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第2話 創造(新悟との愛の結晶)


 由良江はニコリと僕にしか見せない媚びた顔で綺麗な唇を動かします。


「あたしの『創造』(新悟との愛の結晶)はその名の通り、ありとあらゆるものを作り出すことが出来るわ」


「全然その名の通りじゃありません。創造ならともかく、読み方だけを聞いたら全く意味が分かりません」


「あたしが手ずから創る、いわば子供を産んでいるようなものだもの。これほどピッタリな名前はないでしょう」


 自分のセンスに絶対的な自信を持った笑みを浮かべてきます。


「想像妊娠からの創造出産してるだけですよね。絶対認知しませんよ僕は」


「あんたの種をもらった生命のある子供だけはしっかり認知してちょうだいよ。

 それでね、この力は命がないものならば無からありとあらゆるものを作ることが出来るの」


 由良江は先ほど取り出したダイヤモンドの指輪を掲げてしたり顔をします。


「ダイヤでも、拘束具でも、そして」


 大きく手を広げて声たかだかに一言。


「新世界でも」


 …こ…のヤンデレ女……マジで世界を創成したんですか………ドラえもん映画くらいでしか聞いたことないですよそんなの……


「…ったく、貴方らしいスケールがイカレているスキルですね」


 落ち着きなさい僕、やることはいつも通りです。彼女の愛に押しつぶされてはいけません、自身をしっかり持つのです新悟。


「うふふ、あんたへの愛の大きさがそれだけ途方もないスキルを生み出したのよ。多分ね」


 ダイヤに軽く口づけをしてきます。


「なるほど、そのスキルで創った世界の神に僕を据えようってわけですか……でも妙ですね。先ほどの話を信じれば生命は作れないはず、なのにドラゴンや一反木綿が飛んでいたのはどういうことです?まさかロボットか何かなんですか?」


「んなわけないじゃない。生命を創り出すことは出産以外できないけれど、あんたをここに連れてきたのと同じように生命を移転させることはできるのよ」


「つまり、ドラゴンや一反木綿は貴女が異世界から誘拐してきたものだと」


「誘拐したのはあんただけよ。他の奴らはちゃんと自分の意思で来たいって言った奴らを連れてきたわ。ま、移住ってところね。

 本当は誘拐したほうが楽だったんだけど」


 由良江は僕の方に歩んできます。ふわりと心地よい匂いが鼻孔をくすぐり、少し癒されてしまいました。


「あんたはそんな不条理に塗れた世界望んでいないでしょう。だから苦労したのよ。色んな異世界に行って、それっぽいドラゴンとかを見つけて連れてきて勧誘してきたんだから。

 まぁ、あんた以外を虜にするこの外見をもってすれば大体の奴は素直に頷いたんだけどね。あたしの美しさは異世界でも問題なく通じるのよ」


 さらりととんでもないことを……


「つまり、この世界は由良江が僕の為に創った最高のおもちゃ箱ってことですか?」


「ん~~ちょっと違うかしらね、この世界こそあたしが愛しいあんたに送る結婚指輪代わり、いえ、結婚指輪はあたし自身、さしずめこの世界は結婚指輪を入れる箱ね」


 誰も頼んでいないのに、まーた、勝手なことをして……


「悪いですけれど、貴女が僕にどれほど献身的に尽くしてくれようとも彼女はもちろん嫁にするつもりなんてありませんよ。

 過去の行いは水に流しましたが、その過去が培った貴女への不信感は拭いきれていないんですから」


 僕と由良江は保育園の頃からの仲で唯一と言っていい『長い知り合い』です。決して幼馴染ではありません。

 それはなぜか、それは筆舌に尽くしがたいほど苦しみに満ちたいじめをこの女が僕にしてきたからに他なりません。


 今でもたまに夢に見ることがあります。


『いい顔してるわねぇ……ほらほら、一生懸命逃げないと犬に食われるわよ』


『僕は美味しくないよぉぉぉ!!!!!』


 自分の背丈ほどあるお腹の空いた犬を放された庭に放り込まれたり


『ほらほらほらほら、新悟くんのカッコいいところ見てみたい!!!飲み干せ飲み干せ飲み干しなさーい!!!!!』


『ごぼぼぼっぼぼぼ!!!!!』


 風呂の中に頭を突っ込まれて窒息死しかけたり………


『死ねクソガキィィ!!!!!』


『新悟ぉぉぉぉぉ!!!!!』


『………ぐぼっ』


 変態から守ってナイフで刺されたり…………この時は臨死体験しましたよね……


 過去のことではありますし、不本意ながらこの経験から屈強な精神と、僕なりの悟りを得ることはできたと思いますが、これほどの目に遭わされた相手を伴侶に選ぶほど僕は聖人ではありません。


「分かってるわよ……」


 由良江のテンションが恐ろしいほどに下がっていき、臍を噛むような顔を浮かべました。


「あたしがあんたにしてきたことは一生償いきれることじゃない…死ぬまであんたの傍で贖罪をし続けるつもり。

 だけどそんなあたしの自己満をしたところであんたがあたしを好きになれないのも分かるわ……でも………それでも無理なの」


 不意に由良江が僕の方に身を乗り出し、頬に唇をつけてきました。狂っているのに、それでもとてつもなく柔らかくて気持ちの良い一撃に、反射的に胸がトキメキそうになります。


「あんたを好きな気持ちも、あんたに好かれたいって欲望も収まらないのよ。だから絶対にあんたに好きになってもらうわ」


「無謀な挑戦だって、ずっと言っているで……し…」


 意識が……途切れて……


「由良…江、一体何をしたんですか?」


「大丈夫、ちょっと眠ってもらうだけよ。

 貴方は世界で唯一あたしの神になることを許した男、神になってもらいたい男……一生懸命好きになってもらうように頑張るわ」


 そう言った由良江の顔はビックリするほどに穏やかで……それが一層の狂気を醸し出させました。


「パルーチェ」


「はっ、お呼びでしょうか由良江様」


 どこからともなく、メイド服に身を包んだ整った顔立ちにケモ耳を付けた女性が現れました。彼女は恭しく由良江に頭を下げます。


「新悟を例の場所に連れて行ってくれるかしら?もちろん、丁重にね」


「かしこまりました」


 一体僕に………もう………意識が…


 新世界を創り、まさしく神に等しい存在になった大魔王級のヤンデレ女にこの後何をされるか…覚悟をする間もなく僕の意識は異世界の空気に消えていきました。



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