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第10話 『黒烏の巫女』

「無礼を働いてしまい本当に申し訳ございませんでした」


「いえ、良いんですよ。僕だって逆の立場だとこんな棒人間が神楽坂新悟だって疑いますし。もう顔を上げてください」


 僕は土下座をしてしまった黒髪の少女にそう声を掛けました。するとゆっくりと頭が上がってきます。


「切腹を命じられても何ら不思議でない暴挙を働いた私に寛大なお言葉……感服いたします」


 この方は戦国時代から連れてこられたんですかね……


「いえ、そんな大げさなものじゃないですって……えっと、誤解が解けたところでまずは貴女のことを教えてもらいたいんですけど」


「はいっ!!私は烏乃と申します。五人の巫女の一人、『黒烏の巫女』の称号をいただいた若輩者です」


『黒烏の巫女』僕が考えた五人の巫女の肩書の一つです。別に黒烏って普通の烏じゃない?烏って普通黒いですよね、とか今になっては思いますけれど、当時はなんかカッコいいと思ったんですよね……


「由良江様や新悟様と同じ地球人を父に持つ、八咫烏のクォーターです」


「八咫烏の?」


「はいっ。ご存じですか?」


「あれですよね、とっても大きな烏で三本の足があるって言う」


「流石の知識です」


 そんな大したトリビアじゃないのに……上げてくれますねぇ……にしても八咫烏ですか……まぁ一反木綿とかドラゴンもいたんですから八咫烏の一匹や二匹がいても何らおかしくはないですね。


「ところで由良江に巫女を任命されたとのことですが、由良江とはどういう関係ですか?」


 そう問うと烏乃さんは少し楽し気に微笑みました。


「私が元の世界で魔物に襲われている時に通りがかった由良江様に救われたのが始まりです……私の世界に転生してきたという父の地球人の血を由良江様は一目で見抜いたらしくこうおっしゃってくださいました」


『へー、こんなところで同郷の子供を見るなんて奇縁ね。うふふ、仲良くしましょう烏乃』


「そしてしばらくの間由良江様のお供になり、そしてこの世界を由良江様が創造されたときに巫女の一人として任命してくださったんです」


「なるほど……」


 由良江への狂信っぷりは命を救われたのがきっかけですか……ま、由良江なら人の命の一つ二つ救っても驚きはしませんけれどね。なにせ僕以外にとってはヤンデレでも何でもない単なる完璧美少女なんですから。


「供をしている間に新悟様、貴方についての数多くの武勇伝を聞きました」


「武勇伝って、僕はそんな大したことはしてませんよ」


「ご謙遜を、聞きましたよ、由良江様が悪漢に襲われたときに命を賭して守ったとか」


「人間として当然のことをしただけですよ」


「他にも乗り物にひかれそうな猫を助けたとか、大洪水の時氾濫する川を操り地球人や魚たちの命を助けたとか」


 あれぇ?知らない話が出てきましたよ。


「世界征服を目論む悪党どもに由良江様と共に戦いを挑み、愛と勇気だけを武器に勝利したというお話も大変興味深く聞かせていただきました」


「すいません、心当たりが全くないんですけど」


「ふふふ、由良江様は新悟様ならきっと自分の武勇伝を認めないだろうと仰っていました。その通りですね」


「いやだから……」


「それより新悟様、どうしてそのようなシンプル極まりない身体になってしまわれたんですか?」


 どうしてって…まぁそりゃ気になりますよね……でも言っていいんですか?


『言っちゃえばいいじゃん。貴女の尊敬する超絶ヤンデレ女の由良江から逃げる時に女神の力を使った結果、真っ黒な棒になってしまいましたって。貴女の綺麗な黒色とは程遠い、適当極まりない黒棒だって』


 ……言えませんよ………こんな由良江大好きな人に、そんなこと………いえ、上手く言いまわせば何とか……


 そんな風に良い淀んでいる僕の様子をどう読み取ったのか烏乃さんが慌てて言葉を紡いでいきます。


「あっ、やはりお答えいただかなくて結構です……由良江様から新悟様は自分の魂の格を磨き上げるために常に試練に挑んでいるという話も聞きました。きっと今もそういう状態なのでしょう。

 詮索してしまい申し訳ありませんでした」


「いえいえ、別にいいんですよ。あはは」


「とにかく、ここであったのも何かのご縁です。もしよろしければ本日は泊っていってください。精いっぱいおもてなしさせていただきます」


「そうですか。それはありがたいです。よろしくお願いいたしますね」


 はぁ……今日はもう疲れました。とりあえず頭を冷やしましょう………そして頑張って受け入れるとしましょう…この、僕の中二妄想が具現化してしまった世界を。


『え?出会ったばかりの男女がいきなりワンナイト!!??新悟ったら、肉食系だねぇ。最初に全身パフパフされたのを奇貨にしてそのまま一気にまぐわっちゃうのか……ああ、魂に住んでるオラとっても気まずいなぁ、きーまずいなぁ~~~』


 しません。


~~~~~~~~~~~~


 僕は像だらけの倉庫の中にあった居住スペースの一室で少し休んでいました。


『さて、これからどーする棒人間?とりあえず貴方に対して幻想を抱いている烏乃ちゃんの寝室に行って男の本能をぶつけてみる?うら若き美少女が青春真っ盛りの性欲猿を泊めるんだからその覚悟は持ってるんだろうなって言ってみる?』


『しませんよ。それよりまさかこの世界が僕の妄想世界だったとは……』


『お笑いだよねぇ。プクククのク。

 でも変だと思わない新悟』


『何がですか?』


『オラはあんたの中二ノートの設定なんて知らないけど、巫女ちゃん達は黄昏の寝室とやらに行くのが目的なんでしょう。ならどうして烏乃ちゃんはこんなところに住んでるの?旅とかしてるもんじゃないの?』


 言われてみれば……


『既に試練は突破していて今は休憩しているだけとか…この辺に黄昏の寝室があるとかですかね?』


『この辺にあるの?』


『いや、知りませんけ。場所とかそういうものまでは設定してませんでしたし。途中で羞恥心が産まれて押入れに突っ込みましたし』


『ったく、クリエイター魂が足りない男だね。細部まで設定していればこの疑問もとっくに解けていたってのに……ま、いっか。オラはそろそろゲームの時間だからもういくね』


 魂の中なのにゲームできるんですか……


『今日はイベント始まるから気合入れないと…ランキング入ってレアアイテムゲットするぞ!!』


『まさかのオンライン!!??僕の魂ってWi-Fi完備してるんですか!?』


 ジリリリリリリリリィィィィ!!!!!!!!!!!


「なっ?」


 にわかに胸騒ぎのする音が部屋に……いえ、恐らくはこの倉庫全体にけたたましく響き渡りました。


『何かの警報かな?オラ、ワクワクしてきたぞ』


 僕は嫌な予感がしてますよ。


 僕は棒の足を動かして部屋から飛び出ていきました。特に意識もしていないのにさっぱり足音が聞こえないのは棒人間の良いところですかね。




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