勇者としあき、もしかして勇者の素質って……。
「異世界チート魔法 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
やれやれ……。
―― つづく ――