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第3話 よっす、オラ女神


 僕はかつて、神様に会ったことがあります……と言っても、単なる幻想にすぎないとは思いますが。


 由良江は誰もに愛される美しい容姿と身体を誇っていました。その外見を使って動画配信などで承認欲求を満たし、投げ銭などで懐を潤していました。


 そんなことをしていれば、澱んだ愛…いえ、愛と呼ぶのも烏滸がましい欲望に脳を侵された人間もでてくるものなのです。由良江はかつて、そんな男性に襲われたことがありました。たまたまその現場に遭遇してしまった僕は、腹立たしいことこの上なかったですが、それでも目の前で起こっている理不尽に憤り、救ったのです。


 しかし無事ではすみませんでした、犯人と格闘の末倒すことには成功したのですが、引き換えに僕の腹部に深々とナイフが突き刺さり、激痛と烈火の熱さに苦しみながら意識を手放したのです……そして僕は出会いました。


~~~~~~~~~~~


 なんだ……ここ……フワフワした雲みたいなもんばっかりで………って言うか何もかもが白い……まさか僕……死んじゃったのか………うっわぁぁ、マジかよ。あんな暴力女助けて死んじゃうとか冗談じゃないっての。


 とは言え、あのまま見捨ててたら生きている間、ずっと死ぬほどの苦しみに遭ってただろし…運が悪かったと思って諦めるか。


 あーー、にしてもムカつく。


「よっす、オラ女神」


「ぎゃっ!!」


 突然全身に白い衣をまとった赤色の髪の女性が僕の前に現れた。由良江に勝るとも劣らないほどに美しい容姿をしているが「ぎゃっだって。面白味のない反応」とか言ってブーたれているせいで台無しだ。


「あんた誰だ?」


「だから女神だってば、絶対的な女神、女神のメーちゃん。好きな動物は羊、嫌いな動物は人間」


「はぁ??」


「羊って可愛いじゃん。フワフワモフモフでさぁ、オラと同じ真っ白な毛をしてて、毛を全部そっても可愛いんだよ」


 オラって一人称なんかこの女神は………と言うか


「女神がいるってことはここはあの世ってことだよな……ああ、本当に死んだのかよ僕」


「人間って本当に愚か、せっかくオラたち神に似た格好してても、脳みその方は全然レベルが違うんだねー。

 ここはあの世じゃないよ。だいたオラがあの世なんて辺鄙なところに来るわけないじゃん」


「あ?じゃあなんだ?」


「あの世とこの世の狭間の空間。本来死ぬはずじゃない動物が、どういうわけか死んじゃった時に送られる場所だよ」


 すると女神と名乗った女は背中についた4枚の翼をはためかせながら上昇していく。そしてクルリクルリと僕の周りを回った。


「新悟、貴方は本来死ぬ運命じゃなかった。あの女を守って死ぬなんて阿呆な運命は作っていなかった。

 でも死んじゃった、オラが考えていたのと違うことして死んじゃった」


「なんか言いたそうだな」


 きめ細やか白い羽が何枚も落ちてきていた。美に対して疎いと自負している僕でも美しいと本能的に感じるほど美しい羽だ。


「なんで自分を死ぬほど痛めつけた女を助けたの?オラちっとも分かんない。超絶ドMなの?運命を変えるほどのMなの?」


「んなわけあるかド阿呆。今でも殺したいほど嫌いだわ、あんな顔だけ美少女。

 でもそういうの関係ねーんだよ。僕は嫌いなんだ、理不尽や不条理が。そして何かに屈するってことが。目の前でそんな不条理に潰されそうな奴がいたら助けないと気持ちが悪いんだよ。僕があいつを助けた理由なんてそれだけだ」


「ふーーーん………やっぱりオラが想定していない行動しただけあって珍獣そのものの思考してる」


「お前の方がよっぽど珍獣だろうが。四枚も翼があるくせに」


「オラはあんた達と違うの、女神様だからね……で、そんな女神から提案。君の蛮行…じゃなかった。勇敢な行動を讃えてご褒美をあげちゃう」


「珍獣扱いしたくせに、舌の根の乾かねーうちによくそんなこと言えるな」


「うっさいなぁ。女神もお仕事しないといけないの。しょせん神なんて全体から見れば中間管理職の存在だからね……っと、そんなことどうでも良かったんだった。

 とにかく、ご褒美に異世界でチート無双させてあげる。どんな能力が欲しい?どんな能力でもあげちゃうよ」


「あ?何言ってんだお前。そんなもんいらねーよ」


「はぁ??なんで??」


 面白い顔だな、女神様よぉ。


「なんでもひったくれもあるか。自分のポリシーに従って助けただけだぞ。そんな当然のことをしただけでチート能力なんていらんもん押し付けられるなんて何の罰ゲームだ」


「罰ゲームって…普通喜びの舞を舞うところでしょ」


「普通なんて知るか。いいか、チートだかなんだか知らないけれど自分だけ特別扱いされるのは僕の中では不条理だ。僕は皆と平等なところで、てめーの力で昇り詰めたいんだよ。誰かに無理やり力を押し付けられたら僕は一生平等なところに立てねーじゃねーか」


「………新悟………あんた………あんた………」


 すると女神は急に腹を抱えて空中で大笑いをしだした。四方八方に縦横無尽に動き回りながら「キャハハハハハハ!!!!」と女神とは到底思えない品無しの笑いをしている。


「ああ、おっかしぃ。そんなこと大真面目に言うとか頭イカレてるじゃん。オラ、ゾクゾクすっぞ」


「ゾクゾクってなんだよ」


「ゾクゾクはゾクゾクだよ。OK、じゃああんたの意思を尊重してあんたはそのままの状態で現世に戻してあげる……でも後悔しないでね」


「何を?」


「いずれ全てを失いかねない、あんたのイカレた決断を」


 含みのある笑みを浮かべた女神を見た後に僕の意識は遠くに消えていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~


 ああ……なんだか随分昔のことを思い出しましたね………当時の僕ときたら女神を名乗る不審者とは言え、随分生意気な口調だったもんです……修行がたりませんでしたね。まぁ、どうせ死にかけの人間が見た幻想でしょうけど。


「新悟は由良江様に惚れる、新悟は由良江様が大好き、新悟は由良江様と結婚する」


 ん?なんでしょう…なんか声が………


「新悟は由良江様に惚れる、新悟は由良江様が大好き、新悟は由良江様と結婚する」


 耳元で囁かれているようです…誰がこんなことを想っていると、夜闇のように真っ黒な色の長い髪を携えた和服の少女が僕の耳の限りなく近い場所で艶やかな唇を動かしていました。


「何やってんですか?」


「あっ、起きたんですね。おはようございます」


 少女は人懐っこい笑みを浮かべて深々と頭を下げてきました。その動作はどうにも不慣れな印象を受けます。


「あたしは貴方のお世話を由良江様から仰せつかった女です。

 気軽に奴隷とお呼びください」


「呼びませんよ」


 素敵な笑顔で何言ってんですか……って言うか何の遊びですかこれは。


「だって貴女、由良江でしょう」


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