『おーい、そろそろ起きてよ。ウェイクアップ!!!』
うう……僕は一体…………
『こら~~お兄ちゃん、早く起きないと学校に遅れちゃうよ!!』
あれ?僕に妹っていましたっけ?
『血の繋がっていないオ……私にこんな無防備な格好見せてるお兄ちゃんが悪いんだからね』
しかも義妹っぽいですよ。ますます心当たりがありません…
『あっ、お兄ちゃんの恥ずかしい中二ノート発見!!なになに?業魔氷乱熱風水?属性が分かんないなぁ。こんなのより、かめはめの波とかの方がシンプルでカッコいいよね。』
………って言うか。この声。
「何やってんですかメーちゃん」
『あっ、ようやく起きたんだね。暇だから妹の真似してたよ』
「もっとまともな暇つぶしの方法があったと思うんですけれど……それで…ここはどこですか?」
大きな樹木が鬱蒼と生い茂っています。森といったところでしょうか?ただ、森につきものな虫の気配は全くしませんね……由良江はあんまり虫が得意でないので連れてきていないのでしょう。
『さぁ?ただ、あの捨て身の自爆の後にここに吹き飛んだってことしかオラも分かんない。ああでも安心して、どうやら由良江ちゃんからは逃げ切れたようだよ』
「そうですか」
ホッと胸をなでおろします。とりあえずは一安心と言ったところでしょう。
「でも、早く隠れないといけませんね。あのヤンデレどんな力を持っているか分かったものじゃありません。いえ、捜索のスキルも創れるとしたら隠れる意味はないのかもしれませんね」
『プクククク』
??何を笑ってんですか??
まぁいいです。とにかく、隠れることの意味がないなら、今のうちに由良江をどう説得するかを考えましょう…正直僕もまだ頭が冷えていません。
ただ気のせいか、随分と身体が軽いんですよね。調子がいいんでしょうか?
『クケケケケケケ』
由良江のヤンデレは相当に根が深い問題ですからね……これから僕がじっくり時間をかけて向かい合う必要があるでしょう。
『ウヒヒヒヒヒヒヒ』
彼女がこれ以上の外道に落ちないように、そしてまともな人格になるように、力を貸す覚悟はすでにできています。問題は最初の一歩をどうするか……ただ言葉にするだけでは大した効果はないでしょう……拗らせてますからね。
それに、あの涙……あんな由良江は初めて見ました…この感覚……やはり僕は由良江のことを『あーひゃひゃひゃひゃ!!!』………
「ちょっとすいません、さっきからなんで色んな笑い方してるんですか?僕真面目なことを真面目に考えてるんですけど」
『ご、ごめん……ただ、あんまりにも新悟がオラの想定を超える男だから……オラ、心臓がバクバクしてるぞ。まぁオラに心臓なんて臓器はないんだけど』
「はぁ?どういうことですか?」
捉えどころの分からない女神様だとは思っていましたが……何がそんなに面白いのでしょう?
『そっかそっか、ファイナルエクスプローション、初めて使ったけどこんな風になるのか。それとも新悟に使わせたからこうなってるのかな?』
「あの、話が見えないんですけど」
『ああ、そうだね…うん………そうだね。
新悟、あっちに湖があったから水でも飲んできなよ。オラ、ゴクゴクすっぞ。いや、ゴクゴクするのは新悟か。オラうっかり』
「??まぁ……分かりました」
何がどうなっているのか分からないまま僕はメーちゃんに導かれるがままに湖に向かいました。そして身体をかがめ水を飲もうとすると、僕の目にとんでもないものが映ったではないですか。
「え?」
いえ、目に映ったというのは不適切な表現だったかもしれません。なにせ、僕とおぼしきそれには目玉がなかったのですから………目玉だけではありません。耳も口も、人間が五感を使うために必要な器官全て、それどころか肉も骨も毛もないシンプルすぎる姿になっていたのです。
「こ………これは………」
今の僕の姿は漢字の『大』の上に『〇』をのっけたような姿……そう、端的に言えば。
「棒人間???」
『アハハハハハハハ!!!!なにその頓狂な声!!!???そうだよ、新悟、君は今棒人間になっちゃってるんだ。
いやぁ、まさかこんなことになるとは……アハハハハハハハハ!!!!!ひーっ、おかしっ!!!!』
魂の奥底から響いてくるメーちゃんの笑い声を聞きながら僕は苦しく笑いました。
「ま、まぁこれなら由良江に発見されることもないでしょう……考える時間が増えたと言うことでこれはこれでよしってもんです」
『そうだねぇ、いよっ!!前向き男!!!肉体が無くなっても信念と言う棒だけは無くしていない棒人間!!オラ、ボウボウすっぞ!!』
ボウボウするって何ですか………
取り合えず目的が一つ増えました。僕は僕の肉体も再び取り戻してみせます。
「あはははは」
瞳はないのに涙が流れていく気がしました。