どこまでも続くような代わり映えのしない長い廊下、そんな廊下を一所懸命に走りながら僕は一つの真実にたどり着きました。
「警報がされたからってどこで何が起こっているのかさっぱり分かりませんね」
『取り合えず走り出したけど目的地が分からない、いやぁ愚かな人間の人生と同じだね』
「愚かなってところつける必要あります?」
『オラの趣味。
それよかどうするの?勘を頼りに烏乃ちゃんがどこにいるのか見つけるの?無理じゃない?それともあの出るところは出ている身体を男の本能で探り当てられるの?』
そうですよねぇ……さてどうするか『あのさぁ、オラに聞こえないから心で考えるの止めてくれる?ちゃんと口に出すか、オラのいる魂の世界で話してよ』
「何で僕は心で思うことを非難されるんですか…」
『そう言いながらちゃんと口に出してくれるところオラ好きだよ。ま、どこに口があるのか分からないけどねぇ』
ムカつきますねぇ。
そうしているとドゴォォンと言う轟音が身体を揺らしました。
「近いですね」
『持ってるねぇ、でも何かが壊れたような音だけど何があったのかな?』
「見れば分かりますよ」
少し先の曲がり角を曲がると開けた空間に出ました。道場のような雰囲気の空間で、ちょっとしたライブ会場くらいの大きさがあり、大量の掛け軸と僕と由良江の像がいくつか置かれています。
そんな中、烏乃さんが黄土色の髪を携えた女性に壁に押し付けられているようです。彼女の背後の壁には大きな亀裂が走っており、苦悶の表情を浮かべているではありませんか。
「ぐぅぅ……」
「カラスちゃん、貴女みたいな出来損ないが巫女に選ばれるなんてあっちゃいけないって分かるよね」
手も触れていないのに烏乃さんの身体が壁に徐々にめり込んでいってます……これは一体……何が………って、そんなこと今はどうでもいいですね。
「こらーー!!!何やってんですか!!!!???」
『こらーーって、こらーーって……お母さんかな?』
魂の中でメーちゃんが膝を叩いて笑っていますがそんなこと気にしていられません。
「あん?誰だい?この棒人間は」
「誰でもいいでしょう!!そんなことより烏乃を離してください!!何があったか知りませんが一方的な暴力はいけませんよ!!!」
「悪いけど無関係な棒は黙っててちょうだい、これはあたしとこの出来損ないの問題なの」
僕の言葉をのれんのように受け流し、ツカツカと烏乃さんに近づきます。そして胸元で青く光っている首飾りに手を触れました。
「触るな……これは私の………」
「弱い奴にはいらないでしょうに」
紐を引きちぎってそれを自分の懐に入れようとします。
「とるなぁ!!!」
烏乃さんが咆哮するのと同時に腰に帯びていた刀が動きました。鞘に収まったまま黄土色の髪の女性を勢いよく突きます。「ぐぼっ」と呻き声と共に息を吐きだした隙を狙い女性が持っていた首飾りを取り戻しました。
「はぁはぁ……これは私のものだ………絶対に渡さない」
「カラスちゃん……弱いくせに何をするのかなぁ!!??」
烏乃さんの身体が少し浮き、そのまま勢いよく近くの壁にぶつけられました。痛々しい声がこの空間に響き渡りました。
「くっ!!」
見ている暇ではないと僕が走り出すと黄土色の髪の女性が僕をキッと睨みつけ、またしても手を使わずに烏乃さんを移動させました。烏乃さんも抵抗をしようとしているようですが何もすることが出来ないようです。
「あんたは引っ込んでろって言ってるだろ!!!」
「!!??」
そのまま凄まじい勢いで烏乃さんを僕の方にぶち飛ばしてきたではないですか、咄嗟に足を踏ん張り受け止めます。
「くぅぅぅ………ううう……大丈夫ですか?」
悲しいくらい弱々しい姿に成り下がってますが……腕力は衰えていないようですね。
「は…はい………ご迷惑をおかけして申し訳………」
「良いんですよ…それよりこれは一体!!??」
「彼女は……私の持つ………この巫女の証を奪い……巫女になろうとしているんです」
「巫女の証?」
そういえばそんな設定もあったような……調子に乗って巫女の座とて弱肉強食、弱きものは強き者に奪われるのだ……とか書いてしまっていたような………
……………
「分かりました。後は僕に任せてください烏乃さん」
「新悟様?」
「元はと言えば僕のせいなんです………由良江が暴走する前に彼女を正せなかった僕が…」
『あと面倒くさい中二ノートを書いてしまったこともね』
黙ってください。
「だ、ダメです……彼女はシンラーです…」
「シンラー?」
「由良江様がかした試練をクリアし、その対価としてスキルを授かった選ばれし者たちのことです……」
あの女はまた無法なことを……スキルを授与って神気取りですか……って、神気取りでしたね……はぁ………
「相手が鬼神だろうと魔王だろうと関係ありません。こんな理不尽な目に遭っている人を放って置くほど器用な性分じゃないんですよ」
ゆっくりと烏乃さんを床に寝かせ、巫女を狙う女性の前に立ちます。
「ここから先は僕が相手になります」
「はーん?あんたみたいな棒人間がカッコつけちゃって…どうなっても知らないよ」
「どうなるのかは貴女次第ですよ……なんで巫女の座なんてものを狙うんですか?」
「はぁ?」
少女は嘲るように笑い、そして僕を侮蔑するように睨みつけます。
「巫女の座を得ればこの世界の神になる機会が手に入るんだよ。神!!なんて甘美な響きだろう…これ以上に高貴で尊く威厳のある単語をあたしは知らないよ。
由良江様があたしを巫女に選んでくれなかった以上、誰かから奪うしかないじゃん。それがこの世界…いや、全ての世界で最も普遍的で最も原始的、そして最も美しい定理…弱肉強食ってものでしょう」
…神が尊く神が威厳のある存在………僕には到底理解できない価値観ですね。
『神って言ってもピンキリだし、そもそもなそんな偉いもんでもないけどねぇ……オラはほとんどニートみたいな存在だし、って言うか神なんて我がまま放題のゴミ神ばっかりだし。まぁ寿命は人間なんかよりずっと長いから怠惰を極めたいなら目指す価値があるかもしれないけど』
まぁ流石にメーちゃんほどボロカスに言うつもりはないですけど。
「…どうやら説得は無理のようですね……」
「あんたから売ってきた喧嘩!!もう逃げられないよ!!!」
女性の身体から身がすくまんばかりのオーラを感じます。森で遭遇したクマよりも凶暴で力強い……こんな凶暴なオーラを感じたのはいつ以来でしょう………
「獅子はネズミを狩るのにも油断しない!!全身全霊を持ってあたしの力とあたしが由良江様から授かったスキル『重力』(新悟と由良江は引かれあう)!!!を使ってあんたをぶっ飛ばす!!!」
「スキル名がシリアスなバトルに入るネーミングじゃないですねぇ!!!!」
『由良江ちゃんのネーミングセンスってヤンデレってるぅ!』
そーですね!!!