【ノースダコダ州北部 ダンシーズ北60キロの湖畔地帯】
1945年2月16日 夕
『アーサーより、全車へ。
『アーサーへ、こちらトリスタン1、了解。トリスタン2より4は、1とともに移動後に攻撃準備。命令あり次第、射撃を開始する』
『アーサーへ、こちらバロミデス1、了解。これより迂回挟撃のため移動を開始する』
『ケイより、アーサーへ。ブラヴォー・デルタに変化を認む。敵獣はこちらに気づいたらしい。進路を変針……なんだ? アーサー、ヤツは……』
『ケイ、どうした? ケイ、応答せよ。応答せよ。
『トリスタン1よりアーサーへ。小隊全車、布陣完了』
『こちらバロミデス1、移動中。たった今、ブラヴォー・デルタとすれ違った。ゴツいヤツだ』
『アーサー、了解。距離1500で射撃を開始する。バロミデスは攻撃開始と同時に反転、後を突け』
『アーサーへ、こちらバロミデス1、了解。ケツを思い切り蹴り飛ばしてやる』
『アーサーへ、こちらトリスタン1。ブラヴォー・デルタとの距離1500』
『アーサーより、トリスタン全車へ、攻撃を開始せよ。以降、トリスタン1が小隊の指揮を執れ』
『トリスタン1、了解。全車、ファイア!』
『アーサーより、バロミデスへ反転せよ。敵のケツを押せ』
『バロミデス1より、アーサーへ了解。ファッキンデルタに鉄の鞭をくれてやります』
『トリスタン2より、外れました。修正射行きます。ファイア』
『トリスタン3、命中……ジーザス、嘘だろ』
『トリスタン4より1へ。あのトカゲ野郎、弾をはじきました』
『トリスタン1より、アーサーへ。攻撃に効果無し。ブラヴォー・デルタが
『……アーサー、了解。トリスタンは射撃続行。距離500を切ったら後退せよ』
『アーサーへ、トリスタン1、了解。畜生、距離1000でも弾きます』
『こちらバロミデス1、敵の
『アーサーより、バロミデス。可能な限り肉薄してヤツの足を狙え』
『バロミデス1、了解。
『トリスタンは敵の頭部へ射撃を集中。弾種を榴弾へ変更。目を潰せ』
『トリスタン1、了解。ファイア!』
『バロミデス1,ブラヴォー・デルタの右脚部に命中。ヤツの足が止まった。ざまあみろ』
『トリスタン2、頭部へ命中。効果あり。あの野郎、動きを止めました』
『トリスタン3、命中。ビビらせやがって』
『アーサーより全車へ、いいぞ。このままここに足止め――』
『トリスタン1より、アーサー。敵獣がおかしな動きを……こいつはヤバイ、後退を!』
『トリスタン1、どうした? こちらアーサー、トリスタン1応答せよ。先ほどの爆発音はなんだ?』
『こちらトリスタン3、1と2は撃破されました。距離を一気につめられ……クソッ、こっちに来やがった。後退、後退!』
『こちらバロミデス1、あの野郎、トーマスを……仇を取ってやる』
『こちらアーサー、トリスタン各車へ。目視で状況を確認した。後退しつつ、可能な限り射撃を続行。バロミデスは距離を保て。ヤツの足を止めるんだ』
『バロミデス1、了解。
『アーサーより……バロミデス小隊、君らは後退しろ』
『アーサー、どういうことです?』
『トリスタンは全て神へ召された。私はここで義務を果たす。君らは退避して、HQへヤツの脅威を知らせろ。可能な限り、子細にだ。これは命令だ』
『こちらバロミデス……了解。後退し――』
『バロミデス……!? 応答しろ! バロミ――』
◇
ネスビット大尉がM4のキューポラのハッチに手をかけた瞬間、凄まじい衝撃が襲ってきた。車両が横倒しになったのを認識する間もなく、彼はしたたかに延髄を天蓋の枠にぶつけ、脳と身体を結ぶ神経の束が寸断された。おかげで痛覚は感じなくなったが、彼は一切の命令を下せなくなった。
装填手がネスビットの身体を起こし、何事かを叫んでいるが、彼の声帯は機能しなくなっている。
ネスビットは心の中で叫んだ。
何をしている早く逃げるんだ! 俺はもう役に立たない!
彼の叫びをかき消すように、地響きが近づいてきた。
ネスビット大尉の機甲中隊が全滅した事実は、近くの日本軍の部隊から合衆国軍の司令部へ知らされた。ホンゴーと名乗る少佐はネスビットの部隊の救援に駆けつけていた。しかし、ホンゴーが現地に到着したときには全てが終わり、暗闇の中に十数両のM4の残骸が残されるのみだった。彼が救うべき味方も、撃滅すべき敵も居なくなっていた。
ホンゴーの報せを受けて、合衆国軍第六軍司令部は大型ドラゴンの迎撃計画を立て直し、大幅な後退を決断した。