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第9話 黒歴史だって持ってますよ。人間ですもん

  僕を地面から引っこ抜いてくれた黒い巫女服を着た少女?は腰に帯びていた刀を地面に置いて美しい正座をしています。


「申し訳なかった。私が落下したのが悪かったのに…その胸に挟まったからって………」


「いいんですよ。あれは事故です。それよりちょっと聞きたいことがあるんですが」


「なんだ?暴行を働いた詫びだ、何でも聞いてくれ」


 少し武士の様な口調なのが気になりますが、礼儀正しい方のようですね、これならこの世界のことについて聞けそうです。


「あの……この世界は由良江の奴が創った世界なんで「無礼者!!」…」


 地面に置いてあったはずの黒刀が一瞬にして居合抜きされ僕の首元に突き付けられました。刀の冷たさが僕の神経に伝わります。


「貴様、我らが主である由良江様をなんといった?由良江の奴?ふざけているのか??」


 由良江様?え?由良江様って…東雲由良江のことですか?あの完璧美少女であることを鼻にかけているヤンデレ女のことですか?


『あーあ、女の子の落下にはノーダメージで済んだのに早速斬殺されそう……首を斬られたら流石の棒人間でも終了だよねぇ………ほらほら、頑張らなきゃ、無礼者』


 この女神は人のことだと思って……


「すいませんふざけていないです、真剣です」


『そんな表情も分からない棒人間のくせにふざけていない?』


 好きで棒人間やってるんじゃないですよ。


「……えっと、この世界は由良江が「由良江様だ」………そのお方が創ったんですよね…僕はその人にこの世界に誘拐されてきた者で、神楽坂新悟と申します」


「神楽坂新悟?」


「そうです。知ってますか?」


 女性は刀を鞘に納めた後に穏やかに微笑みました。ああ、良かった、そう思った次の瞬間「痴れ者がぁ!!!」と言う怒号共に思いっきり抜刀をしたではないですが。黒い閃光と共に衝撃が空を駆け、僕の背後にあった木々をなぎ倒していったではないですか。まるでかまいたちが森を通ったかのようです。


「由良江様を罵倒するだけでは飽き足らず、新悟様を騙るとは……なおれ、その胴と顔を切り離してくれるわ」


「正真正銘神楽坂新悟です!!」


「ふっ、そんなシンプルすぎるせいで一周回ってオンリーワンの見た目をしている棒人間の分際でよくもまあそんな嘘をつけるものだ。

 見るが良い」


 僕の首根っこをひっ捕まえた女性は黒い城の中に入城していきました……が、どうやらここが城と言うのは僕の勘違いだったようで。


「うそーーーん」


『キャハハハハハ!!!』


「見ろ、これが由良江様と新悟様だ」


 なんとまぁそこにあったのは夥しいほどの僕(もちろん人間の時の)と由良江の像でした。どうやらここは城ではなく、城の形をした像置き場だったようです。

大きさもポーズも違いますが、とにかく像、像、像です。あの女、タダで創造できるからってこんなに僕と由良江の像を創ることないでしょう…どんだけ承認欲求に満ち満ちているんですか。


「どう見てもお前とは違うだろう。この美しさと勇猛さを兼ね備えた凛々しい姿が新悟様なのだ!!」


 美しさも勇猛さも凛々しさもどこにあるかは知りませんが


「それでも僕は神楽坂新悟なんです」


 少女は明らかな敵意を持って僕を睨みつけてきます。この子にとって東雲由良江と神楽坂新悟とは恐らく尊敬すべき神なのでしょう……そしてそんな神を侮辱した僕は処分の対象……


「まだ言うか、なれば証明をしてみろ」


「証明って…生年月日とか言えばいいんですか?」


「そんな調べれば分かることではたりん。

 私たち選ばれし巫女にしか知らされていないこと…そう、巫女以外には由良江様と新悟様しか知らないことをもし、お前が言えたならば新悟様と認めよう」


 巫女?確かに彼女は黒いとはいえ巫女服を着ています……待てよ……巫女?


『お?どうしたどうした?紛い物?よく分かんないけど棒人間君はちゃんと神楽坂新悟君なんだからそれを証明できるいいチャンスじゃん』


 嫌な予感がするんです…いえ、予感ではなくここまでくれば限りなく確信に近いものが


「私たち5人の巫女はとある使命を帯びている…それを言ってみろ」


 ああ……そんな………そんな………あのヤンデレ女………まさかそう来るとは………なんていう世界を創造したんですか。


「どうした?答えられないのか?」


 黒刀を構え僕の首元に視線を定めます……覚悟を決めるしかないようですね。


「五人の巫女、その目的はこの世界の神……つまり神楽坂新悟の妻となることです」


「なっ!?」


 その設定は…五人の巫女の設定は……それは……


「選ばれた五人の巫女は神が与えし試練を受けることになります…そして試練を乗り越え神の住まう場所『黄昏の寝室』に到達すること……そしてそこで他の巫女よりも自己の価値を神に示し、寵愛を受けること……それが五人の巫女の使命です」


 僕が…中二の時に創ったノートに書かれた設定なんですよ……ありもしない妄想を書き綴り、自己満足に浸るためだけに創った……あのノート。


「そして寵愛を受けた巫女は、女神になるのです」


「そ…そんな……それでは貴方は本当に神楽坂新悟様……」


 あのヤンデレ女…勝手に人の部屋を漁ってノートを読みましたね!!!あんな羞恥に満ちた呪物をよくも……おまけにその設定を使って新世界を創るだなんて………あの女はどこまでも………どこまでもぉぉぉぉぉ!!!!


 良かったです。僕が棒人間になっていて……そうじゃなかったら僕は恥ずかしさと悔しさで血液がどうなっていたか分かりませんから。


『中二ノートの設定を読まれたの!!??それでその設定どおりの世界を創られたと………アハハハハハハハ!!!!なるほど、この世界は新悟の中二設定という精子が由良江ちゃんの『創造』の力に受精してできた、二人の子どもみたいな世界だったってことね』


 メーちゃんの大笑いを魂で感じながら僕は明後日の方を見ました。


 あの女……元の世界に戻ったら訴えてやります。


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