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第8話 棒人間にも五感はあるのです 

『よっす、オラメーちゃん。そしてこいつは相棒の神楽坂新悟!!夢は世界一のプロゲーマーになること!!さてまずは将棋のプロにでもなってみよう!!』


『すいません、がっくり来ている時に完全無欠のおふざけをするの止めてくれませんか?あと多分プロゲーマーの選択肢にプロ棋士は入ってません』


『え?そうなの?オラ女神様だからそういう小さいことは気にしないの。

 にしてもまさかここまで見事な相『棒』になるとはオラも思わなかったよ。いやぁ、神生って何があるか分からないもんだねぇ』


 改めまして、僕の名前は神楽坂新悟、ヤンデレ女が創った新世界に連行され、変な女神に勝手に魂に住みつかれていることが判明し、大いなる力の代償に肉体を失い棒人間になってしまった男です。


『神様になれって言われて、棒人間になれるのはもはや才能だよ才能。新悟はオラが知る限り唯一の棒人間の才能がある生物なんだよ!!』


『あはは~~嬉しくない才能ですねぇ~~~』


 とりあえず僕は誰かいないかと歩きまわっています。今は少し暗いトンネルを通っている最中です。ほんのわずかな音でも反響し、身体に響くような静謐に包まれた場所なのに少しの音も聞こえません……棒である身体は足音一つでないのだなと実感させられます。


『にしてもこれからどうするつもりなの?由良江ちゃんを真人間に正そうって言うけど簡単じゃないと思うよ。特にどこの馬の骨かも分からない棒人間になっちゃった状態じゃね。あっ、馬の棒か』


 馬の棒ってなんですか。まったく……


『…先ほど僕が爆発した時一瞬見えたんです』


『何が?』


『由良江が泣いていたんですよ……嫌だ、逃げないでって……あんな由良江は初めて見ました』


『へーー、あのプライドお化けの由良江ちゃんが泣いたんだ。惜しいことしたなぁ、珍しいもん見逃しちゃった。

 で?何を思ったの?』


 メーちゃんは悪意無く口角を上げています。


『僕は、僕が思うより由良江のことを知らないのだと……僕のことを猟奇的に愛する面ばかりを見てきて、彼女の芯を見てこなかったのではないかと。だから少し見て回ることにしました』


『この新世界を?』


『はい。この世界は由良江が手ずから創ったもの。彼女の心理が反映されていてもおかしくありません……僕は由良江を知り、そして感じ取ったことを持って彼女に僕の心を伝えたいと思います』


 メーちゃんはフワフワ浮きながら頬杖を宙につきます。


『まどろっこしいと思わなくもないけれど、まあいいんじゃない。オラは面白おかしい新悟の姿を特等席で見せてもらうよ』


『ありがとうございます』


 それに一つ気になることがあるんですよね。先ほど高所と思しき場からみた光景……ドラゴンや一反木綿が飛んでいるカオスな光景なのに何故か心当たりがあったんです……ここが僕の想像通りの場所だとしたら………


「うおっ??」


 トンネルを出たと思った途端僕の視界(どこに目があるかは分かりませんが)に絶句したくなるようなものが目に入りました。


『ほえぇ、メーちゃんびっくり』


 そこにそびえていたのは天を衝くほどに大きく、そしてブラックホールのように黒い城でした。優美で壮麗な西洋式の城ではなく、無骨なのに荘厳で勇猛な美しさを放つ日本式の城です……


『黒い城だねぇ。黒なのにシロ……ぷぷぷ』


『どうやってこんなものを建築…いえ、由良江は何でも創造できるんでしたね。

 でもここまで大きかったら住むのも一苦労でしょう』


『めっちゃくちゃ大勢の人が住んでいるのかもしれないね。もしくはバカでかい生物が住んでいるか』


 ま、どちらにしても誰かはいるはずです……この世界がどんな世界なのか……僕の想像している通りの世界なのかどうか確認するとしましょう……


 ごくりと喉が鳴ったような気がしました……喉っぽいところはあるのでひょっとしたら本当に喉が鳴ったのかもしれませ


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「何事です!!??」


 上から悲鳴に近い女性の声が聞こえてきました。まさか、この城から落ちてしまったのでしょうか!!??


 咄嗟に上空を見上げます……刹那、少し柔らかい感触に押しつぶされていきます。ただぐりゃりと自分の身体が曲がっていくのが分かりました。折れるのではなく、くにゃくにゃと曲がっていっているのです。


 そして僕は落下してきた何かと地面にサンドイッチされてしまいました。


『あ~~らら~、でも不幸中の幸いって奴だね。傷一つついてない。骨も内臓もない棒人間の特性ってところかな?ふにゃ棒……じゃなかった、ブラボーブラボー』


「うう……あれ?私……また落ちたのか……ん……なんか違和感が………」


 自分が何かに挟まっているのが分かりました……とっても柔らかくて少し暖かくて…これまでの人生で一番心地よい場所……というかなんだか僕浮いて行ってませんか?あれ?あれ??


「あれ???」


 目の前に黒曜石のように輝く黒い瞳に、カラスの濡れ羽色と言うに相応しい艶やかな黒髪を携えた少女が目に入りました。長い黒髪は左右に少しはねており、翼を想起させます。


 僕は何気なく視線を下に向けてみました……すると


「あっ」


 黒い服の隙間から白い双丘が見えました。そこに僕は刺さっています…えっと………つまり


『うわぁ、おっぱいに挟まってるぅ!!さっすが棒人間、胸に挟まるのはお手の物だね!!新悟、パフパフされてっぞ!!』


「きゃぁぁぁぁぁん!!!!!」


 少女は僕を勢いよく引っこ抜きそのまま全力で振り回してきます。圧倒的な遠心力に引っ張られながら地面がドンドン近づいてくるではないですか。


「痴漢だぁぁぁぁ!!!!」


「ちがっ!!事故で……」


 ドゴンッ!!!!!


『いやぁ、棒人間になって早々美少女のパフパフを受けるなんて幸先いいね新悟』


 どこが……ですか………


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